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復活のコールサイン
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「違う、レイは殺してなんかいない」
そこに割り込んできたのは桜井だった。きっぱり言い放ってくれたせいで、レイの体の震えは止まった。
『声からして、捜査一課の刑事さんだね。初めまして、桜井巡査部長』
「俺がおまえを逮捕してやる、イソダショウ。連続殺人犯としてな」
『犯人だって証拠はあるの? 勿論不正な手段じゃなく、正当な捜査で見つけた証拠でないとダメだよ。刑事さんなら、違法収集証拠排除法則のこと、知らないわけないよね』
違法収集証拠排除法則は、排除法則とも呼ばれ、証拠の収集が違法であった際、公判手続上の事実認定において、その証拠能力は否定される刑事訴訟上の法理である。つまり違法な捜査で得た証拠は、証拠としては認められないのだ。
『ハナムラの人間を頼らなきゃ、俺を見つけられなかった。警察も司法も無能なんだよ!』
そう言って、イソダは高らかに笑った。
「違法だろうがなんだろうが、おまえが犯人であることに間違いない」
それでも桜井は怯まなかった。そうこうするうちに、電力が復旧し、レイとマキの側に桜井は自ら立った。
『もしかして、頭おかしくなったの、刑事さん』
「頭なんかとっくにイカレちまってるさ。俺もおまえと同じで、人を殺してきたからな」
それこそ違うと言いたかった。桜井は捜査中に元恋人を死に追いやった過去があり、元上司は薬の横流しで殺されたが、それら全ては彼ら自身の問題である。
『刑事さんが人殺しなんて、それこそダメじゃん』
今度はバカにするように言って、イソダはケラケラと笑った。
「そうさ、刑事失格さ。だからこうやって違法捜査に回される。何かあっても、蜥蜴の尻尾切りで闇に葬ればいい」
自虐的なことを言いながらも、桜井は実に堂々としていた。
「それと同じことをする。おまえを逮捕して、闇に葬ればいい」
『あんた、相当イカレちまってるよ。俺を逮捕して殺す? 矛盾だらけだろ!』
こればかりはイソダの言う通りである。レイはマキから離れ、桜井に声をかけようとしたが、彼は唇に指を当てた後、声が漏れないように口元を大きく動かし、こう聞いてきた。
イソダはどこにいる?
レイは迷った。居場所を教えれば、桜井を巻き込むことになる。そんな気持ちを悟ってのことだろう。桜井は笑顔でこう言い放った。
俺は蓮見桜を救い出し、彼女を連れて逃げるから。
そうだ、花村と顔を合わさなければ、なんとかなる。今は二人を救うことが最優先事項なのだから。
レイは指を使って、イソダが潜伏している部屋番号を示した。桜井は頷き、静かに歩き出す。マキは拳銃を握り、背後から桜井の援護につこうとしたが、それをレイが止めた。
「そうだ、おまえが犯人であることに変わりはない」
桜井の動きを悟られないよう、レイはイソダを挑発する。その間、予め用意していたカードをポケットから取り出し、パソコンにセットする。桜の発信機が示すのはエレベーターの二つ隣の部屋である九一〇号室、七十平米の広さがあるスイートルームだ。システムに介入し、扉を開けるための合い鍵を即興で作り、マキに渡した。
「ハナムラに真っ正面から喧嘩を売って、生きていられると思うなよ」
『だったら殺せば? その前に、おまえらのボスが蜂の巣になって死ぬけどね。さあ、ショータイムの時間だ!』
イソダが言い放った途端、館内放送からある曲が流れてきた。教会の鐘が鳴り響くような重厚なピアノの音色。ロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフが作ったピアノ協奏曲第二番。実行の合図を曲にすれば、日本語がわからなくても問題ない。
第一楽章のモデラート。ピアノの独奏がロシア正教の鐘を思わせる音を響かせ、最高潮に達したところから曲がスタートする。
「シラサカ、おい、返事しろ、シラサカ!?」
返事がないことに焦りを覚えた。シラサカがやられることは、ハナムラの終焉を意味する。
『俺が雇ったのは世界最高レベルの殺し屋だ。ハナムラ如きが倒せる相手じゃねえよ』
「おまえ、コールを使ったな」
『そうさ、世界中の暗殺者を仲介し提供するコール。金はかかったが、確実性を選んだ』
マキが九一〇号室の扉の前に到着し、桜井と合流する。レイとの話に夢中で、イソダは彼らは気づいていなさそうだ。
「確実性だと、笑わせやがる。おまえ、コールの正体知ってるのか?」
『おまえこそ、そんな事も知らないのか。コールはただの通り名で中身は移り変わっていく。誰が今コールなのか、それを知るのは以前コールであった者のみ』
「俺は、以前コールであった者を知っている」
軽快に話していたイソダが、初めて口を閉ざした。
「そいつは八年前、俺達の前に現れ、今のおまえのようにショータイムといって無差別に人を殺した」
『そんな話、聞いたことないぞ!?』
「俺が情報統括したんだ、外に漏らすわけがないだろう」
明らかに動揺するイソダ。レイはマキに視線を送る。この隙をついて突入するのがベストだと判断したから。
『まさか、おまえ、今のコールを知っているのか!?』
マキがそっとカードを差し込み、鍵を開けた。
桜井は隠し持っていた拳銃を握りしめ、一度目を閉じた後に見開く。迷いのない表情で前だけを見据えていた。
「特別に教えてやるよ、システムレイ、俺のAIが今のコールさ!」
レイが叫ぶと同時に、マキが扉を開け、桜井と共に踏み込んだ。
そこに割り込んできたのは桜井だった。きっぱり言い放ってくれたせいで、レイの体の震えは止まった。
『声からして、捜査一課の刑事さんだね。初めまして、桜井巡査部長』
「俺がおまえを逮捕してやる、イソダショウ。連続殺人犯としてな」
『犯人だって証拠はあるの? 勿論不正な手段じゃなく、正当な捜査で見つけた証拠でないとダメだよ。刑事さんなら、違法収集証拠排除法則のこと、知らないわけないよね』
違法収集証拠排除法則は、排除法則とも呼ばれ、証拠の収集が違法であった際、公判手続上の事実認定において、その証拠能力は否定される刑事訴訟上の法理である。つまり違法な捜査で得た証拠は、証拠としては認められないのだ。
『ハナムラの人間を頼らなきゃ、俺を見つけられなかった。警察も司法も無能なんだよ!』
そう言って、イソダは高らかに笑った。
「違法だろうがなんだろうが、おまえが犯人であることに間違いない」
それでも桜井は怯まなかった。そうこうするうちに、電力が復旧し、レイとマキの側に桜井は自ら立った。
『もしかして、頭おかしくなったの、刑事さん』
「頭なんかとっくにイカレちまってるさ。俺もおまえと同じで、人を殺してきたからな」
それこそ違うと言いたかった。桜井は捜査中に元恋人を死に追いやった過去があり、元上司は薬の横流しで殺されたが、それら全ては彼ら自身の問題である。
『刑事さんが人殺しなんて、それこそダメじゃん』
今度はバカにするように言って、イソダはケラケラと笑った。
「そうさ、刑事失格さ。だからこうやって違法捜査に回される。何かあっても、蜥蜴の尻尾切りで闇に葬ればいい」
自虐的なことを言いながらも、桜井は実に堂々としていた。
「それと同じことをする。おまえを逮捕して、闇に葬ればいい」
『あんた、相当イカレちまってるよ。俺を逮捕して殺す? 矛盾だらけだろ!』
こればかりはイソダの言う通りである。レイはマキから離れ、桜井に声をかけようとしたが、彼は唇に指を当てた後、声が漏れないように口元を大きく動かし、こう聞いてきた。
イソダはどこにいる?
レイは迷った。居場所を教えれば、桜井を巻き込むことになる。そんな気持ちを悟ってのことだろう。桜井は笑顔でこう言い放った。
俺は蓮見桜を救い出し、彼女を連れて逃げるから。
そうだ、花村と顔を合わさなければ、なんとかなる。今は二人を救うことが最優先事項なのだから。
レイは指を使って、イソダが潜伏している部屋番号を示した。桜井は頷き、静かに歩き出す。マキは拳銃を握り、背後から桜井の援護につこうとしたが、それをレイが止めた。
「そうだ、おまえが犯人であることに変わりはない」
桜井の動きを悟られないよう、レイはイソダを挑発する。その間、予め用意していたカードをポケットから取り出し、パソコンにセットする。桜の発信機が示すのはエレベーターの二つ隣の部屋である九一〇号室、七十平米の広さがあるスイートルームだ。システムに介入し、扉を開けるための合い鍵を即興で作り、マキに渡した。
「ハナムラに真っ正面から喧嘩を売って、生きていられると思うなよ」
『だったら殺せば? その前に、おまえらのボスが蜂の巣になって死ぬけどね。さあ、ショータイムの時間だ!』
イソダが言い放った途端、館内放送からある曲が流れてきた。教会の鐘が鳴り響くような重厚なピアノの音色。ロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフが作ったピアノ協奏曲第二番。実行の合図を曲にすれば、日本語がわからなくても問題ない。
第一楽章のモデラート。ピアノの独奏がロシア正教の鐘を思わせる音を響かせ、最高潮に達したところから曲がスタートする。
「シラサカ、おい、返事しろ、シラサカ!?」
返事がないことに焦りを覚えた。シラサカがやられることは、ハナムラの終焉を意味する。
『俺が雇ったのは世界最高レベルの殺し屋だ。ハナムラ如きが倒せる相手じゃねえよ』
「おまえ、コールを使ったな」
『そうさ、世界中の暗殺者を仲介し提供するコール。金はかかったが、確実性を選んだ』
マキが九一〇号室の扉の前に到着し、桜井と合流する。レイとの話に夢中で、イソダは彼らは気づいていなさそうだ。
「確実性だと、笑わせやがる。おまえ、コールの正体知ってるのか?」
『おまえこそ、そんな事も知らないのか。コールはただの通り名で中身は移り変わっていく。誰が今コールなのか、それを知るのは以前コールであった者のみ』
「俺は、以前コールであった者を知っている」
軽快に話していたイソダが、初めて口を閉ざした。
「そいつは八年前、俺達の前に現れ、今のおまえのようにショータイムといって無差別に人を殺した」
『そんな話、聞いたことないぞ!?』
「俺が情報統括したんだ、外に漏らすわけがないだろう」
明らかに動揺するイソダ。レイはマキに視線を送る。この隙をついて突入するのがベストだと判断したから。
『まさか、おまえ、今のコールを知っているのか!?』
マキがそっとカードを差し込み、鍵を開けた。
桜井は隠し持っていた拳銃を握りしめ、一度目を閉じた後に見開く。迷いのない表情で前だけを見据えていた。
「特別に教えてやるよ、システムレイ、俺のAIが今のコールさ!」
レイが叫ぶと同時に、マキが扉を開け、桜井と共に踏み込んだ。
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