追憶のquiet

makikasuga

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No More Bet

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「やっぱりナオは刑事なんだなぁ」
 桜井が言い放つと同時に助手席の扉が開け放たれ、マキが乱入してきた。外見にそぐわない力で桜井を引きずり出す。
「彼をどうするつもりだ!?」
 蓮見は桜井からマキに銃口を向けたが、彼は動じなかった。
「どうするもこうするも、レイが連れて来いって言ってるから従ってるだけ」
「それなら、代わりに俺を連れて行け」
「嫌だよ。あんた、何の役にも立ちそうにないもん」
 マキはそう言って蔑むように笑う。ムッとした蓮見が引き金を引こうとすれば、マキは車内に押し入り、彼の手にある拳銃を片手で抑えつけた。
「持ち慣れていないの、丸分かりだよ」
 マキはクスクスと笑いながら、蓮見の手から拳銃を奪い取った。
「殺したければ、今すぐ殺せ!」
「悪いけど、そんな余裕はないんだ」
 奪った拳銃を手にしたまま、マキは車から降り、外で呆然と佇む桜井を見て表情を緩めた。
「なんて顔してんの、ほら、行くよ」
「行くってどこに?」
「JTRが都内のホテルで騒ぎを起こした。ハナムラのボスがいることをわかった上でね。そういうわけだから、ナオはもうJTRを逮捕しなくていい。彼は僕らの処分対象になったから」
「処分対象?」
「ハナムラに反旗を翻すものには罰を与える。それがルールさ」
 背中がぞくりと震えた。今までのマキとは別人のように纏うオーラが変わっていた。
「レイのことだから、草薙に話を通してると思う。おそらく八年前と同じように、SITのフリして接触するはず」
「だったら尚更、俺は用済みだろ」
 桜井は、切り裂きジャック事件の犯人を逮捕するためだけに呼ばれた存在である。
「本来はそうなるところだけどね。レイはナオを連れて来いって言ったから」
 そう言うと、マキは蓮見の拳銃を差し出した。H&K USP。ドイツの銃器メーカーH&K社が開発した軍、警察用の自動拳銃。日本の特殊急襲部隊(通称 SAT)が装備しているといわれているものだ。
「JTRは蓮見桜と二人きり。彼女の前でサカさんに発砲したみたい」
「おい、桜は無事なんだろうな!?」
 話を聞いたらしい蓮見が顔を覗かせてきた。
「今のところはね。でもJTRが僕達の処分対象になった以上、一緒にいる彼女も同等と見なされる。二人がボスの前に顔を出したりしたら、言い訳出来ない。僕もサカさんもハナムラの人間だから、ボスを第一に考える。勿論レイも同じ。彼女を助けられるのは、捜査一課の刑事であるナオしかいない」
 マキが拳銃を渡したこと、桜井の手元に警察手帳と赤バッジが返された意味をようやく理解した。
「レイの前で彼女を死なせたりしないで、必ず救ってあげて」
 マキが蓮見桜を救おうとするのは、八年前と同じ悲劇を繰り返さないというレイの想いを汲み取った形でもある。

 これがこいつらの正義なんだな。

 マキの言葉に頷き、桜井は拳銃を手にした。
「蓮見さん、あんたの銃、借りるぜ」
「やめておけ、殺されに行くようなものだ」
 蓮見は複雑な顔で桜井を見つめていた。
「あなたの娘さんは、必ず助けますから」
「なぜだ、なぜ、君はそこまでして!?」
「それが俺の仕事であり、使命ですから」
 我ながら青臭い台詞だと思ったけれど、桜井の嘘偽りない気持ちでもある。
 武器は人を助けるために持つもの。その信念に従って引き金を弾く。その結果、どうなろうとも後悔しない。
「そういうわけだから、あんたをバラしてる時間はないの。特別に見逃してあげるから好きにしな」
 マキは桜井を連れて、その場を去ろうとする。
「待ってくれ、あの子は、桜は今、どこにいる!?」
 二、三歩進んだところで、背後から蓮見がやってきた。
「頼む、教えてくれ、何も出来なくてもいい、あの子の側にいたいんだよ!」
 マキは大きな息を吐いた後、立ち止まって振り返った。
「八年前、都内にある高級ホテルで政治資金パーティーが開かれた。公にはなってないけど、財界人を含めた出席者のほとんどが死亡した。あの騒動を誰が収めたのか、あんたは知ってるよね?」
 心当たりがあるのだろう、蓮見の顔色が変わった。
「同じ場所で同じことが起きようとしている。警察も公安もこれを収めることが出来んの? 無理だよね。綺麗事を吐いて僕達を蔑んでも、あんたらは何も出来やしないんだから」
 言うだけ言って、マキは前方を向いて歩き出し、路肩に停めてある黒い車の後部座席に乗り込む。蓮見は悔しそうに唇を噛んでいるだけで、反論することはなかった。
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