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No More Bet
①
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桜井は有無を言わせず蓮見の車に乗せられた。車は急発進し、かなりのスピードで走り始める。
「どこへ行くつもりだよ」
桜井の問いかけに、蓮見は反応しなかった。厳しい顔つきを崩すことなく、前だけを見つめ続けている。
「レイを連れて行いって言われてんのに、俺ひとりを連れ出しても意味がないだろ」
「静かにしろ」
蓮見の左手には拳銃が握られていた。躊躇うことなく、桜井に銃口を向ける。
「あんた、レイのこと誤解してる」
それでも桜井は怯まなかった。
「確かにあいつ、いや、あいつらは許されないことをしている。けど、無差別に人を殺したりはしてな──」
信号待ちで止まったこともあってか、蓮見は右手に拳銃を持ち替え、銃口を桜井の体に押しつけてきた。
「だったら、なぜ優衣は殺された? あの子が何をしたというのだ!? ハナムラの人間に関わっただけで、無残な殺された方をしたというのに!」
蓮見は感情を露わにした。八年前のことを今尚レイが引きずるように、蓮見も過去に捕らわれ続けている。
「ハナムラと水上組の抗争だったこと、真相が闇に葬られることはわかっていた。それでも、被害者遺族の立場として、優衣がなぜあんな死に方をしたのかを知りたかった」
信号が青に変わる。後ろからクラクションを鳴らされ、蓮見はハザードランプを点灯させて路肩に車を停めた。
「事情を知るハナムラの人間に会わせてくれと頼んだが、草薙さんの返事はノーだった。何度掛け合っても同じだった。やがて事件は有耶無耶にされ、忘れ去られた。何一つわからないままで」
八年分の哀しみと後悔が溢れ出る。公安という立場もあってか、蓮見は事件に口を出すことすら出来なかったようだ。
「それでも私は諦めなかった。仕事の傍ら、時間を見つけて優衣の周辺を調べることにした。やがて安岡零という生徒と関わりがあったことを突き止めた。記録によれば、事件後退学し、アメリカの大学へ留学した後に事故死していた。彼の写真は一枚も残されておらず、現地の人間に確認したところ、そんな事故は起きていなかった。改めて安岡零という人物の記録を調べてみれば、存在しないことがわかった。ハナムラの人間は戸籍を持たない亡霊だと聞いていたから、こいつがそうなのかと思ったよ」
ここまで調べ上げるのにどれほどの時間を費やしたのだろう。蓮見の執念が窺えた。
「調べられたのはここまでだった。それ以上はどうやってもわからない。八方塞がりの状態が何年も続き、ここまでかとさすがに諦めていたが、八年後の今、彼らは姿を現した」
蓮見はJTRを追って、フクザワヨシオの自宅マンションにやってきた。しかもレイをJTRだと思い込んでいた。ふたりの出会いは運命の悪戯と言うべきだろうか。
「レイという名前で確信した。こいつが優衣を殺した悪魔だとな」
「さっきも言ったけど、あれはレイのせいじゃなくて」
「直接手を下してなくとも、同じことだ」
桜井の言葉を遮り、蓮見は言った。
「警察の上層部はハナムラを必要悪として認めている。今回の事件解決に彼らを引っ張り出したことがそれを示している。警察とはなんだ? 差し障りのない事件だけを捜査し、表向きの正義を振りかざすだけの存在か? 国を護るという名目で平気で人を切り捨てる公安警察も同じ。都合の悪いものには蓋をして、何も無かったようにする。皆、踊らされているだけ、正義なんてこの世界のどこにもないんだよ!」
桜井も警察という大きな組織の中に飲み込まれ、理想と現実のギャップを思い知らされた。蓮見が言うように、都合の悪いことはもみ消され、何も無かったようにする。一部のメディアが不祥事を明らかにしても、氷山の一角に過ぎない。
「その通りだよ、蓮見さん。それがわかっているからこそ、俺達が諦めたら終わりなんだ」
闇に葬られて消えていく事件。泣き寝入りするしかない人々。それでも救われる人達も確実にいる。
「誰かが助けを求めているなら、手を差し伸べる。それが出来るのは俺達しかいないんだから」
法の元で犯罪を捜査し、被疑者を逮捕する権利を持つのは警察官だけ。だから桜井は、自分の中の正義を貫き通すと決めた。どんな理由があろうと、誰が何を言おうともだ。
「どこへ行くつもりだよ」
桜井の問いかけに、蓮見は反応しなかった。厳しい顔つきを崩すことなく、前だけを見つめ続けている。
「レイを連れて行いって言われてんのに、俺ひとりを連れ出しても意味がないだろ」
「静かにしろ」
蓮見の左手には拳銃が握られていた。躊躇うことなく、桜井に銃口を向ける。
「あんた、レイのこと誤解してる」
それでも桜井は怯まなかった。
「確かにあいつ、いや、あいつらは許されないことをしている。けど、無差別に人を殺したりはしてな──」
信号待ちで止まったこともあってか、蓮見は右手に拳銃を持ち替え、銃口を桜井の体に押しつけてきた。
「だったら、なぜ優衣は殺された? あの子が何をしたというのだ!? ハナムラの人間に関わっただけで、無残な殺された方をしたというのに!」
蓮見は感情を露わにした。八年前のことを今尚レイが引きずるように、蓮見も過去に捕らわれ続けている。
「ハナムラと水上組の抗争だったこと、真相が闇に葬られることはわかっていた。それでも、被害者遺族の立場として、優衣がなぜあんな死に方をしたのかを知りたかった」
信号が青に変わる。後ろからクラクションを鳴らされ、蓮見はハザードランプを点灯させて路肩に車を停めた。
「事情を知るハナムラの人間に会わせてくれと頼んだが、草薙さんの返事はノーだった。何度掛け合っても同じだった。やがて事件は有耶無耶にされ、忘れ去られた。何一つわからないままで」
八年分の哀しみと後悔が溢れ出る。公安という立場もあってか、蓮見は事件に口を出すことすら出来なかったようだ。
「それでも私は諦めなかった。仕事の傍ら、時間を見つけて優衣の周辺を調べることにした。やがて安岡零という生徒と関わりがあったことを突き止めた。記録によれば、事件後退学し、アメリカの大学へ留学した後に事故死していた。彼の写真は一枚も残されておらず、現地の人間に確認したところ、そんな事故は起きていなかった。改めて安岡零という人物の記録を調べてみれば、存在しないことがわかった。ハナムラの人間は戸籍を持たない亡霊だと聞いていたから、こいつがそうなのかと思ったよ」
ここまで調べ上げるのにどれほどの時間を費やしたのだろう。蓮見の執念が窺えた。
「調べられたのはここまでだった。それ以上はどうやってもわからない。八方塞がりの状態が何年も続き、ここまでかとさすがに諦めていたが、八年後の今、彼らは姿を現した」
蓮見はJTRを追って、フクザワヨシオの自宅マンションにやってきた。しかもレイをJTRだと思い込んでいた。ふたりの出会いは運命の悪戯と言うべきだろうか。
「レイという名前で確信した。こいつが優衣を殺した悪魔だとな」
「さっきも言ったけど、あれはレイのせいじゃなくて」
「直接手を下してなくとも、同じことだ」
桜井の言葉を遮り、蓮見は言った。
「警察の上層部はハナムラを必要悪として認めている。今回の事件解決に彼らを引っ張り出したことがそれを示している。警察とはなんだ? 差し障りのない事件だけを捜査し、表向きの正義を振りかざすだけの存在か? 国を護るという名目で平気で人を切り捨てる公安警察も同じ。都合の悪いものには蓋をして、何も無かったようにする。皆、踊らされているだけ、正義なんてこの世界のどこにもないんだよ!」
桜井も警察という大きな組織の中に飲み込まれ、理想と現実のギャップを思い知らされた。蓮見が言うように、都合の悪いことはもみ消され、何も無かったようにする。一部のメディアが不祥事を明らかにしても、氷山の一角に過ぎない。
「その通りだよ、蓮見さん。それがわかっているからこそ、俺達が諦めたら終わりなんだ」
闇に葬られて消えていく事件。泣き寝入りするしかない人々。それでも救われる人達も確実にいる。
「誰かが助けを求めているなら、手を差し伸べる。それが出来るのは俺達しかいないんだから」
法の元で犯罪を捜査し、被疑者を逮捕する権利を持つのは警察官だけ。だから桜井は、自分の中の正義を貫き通すと決めた。どんな理由があろうと、誰が何を言おうともだ。
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