彼と耳と音

Ariadone

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文学の才能

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新宿のキャバクラで有名な、Aと言うキャバ嬢が、僕を食事に誘ってくれ、その後彼女と度々ホテルで過ごすようになった。驚いたことに彼女は某出版社が主催する有名な文学賞を何年か前に受賞した、Bと言う作家と結婚していた。なんと僕はBをすっかりコキュにしてしまっていたのだ。その後Aを巡って辛辣な応戦が繰り広げられ、やっとAと結婚できた時には、僕はすっかり疲れ果てていた。

Aはなかなか感性の鋭い短編を何作か書いており、僕は彼女の文才に惹かれた。(後でわかったことだが、Aの短編はBの私生活を赤裸々に書いたものだった。)

AやBに比べて僕の書くものは文学的な深みがなかった。(ミステリーなので深みはない事をご了承頂きたい。)やがてAは高田馬場に近い私立大学の、ミステリ倶楽部に所属する女子大生と交際を始めたが、その前に、Aは某大手出版社の既婚の編集者とも関係を持っており、僕はAの醜聞に驚く事がなくなってしまっていた。結婚直後、Aは僕のミステリーが大衆迎合主義だと言うことに気がつき、結婚生活は既に破綻していた。

先生、温泉シリーズをかきませんか?総編集から打診された。山の中にある小さな温泉は、鄙びているとは言え、最近では東京や京阪神からの旅行客に人気で、それ相応の対価を求められた。露天風呂は一部屋毎に付いていた。彼は温泉に来るのは初めてらしく、裸で外湯に浸かる事を恥ずかしがった。

何にもしない?約束する?こんな所で嫌だからね。さっき、小さい女の子がいたよ。

大浴場もあると言うと、彼はとても驚いた。その様子が初々しいしく僕を喜ばせた。面白いことに彼はサウナが気に入り、長々と入っていた。彼の中居さんに着せてもらった浴衣姿はえもいえない情緒があり、僕は今夜は眠れないだろうと思った。

温泉も悪くないよ、と言うと編集は満足げだった。
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