追憶のquiet

makikasuga

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過去の扉

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「葬儀ってことは、その彼女は亡くなったんだよな」
 桜井の問いかけに、コウは頷いた。
「俺もヤスオカさん、あ、前に情報屋のリーダーだった方です。その方に聞いて真相を知ったばかりなんですけど、八年前、ハナムラと当時指定暴力団だった水上組との争いに、レイが巻き込まれたそうです。側にいた蓮見も、そのとばっちりを受けたようで」
「そっか。だからサカさん、水上組の人間を派手にバラしたんだ」
 思い当たる節があるらしく、マキは神妙な顔つきになる。
「見つけたときは虫の息だった。助からないことを蓮見も察知して、レイに自分を殺してくれと懇願した。ハナムラの情報屋は人殺しをしないのがルール。レイはそれを破って、シラサカさんの拳銃で蓮見を……」
 そこから先は言わなくてもわかる。桜井もマキも黙り込んだ。
「でも、話はここで終わりじゃない。レイはヤスオカさんにお願いして蓮見をきちんと弔おうとしていたのに、シラサカさんの襲撃を逃れた水上組長の息子は、蓮見の遺体をバラバラにして埋めた。組を潰された腹いせにハナムラの存在を世間にアピールすべく、学校を襲撃し、俺を拉致して立て込もった」
「それ、ボスがスクランブルかけたやつでしょ。レイとサカさんがSITのふりして校内に入ったって」
「俺も噂で聞いたことがある。上層部が派手に動いてマスコミをねじ伏せた案件があったって」
 ここへきて、マキや桜井にもわかる話になってきたようだ。
「当時の俺は何も知らなかった。それでも、水上に派手にやられて気を失っていたとき、レイの声が聞こえたことだけは覚えてた。後に蓮見の遺体が発見されたことからして、水上が彼女を殺したことはなんとなく察知したよ。蓮見の通夜の日、レイを見かけたから色々聞き出すつもりで近づいたんだけど、様子がおかしくてさ。斎場へ行くのかと思ったら方向転換して、ふらふらしながら家に入り込んだ。いつまで経っても明かりはつかないし、嫌な予感はするしで、捕まること覚悟で家に入ったらレイがナイフを首筋に当ててた。勿論すぐに止めたよ。そしたら、おまえに何がわかる、おまえは俺の何を知っているって、泣きながら叫んでたよ」
 大事な人間を傷つけられた上、無惨な姿を晒される。そんなことをされたら、誰だっておかしくなる。レイが死にたがった気持ちは桜井にも理解出来た。
「今思えば、レイは相当苦しんでいたと思う。蓮見の分まで生きろ、最後まで諦めるなって偉そうに言ったけど、余計にあいつを苦しめたのかもしれない」
「そんなことないよ!」
 マキは目を潤ませながら、コウの右手を両手で握りしめた。
「感謝してるからこそ、レイはコウを助けたんだよ。僕からも言わせて、コウ、レイを救ってくれてありがとう」
「いや、マキ、手は離していいから……」
 いささか過剰気味のスキンシップに、コウは顔を引きつらせる。
「何回かバラそうと思ったけど、やらなくて本当によかった」
「そんなに嫌われてたのか、俺」
「うん。でも今は違うよ。コウはレイの命の恩人だもん」
「こんなに感謝されるなら、もっと早く思い出せばよかった」
「そうとわかってたら、掃除の見学とかしなかったのに……」
 掃除という言葉を受けて、コウはよりいっそう顔をひきつらせた。マキは首を傾げつつ、ようやく手を離した。
「あれはマジでキツかった」
「あの後からだよね、コウが覚悟決めたの」
「これ以上の地獄はないと思ったから、荒療治としてはよかったかもな」
 彼らのやり取りを見ていると、コウが警察の人間ではないことを実感する。マキが柳と呼ぶなといったのは、そういう意味もあってのことだろうか。
「事情はよくわかったけど、問題の彼女は既に亡くなっているぞ。この件が今回の事件にどう関わってきてるんだ?」
「さっき言ってましたよね、公安の蓮見は大事な人間を人質にとられている。レイの問いかけに、蓮見は否定せず私情で動いていることを認めたと」
 コウが念押しするように聞いてきたので、桜井は大きく頷いた。
「蓮見隼人には娘がいます。亡くなった蓮見優衣の従姉妹で名前は桜。当時はまだ小学生でした。斎場で泣いていた姿を覚えています」
「大事な人間とは、蓮見の実の娘のことか」
 桜井の脳裏に意味ありげなレイの言葉が蘇る。

(あんたに、もうひとつ仕事を頼みたい)
(悪人を捕まえて、善良な人間を護る。刑事さんの仕事、そのものだろ)

 なるほどね、蓮見の娘をマークしろってことか。

 狙いはわかったが、桜井は草薙に装備一式を預けたままである。接触したところで、不審に思われるだけだろう。

 何も持たない俺が、どうやってその子を護るんだよ。

 レイの考えが読めず、桜井はひとり考え込むのであった。
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