追憶のquiet

makikasuga

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ルーレットが回り出す

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 桜井を自宅マンション近くで降ろした後、レイは路上に出てパーキングメーターに車を停めていた。ここでも車内から降りることはせず、右耳に通信機をセットし、ノートパソコンを操作して、桜井達の会話を聞き、途中から割り込んだ。そこへ蓮見が乱入し、桜井を盾にしてレイを呼び出そうとした。ここまでは全て予想の範疇である。

(あの子を、あんな目に遭わせて。俺が知らないとでも思っているのか!?)

 側に高梨がいたから言葉を濁したが、蓮見は優衣が死んだ事件にレイが関わっていたことを知っていた。これもまた予想の範疇ではあったのだが、レイは動揺し、桜井との通信を自分から切ってしまった。

 そうだ、俺が殺した。だから、責められて当然なんだよ。

 レイは唇を噛みしめ、両手で顔を覆った。

『誰が何を言おうと、僕は知ってる。レイが彼女を助けるために奔走したこと』
 通信機から聞こえてきたマキの声で、レイは我に返った。
『何よりその彼女が、一番わかってくれてると思う』
 早朝レイが帰宅した際、マキはおかえりと言って抱きついてきただけで、何も言わなかった。責めることも慰めることもせず、レイが離れろとしつこく言っても、なかなか離れようとしなかった。
「ありがとな、マキ」
 おかげで冷静になれた。過去を悔やんでいる暇なんかない。今はただ、自分に出来ることをするだけ。
『この仕事が片づいたらさ、ふたりでステーキ食べに行こうよ』
「そうだな。マキ、仕事の話に戻るが」
『ナオと蓮見は車で移動中。これだけ変装してたらわかんないだろうから、ふたりに張りつくよ』
 マキはレイに代わって、桜井の自宅マンション近くに車で来ていた。左右で目の色が異なり、可愛らしい外見のマキを目立たせないようにと、事前に右目にはコンタクト、女性用のカツラを身につけさせた。これなら近づかない限り、男性とはわからない。
「ああ。全て任せるよ。シラサカ、そっちの様子はどうだ?」
『二人仲良く電車で移動中。誘拐されてるとは思えない感じだな』
 シラサカには朝から蓮見桜の自宅を張り込ませていた。シラサカもマキ同様の目立つ外見のため、グレーのキャスケット帽を被らせ、両目に黒目のコンタクトに入れて、メガネをかけさせてある。
『嫌な予感、的中しちまったな』
 既にJTRは桜と接触していた。シラサカはつかず離れずの距離で二人を尾行しているのである。
『恋人じゃないのが嘘みたいなラブラブっぷりだぜ』
「彼女も駒のひとつなだけさ」
 自分は手を汚さず、裏から手を回して計画を実行する。六人目を手にかけ、表舞台に上がるまでのJTRは、モリアーティを彷彿させるものがあった。
「二人共、JTRのことは頭に入ってんだろうな」
 レイは昨夜のクラッキング行為からJTRと思しき人物を特定していた。マキには資料を手渡し、シラサカにはメールで顔写真と経歴を添付しておいた。
『昨日の事からして、おまえに成り代わりたいって感じだよなあ』
『レイに成り代わるなんて無理に決まってんじゃん。ところでサカさん、昨日って何?』
『昨夜、都内が一瞬停電しただろう』
『何それ、知らないよ』
 シラサカとマキも通信装置で繋がっており、それぞれ勝手に話している。
「マキがコウと会ってる間にやったからな。浅田家は管轄外にしてある。都内の一部で通信障害が発生程度の扱いに留めてあるから、公にはなってねえよ」
 そのような扱いにしたのは、草薙の手引きによるものであるが。
『てゆーかさ、ハナムラの情報屋に手を出すなんて、ただのバカとしか思えないんだけど』
 さも当然のように言い切るマキ。
『知らないからこそ出来ることもある。ビキナーズラックって言葉もあるぐらいだしな』
 シラサカが言うようにJTRは裏の世界を知らない。だからこそ、桜井を使ってレイを呼び出そうとした。当然蓮見は断っただろう。レイがハナムラの人間であり、その組織がどういうものかを話して聞かせたかもしれない。
『それをわかって、わざと煽ったんじゃねえのかよ』
「正規のルートで見つけた証拠じゃないと使えないというお達しだからな。派手にやるしかないだろう」
 JTRはレイの挑発に乗って、大きな花火を打ち上げてくるはず。どんな方法を取るのか、それによって立ち回り方も変わってくる。
『派手な事はするなって、ボスから言われてんだけどな』
「謝れば済むって言ってたろ。人目のあるところで何かをやらかすようなバカじゃない。おそらくピンポイントで来る」
 レイがそう呟いたとき、私用のスマートフォンが着信を知らせた。こんなときに誰だと思って画面を見れば、ヤスオカだった。
「なんだよ、ヤッサン、今忙しいんだけど」
『レイ、花村のスケジュールはどうなっている!?』
 レイの嫌味に反応しないことからして、何かあったようである。
「スケジュール? 昼からお偉いさんと都内のホテルで会食予定だけど、仕事関係の打合せが急遽入ったから、先にホテルへ入っているかと」
 花村のスケジュール表を取り出し、時間を確認する。
『場所は? 花村がいつも使っている例のホテルか?』
「そうだよ。なんかあったのか?」
『そのホテルで乱射事件だ。中にいた人間を複数人質を取って立てこもっている。警察とマスコミも動き出したが、花村と連絡がつかない』
 こんなときに花村の周辺がざわつくとは。舌打ちにした後、レイは言った。
「シラサカ、次の駅で降りろ。例のホテルで乱射事件だ。ボスがヤバい」
『おいおい、またあのホテルかよ。コールの亡霊でも現れたのか?』
「亡霊ならおまえがバラすべきだろ。JTRは俺が見張る」
『オーケー。今駅に着いたけどさ、二人も降りたぜ。しかも出口まで一緒だぞ』

 そんな偶然があるだろうか。いや、偶然ではなく、必然だとしたら?

『ねえ、もしかしなくても、JTRはボスを狙ってんじゃないの!?』
 マキの言葉がそれを決定付けた。
「シラサカ、確保だ!」
 レイが叫ぶと同時に通信機から銃声が聞こえた。悲鳴とパニックになった人々の声が混じる。
「おい、大丈夫か、シラサカ!?」
『俺は問題ねえけど、出口の階段を上がる直前で発砲してきたぜ。バカを通り越して頭がイカレちまったようだ。面白くなってきやがった』
「マキ、蓮見の車を停めろ。どんな手段を使ってもいい。ナオを連れて現場へ向かえ!」
『了解。お許しも出たことだし、変装は邪魔だから取ろうっと』
 事態は緊迫しているというのに、シラサカもマキもどこか嬉しそうである。それはレイも同じだった。
「ピンポイントにボスを狙ってくるなんて、いい根性してんじゃねえか」
 そう呟いて、レイはキーボードを操作し、ある人物にコンタクトを取る。

『君のところへも伝わったようだな』
 相手は草薙だった。いつになく厳しい顔つきになっていた。
「ボスの無事は確認出来ていますか?」
『情報が錯綜していて、まだわからない。彼のことだから無事だと思うが』
「おわかりかと思いますが、JTRは我々の処分対象となりましたので」
『こうなっては仕方あるまい。SITの出動要請を検討しているが?』
「では、八年前と同様でお願いします」
 そう言い放って、レイは通信を切った。すぐにエンジンをかけ、勢いよく車を走らせる。
 もう桜井に逮捕させなくてもいい。手加減する必要など全くない。ハナムラに反旗を翻すものには罰を与える。どんな理由があろうと、誰が何を言おうともだ。
「合格だぜ、JTR。お望み通り、会ってやるよ」
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