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No More Bet
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車は地下駐車場へと滑り込んだ。外で規制をかけていたせいか、指定の場所まで停められることはなかった。車から降りた後、マキに鍵を渡そうと桜井が振り返れば、意外な人物に声をかけられた。
「桜井刑事、ご苦労だった」
草薙だった。少し離れた場所に、レイとマキが神妙な顔つきで佇んでいる。
「君を選んで正解だったよ。後は彼らに任せるといい」
「ですが、まだ中に一般人が!?」
「ホテルの客と従業員は全員避難させた。残っているのはJTRと思しき人物のみだ」
「蓮見桜は、蓮見さんのお嬢さんも保護したんですか!?」
「残念ながら、その確認は取れていない」
草薙は淡々と話した。桜井はすぐレイに視線を向けたが、彼は首を横に振るだけだった。
「君はここまででいい。彼らのことは全て忘れろ。私が花村に直接掛け合った。ここで手を引くというのなら、特別に見逃すと約束させた」
どういう手を使ったのかわからないが、草薙は桜井の命を繋いでくれたらしい。
「でも、中に、蓮見さんのお嬢さんが!?」
「彼らと行動を共にした君ならわかるだろう。ここから先は私達が口を出す領域ではない」
「ですが!?」
「命令だ、桜井巡査部長。手を引け」
草薙は権力で抑えつけてきた。警視総監直々の命令なら従うしかないだろう。桜井は唇を噛みしめ、俯いた。いつのまにか握った拳が震えていた。
草薙が桜井の命を救うべく奔走してくれたことは事実だ。有り難いことではあるが、ここで桜井が引き下がれば、悲劇が繰り返されることになる。
再び彼らに視線をやれば、レイは明後日の方向を向いて、携帯で誰かと話していた。隣にいるマキは穏やかな表情をしていた。桜井の脳裏に、二人で話したことが蘇ってきた。
(レイが連れて来いって言ってるから従ってるだけ)
マキはこうなることをわかっていたのだろうか。それなら、あの言葉はなんなのだ?
(レイの前で彼女を死なせたりしないで、必ず救ってあげて)
そうするつもりだった。だからこそ、蓮見さんに助けると言い切ったんだ。
(僕は警察も刑事も公安も大嫌いだけど、ナオだけは嫌いじゃない。何があっても、それだけは嘘じゃないからね)
そうか、そういうことか。
「何の真似だ、桜井刑事」
次の瞬間、桜井はマキから渡された蓮見の拳銃を、草薙に向けていた。
「これが俺の答えですよ、草薙警視総監」
このまま引き下がるか、自分達と共に動くか。どちらを選んでも恨んだりはしない。マキはそう言いたかったのだ。
「彼らと同じ道を歩むつもりなのか」
「蓮見さんと約束しましたから、お嬢さんは必ず助けると」
「高梨君からも懇願されたのだよ、君を生かしてくれと。彼の想いを踏みにじるつもりかい」
あの後、高梨は草薙に直談判したようである。
「悲劇は繰り返さない、繰り返してはならない。何よりあなたに装備一式を奪われた瞬間から、俺は向こう側の人間になりましたから」
草薙は大きな息を吐いた後、表情を緩めた。
「どうしても死にたいというのなら止めやしないが、私の命令を最後まで貫いてくれ」
「命令?」
「最初に伝えたはずだ、犯人を捕まえろと。ハナムラにJTRを渡すな。生きて逮捕しろ」
草薙は、自分を最後まで刑事として扱ってくれるようだ。JTRの逮捕が困難であることはわかっていたが、桜井は頷き、草薙の側を離れ、レイ達の元へ向かった。
「助かる道を蹴って僕達のところに来るなんて、バカじゃないの」
言葉とは裏腹にマキは嬉しそうだった。
「JTRを逮捕するのが俺の役割だから」
「そんなの無理に決まってんじゃん」
「だな。それでも、刑事としてやるべきことをやるだけ」
「バカにつける薬はないからな。ナオ、行くぞ」
話を終えたらしいレイは桜井をチラリと見た後、言った。素っ気ないながらもどこか嬉しそうだった。
「JTRの居場所がわかったのか?」
「そんなものはわかり切っている。蓮見桜に発信機を仕掛けておいたからな。シラサカから表向きの暗殺者の処分は済んだという連絡がきた。まだ潜んでいる可能性があるから、油断するなよ」
「大丈夫、ナオのことは僕が護ってあげるから」
マキは拳銃に銃弾を装填していた。どうせ殺されるのだから、護らなくてもいいのにと思ったが、それがマキの精一杯の気持ちだということは伝わった。
「ああ、任せるよ」
こうして、最後の戦いの幕が開けた。
「桜井刑事、ご苦労だった」
草薙だった。少し離れた場所に、レイとマキが神妙な顔つきで佇んでいる。
「君を選んで正解だったよ。後は彼らに任せるといい」
「ですが、まだ中に一般人が!?」
「ホテルの客と従業員は全員避難させた。残っているのはJTRと思しき人物のみだ」
「蓮見桜は、蓮見さんのお嬢さんも保護したんですか!?」
「残念ながら、その確認は取れていない」
草薙は淡々と話した。桜井はすぐレイに視線を向けたが、彼は首を横に振るだけだった。
「君はここまででいい。彼らのことは全て忘れろ。私が花村に直接掛け合った。ここで手を引くというのなら、特別に見逃すと約束させた」
どういう手を使ったのかわからないが、草薙は桜井の命を繋いでくれたらしい。
「でも、中に、蓮見さんのお嬢さんが!?」
「彼らと行動を共にした君ならわかるだろう。ここから先は私達が口を出す領域ではない」
「ですが!?」
「命令だ、桜井巡査部長。手を引け」
草薙は権力で抑えつけてきた。警視総監直々の命令なら従うしかないだろう。桜井は唇を噛みしめ、俯いた。いつのまにか握った拳が震えていた。
草薙が桜井の命を救うべく奔走してくれたことは事実だ。有り難いことではあるが、ここで桜井が引き下がれば、悲劇が繰り返されることになる。
再び彼らに視線をやれば、レイは明後日の方向を向いて、携帯で誰かと話していた。隣にいるマキは穏やかな表情をしていた。桜井の脳裏に、二人で話したことが蘇ってきた。
(レイが連れて来いって言ってるから従ってるだけ)
マキはこうなることをわかっていたのだろうか。それなら、あの言葉はなんなのだ?
(レイの前で彼女を死なせたりしないで、必ず救ってあげて)
そうするつもりだった。だからこそ、蓮見さんに助けると言い切ったんだ。
(僕は警察も刑事も公安も大嫌いだけど、ナオだけは嫌いじゃない。何があっても、それだけは嘘じゃないからね)
そうか、そういうことか。
「何の真似だ、桜井刑事」
次の瞬間、桜井はマキから渡された蓮見の拳銃を、草薙に向けていた。
「これが俺の答えですよ、草薙警視総監」
このまま引き下がるか、自分達と共に動くか。どちらを選んでも恨んだりはしない。マキはそう言いたかったのだ。
「彼らと同じ道を歩むつもりなのか」
「蓮見さんと約束しましたから、お嬢さんは必ず助けると」
「高梨君からも懇願されたのだよ、君を生かしてくれと。彼の想いを踏みにじるつもりかい」
あの後、高梨は草薙に直談判したようである。
「悲劇は繰り返さない、繰り返してはならない。何よりあなたに装備一式を奪われた瞬間から、俺は向こう側の人間になりましたから」
草薙は大きな息を吐いた後、表情を緩めた。
「どうしても死にたいというのなら止めやしないが、私の命令を最後まで貫いてくれ」
「命令?」
「最初に伝えたはずだ、犯人を捕まえろと。ハナムラにJTRを渡すな。生きて逮捕しろ」
草薙は、自分を最後まで刑事として扱ってくれるようだ。JTRの逮捕が困難であることはわかっていたが、桜井は頷き、草薙の側を離れ、レイ達の元へ向かった。
「助かる道を蹴って僕達のところに来るなんて、バカじゃないの」
言葉とは裏腹にマキは嬉しそうだった。
「JTRを逮捕するのが俺の役割だから」
「そんなの無理に決まってんじゃん」
「だな。それでも、刑事としてやるべきことをやるだけ」
「バカにつける薬はないからな。ナオ、行くぞ」
話を終えたらしいレイは桜井をチラリと見た後、言った。素っ気ないながらもどこか嬉しそうだった。
「JTRの居場所がわかったのか?」
「そんなものはわかり切っている。蓮見桜に発信機を仕掛けておいたからな。シラサカから表向きの暗殺者の処分は済んだという連絡がきた。まだ潜んでいる可能性があるから、油断するなよ」
「大丈夫、ナオのことは僕が護ってあげるから」
マキは拳銃に銃弾を装填していた。どうせ殺されるのだから、護らなくてもいいのにと思ったが、それがマキの精一杯の気持ちだということは伝わった。
「ああ、任せるよ」
こうして、最後の戦いの幕が開けた。
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