追憶のquiet

makikasuga

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SystemREI

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 レイはシラサカの運転する車の助手席にいた。

(死のうとしたんだろ、マキを置いて)

 桜井に電話で指摘され、返す言葉に詰まった。動揺を悟られ、桜井はすぐ謝ってきたが、冷静でいることが出来ず、レイは慌てて電話を切った。
「何を言われた?」
 信号待ちで停止したこともあり、シラサカが声をかけてきた。
「別に。マキはナオを連れて浅田家に行った。コウに連絡しておいて正解だったよ」
 あんな突き放し方をしたのだから、事情を知るコウのところへ行くだろうと思っていたが、まさか今夜とは思わなかった。
「マキはずっと気にしていたからな。俺も何度聞かれたことか」
「そうか、悪かったな」
 レイが素直に謝ったからか、シラサカが驚いたような顔をした。
「こんなことでもなきゃ、話せる内容じゃないだろ。ヤスオカさんのことだから、松田先生のところにいたこととかは、コウに話してないと思うけど」
「あの後三人で世話になったから、なんとなく察するんじゃねえの」
 この世界でマキとふたりで生きると約束したのに、あのときは自分のことしか考えられなかった。
 ハルという恋人が出来るまでのマキはひどく不安定で、発作的に自殺を計ろうとしたことが何度かあった。そんな彼を見ていたからこそ、弱味を見せられる状況ではなかったのだ。
「八年経っても、まだ揺り動かされるのかよ……」
 信号が青に変わり、車が走り出す。珍しく弱音を吐いて、レイは移りゆく景色に目を向けた。
「そうだな、一生無理かもな。相手は天国に行っちまってるし」
「傷口広げんな、少しは慰めろ」
 病院に運んだところで、助からないことはわかっていた。それでも彼女は笑っていた。最後までレイを心配し、大好きだという言葉を残して。
「そうしてやりてえけど、俺も同罪だから。護るって言ったのに、酷い目に遭わせちまったからな」
 情報屋は人殺しをしないのがルール。それを破ってレイは優衣をバラした。当時から始末屋のリーダーであったシラサカなら、無理にでも止めることが出来たはず。だが彼はそうしなかった。ふたりの気持ちを汲んで、レイに拳銃を渡したのである。
「あん時言ったろ、最後までつきあうって。優衣ちゃん絡みの案件に関しては、どんなことでもやるよ。勿論金もいらねえから」
「ボスにおとなしくしてろって言われたんじゃなかったのかよ」
「後で怒られればいいだけの話さ」
 普段はヘラヘラして、金の亡者なオッサンのくせに、いざという時には、こうして我を貫く。ハナムラのナンバー2ということもあって、シラサカの単独行動に文句を言う者はいないだろう。
「その台詞、マキやコウに言うなよ。おまえの株がまた上がる」
「はいはい、レイ君の言うとおりにしますよ」
 長いつきあいでもあるし、年上ということもあって、シラサカは余計な事を言わない。過去に仲間や身内を手にかけるという辛い経験をしてきたからこその、懐の深さだろうか。

「それで、彼女の様子はどうだった?」
「至って真面目なお嬢さんだったよ。優衣ちゃんよりおとなしい印象だな」
 レイの依頼を受け、シラサカは蓮見隼人の娘であり、優衣の従姉妹である蓮見桜のアルバイト先へ行っていた。客としてそれとなく近づき、軽く話をして様子を探った。その後レイと合流し、自宅マンションに入り込んで盗聴器を仕掛けてきた。オートロックの解除や鍵開けは、その場でレイがしたことだった。
「誰かに見張られている様子もなかったし、侵入した際にざっと調べただけだが、盗聴器やカメラの類いも見つからなかったぜ」
「となると、交友関係か」
 そう言うと、レイはノートパソコンを軽やかに操作する。
「本当に彼女が狙われているのか?」
「蓮見隼人は脅しても口を割らないタイプだ。草薙に余計な事をするなと言ったことからして、私情で動いていることだけは間違いない」
「他の親類は?」
「妻は二年前に病気で亡くなっている。仕事のせいで看病も看取ることも出来なかったようで、以前からすれ違っていた娘との亀裂が決定的になった。ところが最近、頻繁に娘と接触を持つようになっている。防犯カメラの映像からしても、蓮見が一方的に彼女につきまとっている様子が窺える」
「犯人は、なぜゼロの蓮見に目をつけたんだ。ただの警察官じゃなく、相手は公安だぞ」
「何かやらかしたのか、それとも偶然か、もしくはそこに国家テロレベルの危機が存在するのか、そこはまだわからねえ」
「蓮見と接触した以上、おまえらがハナムラの人間だってことがバレるのは時間の問題だぞ」
「そうなる前に、こっちから仕掛けてやるんだよ」
 レイはノートパソコンのエンターキーを押した。
「三人目の被害者であるフクザワヨシオの自宅にカメラを仕込んだことからして、JTRは顔認識システムを扱える人物だ。四人目の被害者のヤマトコウセイが私立大学非常勤講師だったことからして、JTRは大学の関係者か学生、もしくは併設されている大学院生の可能性が高い。顔認識を使って、ナオの身元を調べることが出来たとするならば、警視庁のデータベースに侵入出来るクラッカーということになる」
「ところで、ナオって誰だよ」
「捜一の刑事のことだよ。マキが二文字呼びがいいって言い張ったから」
「なんだ、あの刑事さんのことか。つーか、そんな親しげにして大丈夫かよ。JTR捕まえたらバラすんだろ」
 桜井のことだと納得した後、シラサカは怪訝な表情になる。
「マキは、公私の区別がつけられないガキじゃない」
「そこを忘れてないならいいけど。それにしてもクラッカーねえ、色々面倒くさそうだな」
 マキ同様、シラサカもコンピューター関係にはあまり強くない。こういったことは全てレイに丸投げしているのである。
「シラサカ、車を停めろ。数秒のことだが、停電を起こす」
「停電って、何するつもりだよ」
 シラサカは慌てて車を路肩に停めた。助手席のレイは、キーボードを軽やかに操作し始める。
「ナオのことは調べられても、俺とマキの情報は辿れなかった。JTRは蓮見を使って俺達のことを探ろうとしたんだよ」
 ハナムラの人間に関わる情報の管理を担っているのは他ならぬレイである。防犯目的で備え付けられているカメラに映ったとしても、レイが作ったプログラムによって、瞬時にそれを削除しているのだから。
「この俺を出し抜こうなんて、甘いんだよ」
 レイが不敵な笑みを浮かべた瞬間、周囲の建物から一斉に明かりが消えた。時間にして三秒程ですぐ復旧した。
「さあ、出てこい、JTR。遊んでやるぜ」
 ノートパソコンの画面は全て「SystemREI」という文字で支配されていた。それはレイのパソコンだけではなく、家電量販店のテレビや個人や企業のパソコン、一部のスマートフォンに及んだ。
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