追憶のquiet

makikasuga

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復活のコールサイン

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「このタイミングで停電!?」
「誰かがここの電力装置をいじりやがったんだ。すぐ復旧させる」
「なら、一旦俺も降りるぞ」
 停電を検知した場合、通常、動力電源をバッテリに切り替え、エレベーターを最寄り階まで運行して待機させることになっている。つまり、復旧するまで止まったままなのだ。
「勝手にしろ。マキ、懐中電灯」
 マキはスーツのポケットから小型の懐中電灯を取り出し、レイの手元を照らした。その光を使い、レイは持ってきたカバンからノートパソコンを取り出すと同時に起動させる。このホテルの電源装置へのアクセスを試みている間、レイはポケットに入れておいた通信機を耳に突っ込み、呼びかける。
「シラサカ、そっちの様子はどうだ? ボスは無事だろうな」
『ちょうど連絡しようと思ってたところ。無事だけど、ちょっと面倒な事になってる』
 通信機から聞こえてきたシラサカの声は、やけに落ち着いていた。
「停電なら、すぐに復旧させて」
『電力に関しては異常無しだぞ。それよか、日本語が通じない連中に囲まれて困ってる』
 どうやらこの停電は、レイ達がいる九階フロアのみの現象らしい。
「囲まれたって、おまえともあろう者が、なぜ気づかなかったんだ」
『平和ボケしたとは言いたくないけど、直前まで気づかなかったのは確かだな。言い訳させてもらえば、こいつらはそんじょそこらのプロじゃない。超一流のアサシン達だぜ』
 シラサカが気配を察知出来ないというのだから、おそらく間違っていないだろう。
「何人いるんだ?」
『前と後ろで四人。すぐ撃ってこないから指示待ちだな。こうやってペラペラ話してても、文句言わないし』

 やはり、あの手を使ったのか。

 JTRは事前にハナムラのことを調査している。普通の暗殺者では歯が立たないことをわかっているのだ。
「返り討ちにしてやれ。おまえなら出来るだろ、シラサカ」
『やりたいのは山々だけどさ、ボスが様子見ろって』
 相手の素姓がわかるまで、下手な手出しはしない方がいい。膠着状態なら尚更だろう。
 だが、レイにはわかっている。彼らが誰の指示を待っているのか、そして、それを覆す人間がたったひとり存在することを。

「Du löscht edelsteins Geist.(エーデルシュタインの亡霊はおまえが葬れ)」
 レイがドイツ語で話しかければ、シラサカはクスリと笑い、同じくドイツ語でこう返してきた。
『Wenn das der Fall ist, lasse ich Sie es tun, so viel Sie wollen.(そういうことなら、思う存分やらせてもらうぜ)』

 通信は一方的に切れた。こうなれば、シラサカは本気を出すから問題ない。
「ねえ、これってまさか!?」
 今のやり取りを聞いていたであろうマキが言った。ドイツ語はわからないはずだが、エーデルシュタインというキーワードは聞き取れたのだろう。
「そうだ、JTRはコールを使った」
「コール? なんだよ、それ」
 ここに桜井がいることを忘れていた。聞かれた以上、答えないわけにもいかない。
「世界中の暗殺者に仕事と情報を提供する仲介役のことさ。コールは通り名でそいつが死ねば、他の誰かがコールになる。今のコールがどこの誰でどういう奴なのか、誰も知らない」
 JTRは知らない、昔ハナムラとコールの間に起きた騒動を。そうでなければ、このホテルを使ったりしないはず。

『……来てくれたんだね、システムレイ』
 やがて、レイのパソコンに何者かの声が侵入してきた。
「派手な招待状をありがとう、JTR。いや、イソダショウと言うべきか」
『ふふ、じゃあ、俺もこういうべきかな。初めまして、ハナムラの情報屋のレイ。俺と同等に渡り合える人間は君が初めてだ。とても優秀で、俺のパートナーに相応しい』
「寝言は寝て言え。なんで俺がおまえのパートナーなんだよ」
『大企業ハナムラグループの子会社であるハナムラコーポレーション。その実態は殺しの情報収集から後始末までを分業制で行い、裏社会を牛耳る存在。その情報管理を一手に引き受けているのが君だよね。高校生のときから頭角を表し、ボスの花村謙三にも気に入られているが、所詮君はハナムラのナンバー3。そんなものにしがみついてないで、こっちにおいでよ』
 JTRことイソダショウは、ハナムラのことを調べ尽くしているようだった。
「聞こえなかったのか、寝言は寝てるときに言うものだ。それとも、永遠の眠りにつきたいのか」
『そんなこと言っていいの、君に憧れてる彼女に全部聞かれてるのに』
 はっとした。イソダの側には蓮見桜がいる。
「おい、彼女は無事なんだろうな!?」
『やだ、離して!?』
 そこに、女性の声が混じる。おそらく桜だろう。
『早く立ちなよ。君が会いたがっていた人間に会わせてやるんだから』
『あの、私のことはいいから、早く逃げ……!?』
 叩くような音がした後、桜の声が途切れた。
『無能な人間は全て消し去る。君が俺の元に来るというのなら、この女は生かしてやってもいい。八年前と同じ目に遭わせたくないだろう』
「おまえ、まさか!?」
 イソダは、レイの過去も調べてあるらしい。
『ゼロの蓮見がなぜハナムラに執着するのか。それは八年前、自分の姪が殺されたから。その理由は、ハナムラと当時指定暴力団だった水上組の抗争に巻き込まれてのこと。おまえが殺したんだろ』
 違うと言いたかったのに、声が出なかった。
『安岡零という偽名を使って近づいて、見殺しにした』

 俺はまた、繰り返すのか。

 衝撃でレイの全身は震えた。咄嗟にマキが、震えるレイの体を強く抱きしめた。
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