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No More Bet
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『イソダの身内は、大学生の弟だけだったな』
桜井が考えていると、レイがアプローチを変えてきた。
「イソダの両親は幼いときに亡くなり、他に身内もなく二人は施設で育った。弟を大学に行かせるため、イソダは高校卒業後に社会に出た。なんでも弟はとても優秀で──」
再びはっとした。確かに弟なら何の警戒もしないだろう。
「まさか、イソダの弟がJTRなのか!?」
後部座席からマキが透明のファイルを差し出した。書類にはイソダショウという名前と顔写真。更に経歴が記されていた。
『高校二年のとき、国家機密を覗き見したことが公安にバレて注意を受けたことがある。当時からコンピューター関係の知識は秀でていた。以来、なりを潜めていたようだが、裏では兄の肩書きと経歴を使って活動していたようだぜ』
「切り裂きジャックの裏サイトに出入りしていたハンドルネーム、モリアーティもこいつだったってことかよ!?」
『IPアドレスから個人を特定することが出来たとしても、辿り着くのはイソダジュンジってことだけ。こいつは頭が切れる。子供だからと高をくくって放置した公安がバカなんだよ。サイバー対策課にスカウトしてもいいくらいだぜ』
レイがここまで言うのだから、イソダショウの技術は相当なものなのだろう。
「つまり、JTRは蓮見のことを知っていて、近づいたってことか」
『どこまで知っていたかはわからんが、娘の桜に近づいたのは、蓮見がゼロであることをわかってのことだろう。後は本人に会って直接聞け』
レイとの通信はそこで切れた。同時に、カーナビが目的地が近いことを知らせる。それを示すように、赤色灯が目に入り、警察官が行く手を塞いでいた。桜井は一旦車を停め、窓を開けて警察手帳を提示する。制服を着た警察官はご苦労様ですと言って通行を許可した。後部座席のマキにも軽く会釈をした。
「刑事に見えたみたい、よかった」
バッグミラーを見れば、ネクタイこそだらしなく結んだままだが、黒いスーツを着て、灰色の右目を封印したマキがいる。
「よく似合ってるぜ」
「そりゃどうも。これなら偽の手帳はいらないかな」
「そんなものまであるのかよ」
「仕事で使うことがあるから、小道具は色々準備してるよ」
そう言うと、マキはバッグミラー越しに警察手帳を見せた。
「でも、僕はナオと違って刑事にはなれないから。こんな仕事をしていなかったとしても、その道を選ぶことは無かったと思うよ」
「だったら尚更、こうして会えてよかった。最後の仕事がおまえ達と一緒でよかったよ」
何より桜井は彼らのことを知りすぎている。最初から殺す前提で全てを打ち明けてきたのだから。
「犯罪者と一緒の仕事なんて最低だよね」
「そんなことない。おまえらにも、おまえらなりの正義があるってこと、わかったから」
むしろ桜井の方が、マキ達の世界に足を突っ込んでいるのかもしれない。彼らを否定出来ない時点で、桜井は警察官失格なのだから。
「正義ねえ。そんなものクソ食らえだよ。僕は警察も刑事も公安も大嫌いだけど、ナオだけは嫌いじゃない。何があっても、それだけは嘘じゃないからね」
バッグミラー越しにマキが笑った。昨夜二人で酒を飲み明かしたときのように、穏やかな表情で。
桜井が考えていると、レイがアプローチを変えてきた。
「イソダの両親は幼いときに亡くなり、他に身内もなく二人は施設で育った。弟を大学に行かせるため、イソダは高校卒業後に社会に出た。なんでも弟はとても優秀で──」
再びはっとした。確かに弟なら何の警戒もしないだろう。
「まさか、イソダの弟がJTRなのか!?」
後部座席からマキが透明のファイルを差し出した。書類にはイソダショウという名前と顔写真。更に経歴が記されていた。
『高校二年のとき、国家機密を覗き見したことが公安にバレて注意を受けたことがある。当時からコンピューター関係の知識は秀でていた。以来、なりを潜めていたようだが、裏では兄の肩書きと経歴を使って活動していたようだぜ』
「切り裂きジャックの裏サイトに出入りしていたハンドルネーム、モリアーティもこいつだったってことかよ!?」
『IPアドレスから個人を特定することが出来たとしても、辿り着くのはイソダジュンジってことだけ。こいつは頭が切れる。子供だからと高をくくって放置した公安がバカなんだよ。サイバー対策課にスカウトしてもいいくらいだぜ』
レイがここまで言うのだから、イソダショウの技術は相当なものなのだろう。
「つまり、JTRは蓮見のことを知っていて、近づいたってことか」
『どこまで知っていたかはわからんが、娘の桜に近づいたのは、蓮見がゼロであることをわかってのことだろう。後は本人に会って直接聞け』
レイとの通信はそこで切れた。同時に、カーナビが目的地が近いことを知らせる。それを示すように、赤色灯が目に入り、警察官が行く手を塞いでいた。桜井は一旦車を停め、窓を開けて警察手帳を提示する。制服を着た警察官はご苦労様ですと言って通行を許可した。後部座席のマキにも軽く会釈をした。
「刑事に見えたみたい、よかった」
バッグミラーを見れば、ネクタイこそだらしなく結んだままだが、黒いスーツを着て、灰色の右目を封印したマキがいる。
「よく似合ってるぜ」
「そりゃどうも。これなら偽の手帳はいらないかな」
「そんなものまであるのかよ」
「仕事で使うことがあるから、小道具は色々準備してるよ」
そう言うと、マキはバッグミラー越しに警察手帳を見せた。
「でも、僕はナオと違って刑事にはなれないから。こんな仕事をしていなかったとしても、その道を選ぶことは無かったと思うよ」
「だったら尚更、こうして会えてよかった。最後の仕事がおまえ達と一緒でよかったよ」
何より桜井は彼らのことを知りすぎている。最初から殺す前提で全てを打ち明けてきたのだから。
「犯罪者と一緒の仕事なんて最低だよね」
「そんなことない。おまえらにも、おまえらなりの正義があるってこと、わかったから」
むしろ桜井の方が、マキ達の世界に足を突っ込んでいるのかもしれない。彼らを否定出来ない時点で、桜井は警察官失格なのだから。
「正義ねえ。そんなものクソ食らえだよ。僕は警察も刑事も公安も大嫌いだけど、ナオだけは嫌いじゃない。何があっても、それだけは嘘じゃないからね」
バッグミラー越しにマキが笑った。昨夜二人で酒を飲み明かしたときのように、穏やかな表情で。
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