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エピローグ
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(桜井直人を公安捜査官にしろ。あいつを通してなら、動いてやってもいい)
(なるほど。難題だね)
(俺を使いたいというのなら、これぐらいやってもらわないとな)
(いいだろう。だが、少し時間がほしい)
(言わなくても、リミットはわかるよな)
(勿論だ。準備が出来次第、連絡する)
リミットは、桜井が松田の診療所を退院する日。診療所を出た瞬間、桜井はハナムラの標的へ変わるからだ。
草薙から連絡が来たのは、その前日だった。公安捜査官ではなく、捜査一課に草薙直属の捜査班を新設し、そこに桜井を入れるという話になっていた。
(花村には了承を得ている。これで桜井は、ハナムラの標的から外された)
(そんなんで、よくボスが承知したな)
(あいつのことはどうとでもなる。君は蓮見に桜井をつかせたかったんだろうが、その辺りもうまくカバーしてある。当日のお楽しみだよ)
まさか、新設の捜査班に蓮見を異動させるとは思わなかった。
「なんだよ、これ、すげえ話になってるじゃねえか」
草薙が蓮見を連れて出て行ってすぐ、桜井は頭を抱えた。
「直属の上司が警視総監なんて有り得ねえよ」
「部下はゼロの捜査官だし、大出世だな」
「おまえもシラサカさんも、知ってたんだな!?」
「草薙直属の捜査班を作って、おまえを入れることしか聞いてなかった。蓮見の話は初耳だよ」
形はどうあれ、俺の希望は全部叶えてくれたってことか。
レイの脳裏に、事件の夜、病院のベッドで眠りながら泣いていた蓮見桜の姿が蘇る。
「診療所で言ったよな、おまえを助けたのは理由があるって。俺の頼んだ仕事がまだ終わってねえって」
有耶無耶になっていたので話さなくてもいいかと思ったが、やはり桜井には告げておくべきだろう。
「蓮見桜を、護ってやってほしいんだ」
レイの言葉に、桜井はひどく驚いた顔をした。
「あの子を、優衣の二の舞にしないでやってくれ」
今回の事で改めて思い知った。レイは桜に関わってはいけない。自分と関われば、優衣と同じように彼女を不幸にしてしまうから。
「レイ、おまえ……」
「いつまでも引きずってて情けないだろ。この手で殺しておいて、何言ってんだって思うよな。これはハナムラの人間としてではなく、俺のわがままなんだよ」
俺は誰も幸せに出来ない、幸せになる権利もない。
だから、せめて、あの子だけは──。
「わかった、わかったよ」
桜井は柔らかい笑みを浮かべた。
「蓮見さんと同僚になるから、彼女の情報が入りやすくなる。向こうが会いたいって言ってることだし、近々会ってくるわ」
「一度墓前で声をかけられたことがある。顔は見られてないと思うが、イソダからハナムラのことをどこまで聞いたのか、それを蓮見に話したのか、探ってほしい」
「了解。おまえが居なきゃ、俺はとっくに死んでいた。ここから先はオマケの人生みたいなもんだからな。なんでもやってやるよ」
「前から思ってたけど、本当にお人好しだよな、ナオは」
桜井を生かしたのは、レイのわがままのため。半ば強引に、正義と悪のボーダーラインに立たせたことに、気づいていないのだろうか。
「今回の事で、警察の無力さを痛感させられた。おまえ達にも正義があるし、警察にも悪はある。両方が交わる先に何があるのか、見てみたくなったんだよ」
「あるとしたら、救いのようのない地獄だけだぜ」
「この目で見ないと、信用出来ないんでね」
コウのように、桜井も自分達のところへ堕ちてくるのか。それとも、このままボーダーラインで踏み留まるのか。
「確かに、自分で経験するのが一番だな」
全てを知るのは、神のみ。
そのときが来るまで、Keep it quiet。
the end
(なるほど。難題だね)
(俺を使いたいというのなら、これぐらいやってもらわないとな)
(いいだろう。だが、少し時間がほしい)
(言わなくても、リミットはわかるよな)
(勿論だ。準備が出来次第、連絡する)
リミットは、桜井が松田の診療所を退院する日。診療所を出た瞬間、桜井はハナムラの標的へ変わるからだ。
草薙から連絡が来たのは、その前日だった。公安捜査官ではなく、捜査一課に草薙直属の捜査班を新設し、そこに桜井を入れるという話になっていた。
(花村には了承を得ている。これで桜井は、ハナムラの標的から外された)
(そんなんで、よくボスが承知したな)
(あいつのことはどうとでもなる。君は蓮見に桜井をつかせたかったんだろうが、その辺りもうまくカバーしてある。当日のお楽しみだよ)
まさか、新設の捜査班に蓮見を異動させるとは思わなかった。
「なんだよ、これ、すげえ話になってるじゃねえか」
草薙が蓮見を連れて出て行ってすぐ、桜井は頭を抱えた。
「直属の上司が警視総監なんて有り得ねえよ」
「部下はゼロの捜査官だし、大出世だな」
「おまえもシラサカさんも、知ってたんだな!?」
「草薙直属の捜査班を作って、おまえを入れることしか聞いてなかった。蓮見の話は初耳だよ」
形はどうあれ、俺の希望は全部叶えてくれたってことか。
レイの脳裏に、事件の夜、病院のベッドで眠りながら泣いていた蓮見桜の姿が蘇る。
「診療所で言ったよな、おまえを助けたのは理由があるって。俺の頼んだ仕事がまだ終わってねえって」
有耶無耶になっていたので話さなくてもいいかと思ったが、やはり桜井には告げておくべきだろう。
「蓮見桜を、護ってやってほしいんだ」
レイの言葉に、桜井はひどく驚いた顔をした。
「あの子を、優衣の二の舞にしないでやってくれ」
今回の事で改めて思い知った。レイは桜に関わってはいけない。自分と関われば、優衣と同じように彼女を不幸にしてしまうから。
「レイ、おまえ……」
「いつまでも引きずってて情けないだろ。この手で殺しておいて、何言ってんだって思うよな。これはハナムラの人間としてではなく、俺のわがままなんだよ」
俺は誰も幸せに出来ない、幸せになる権利もない。
だから、せめて、あの子だけは──。
「わかった、わかったよ」
桜井は柔らかい笑みを浮かべた。
「蓮見さんと同僚になるから、彼女の情報が入りやすくなる。向こうが会いたいって言ってることだし、近々会ってくるわ」
「一度墓前で声をかけられたことがある。顔は見られてないと思うが、イソダからハナムラのことをどこまで聞いたのか、それを蓮見に話したのか、探ってほしい」
「了解。おまえが居なきゃ、俺はとっくに死んでいた。ここから先はオマケの人生みたいなもんだからな。なんでもやってやるよ」
「前から思ってたけど、本当にお人好しだよな、ナオは」
桜井を生かしたのは、レイのわがままのため。半ば強引に、正義と悪のボーダーラインに立たせたことに、気づいていないのだろうか。
「今回の事で、警察の無力さを痛感させられた。おまえ達にも正義があるし、警察にも悪はある。両方が交わる先に何があるのか、見てみたくなったんだよ」
「あるとしたら、救いのようのない地獄だけだぜ」
「この目で見ないと、信用出来ないんでね」
コウのように、桜井も自分達のところへ堕ちてくるのか。それとも、このままボーダーラインで踏み留まるのか。
「確かに、自分で経験するのが一番だな」
全てを知るのは、神のみ。
そのときが来るまで、Keep it quiet。
the end
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はじめまして。
まずは拙い作品をご覧いただき、ありがとうございます!
なるほどと思ったので、全部上げた後、時間があれば後で加筆出来ればと思います。
貴重なご意見、何よりご覧下さったことに感謝します、ありがとうございました!