追憶のquiet

makikasuga

文字の大きさ
39 / 60
No More Bet

しおりを挟む
「色々準備があるからさ、ナオが運転してくんない?」
「それはかまわねえけど、行き先は? さっきいってたホテルってどこだよ」
 車内にマキ以外の人物は見当たらず、運転するのは桜井しかいない。桜井は運転席に乗り込み、シートとミラーを合わせた後、エンジンをかけた。すぐさまカーナビが立ち上がり、目的地までのコースを示した。
「ナビ通りに運転すればいいよ。レイ、今どこ?」
 最後の言葉に反応するように、カーナビの画面が右半分に縮小され、左半分に黒縁の眼鏡をかけたレイの顔が写り込む。
『ホテルの地下駐車場だ。車は8A15に停めろ。草薙が手を回したようだから、これから先、出入り禁止になる。マキ、右目にコンタクトを入れて着替えろ』
「出遅れたせいで警察ごっこか。堅苦しいの、苦手なのに」
 マキは不服そうにしながら、後部座席の下にある透明の衣装ケースを開けて服を取り出す。シャツを羽織りネクタイをだらしなく結んだ後、ジーンズから黒のスラックスへと履き替えていく。
『蓮見は何か言ってたか?』
「レイの予想通りだったよ。あの事件のことも知ってた」
「政治資金パーティーで死人が出たって、どういうことだよ」
 我慢出来なくなって、桜井は二人の会話に割り込んだ。
『捜査一課に話は回っていなかったのか。八年前、ある議員の政治資金パーティーに暗殺者が集結した。彼らは参加者を皆殺しにし、自分が生きるために人を殺すという主張を正当化しようとした』
「そんな話、聞いてないぞ!」
『都心で凄惨なテロが起きたことは、秘密にしておきたいんだろ』
 ここでもまた「Keep it quiet」ということかと、桜井は小さく溜息をついた。考えている以上に、ハナムラという組織は警察や公安と深い関わりがあるようだ。
「それを収めたのがおまえ達ってことかよ」
『仕方なくだ。俺もマキもシラサカも怪我をしたから、被害者でもある』
「あのときサカさんがバラさなきゃ、東京だけじゃなく日本は崩壊してたよ」
 レイ達が負傷するくらいだ、かなりの強敵だったのだろう。
「八年前の再来ってことか」
『単なる模倣犯だ。詰めが甘すぎるからな』
 そう言うと、レイは不敵に笑った。
「レイ、JTRの正体わかってんだろ。いい加減教えろよ」
 正体を問い質そうとしたときに蓮見がやってきたため、有耶無耶になってしまっていた。レイは、四人目以降の被害者であるヤマトコウセイ、イソダジュンジ、サクラダマリの三人の中にJTRがいるようなことを言っていた。
『行けばわかることだが、特別に教えてやるよ。結論から言えば、JTRは表向き五人目の被害者であるイソダジュンジだ』
「けど、イソダは死んでる。勤務先の高層ビルの屋上で遺体が発見された。鑑識も身内も本人だと認めているんだぞ!」
 何よりレイ自身が、イソダジュンジが死んだことを認めていたはずである。
『イソダジュンジの殺害現場は、死体発見場所である高層ビルの屋上。当然、事件当日に出入りした人間は調べてるよな?』
「ああ、全員シロだったよ」
 イソダジュンジの勤務先である高層ビルには複数のテナントが入っており、防犯カメラの映像から事件当日に出入りした人間を全員調べたが、不審人物は見当たらなかった。
『覚えてるか、三人目の被害者のフクザワヨシオ宅で俺が話したこと』
 レイは桜井を試すように聞いてきた。
「フクザワは自宅の寝室で自殺しようとしていたが、別の人間によって運び出され、別の場所で殺害された」
『その後は?』
「傷を負ったフクザワを運び出したのは、誰なのかはわからない。マンションの防犯カメラの映像にも──」
 はっとした。そしてレイが言わんとしていることに気づいた。
「イソダの殺害現場の防犯カメラも、事前に細工されていたってことかよ!?」
『そうだ。フクザワの死の真相に気づかない限り、この事実にはたどり着けない』
 背中が震えた。違法だと知りながらも、草薙がレイを頼った理由はこれだったのだ。
『防犯カメラの映像に細工を施し、尚且つ、イソダジュンジ本人に怪しまれず、彼に近づける人物は誰だ?』
 イソダジュンジは周りから好かれていた。六人の被害者の中で一番若いということもあって、彼の死を悼む声も多かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...