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21:断罪の後
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本来はセリーヌ嬢は招待されないはずであったが、婚約者としてパーティー会場にいた。
今思えばクロードが描いた脚本に必要な役割であり、彼が招いたのだろう。
そうして行われた断罪劇により、予定よりもはやく、パーティーが行われる裏でジョレアン公爵を捕縛することになった。
「お見苦しいところをお見せしました」
クラウディアはプロンベルト侯とクリスティーナの元へ赴き陳謝した。
「若気の至りというやつですな。私にもありましたよ」
「お父さまにも?」
「そうさ。あの時は下手な恋愛小説が流行して、真実の愛を探すんだと、他国へ出ようともしたさ。結局は妻の尻にしかれているのがな」
プロンベルト侯は笑い話にして流してくれたが、クラウディアの内心は穏やかではなかった。
「燃え上がるような恋もいいですが、築き上げた関係の方が長続きするものですもの。フレシミア随一の夫妻を見てください」
そういってシャルモン伯爵夫妻を紹介した。
彼らは恋愛結婚ではなかったが、王国で知らないものはいないおしどり夫婦だ。そして王と王妃の信任のあつい貴族でもある。
「引き続き楽しんでください」
プロンベルト侯の相手をシャルモン伯爵にまかせた。
「リズ、王太子は?」
立ち去り際に、シャルモン伯爵夫人であるリゼットに声を潜めて聞いた。
「すでに退場し、謹慎しています」
「わかったわ。少し席をはずしますから、頼みました」
「はい」
クラウディアは賑やかな会場を抜け出し、王太子の居室へと向かった。
王太子の部屋の扉を開けて中にはいると、苛立たし気に室内を動き回っているクロードがいた。
「母上! なぜあのようなことを言ったのですか。ティオゾ伯爵は……」
「黙りなさい!」
怒気を含んでクロードは迫ったが、大きく頬を打たれて言葉を失った。
平手打ちの音は響くようなものではなく、鈍くじんわりと広がる痛みがあった。
このように声を声を荒らげる母親をクロードは一度もみたことがなく、困惑した。
「なんという馬鹿なことをしでかしたのです! 他国の要人がいる中で、我が国の醜聞をさらすとは……。これほどまでに愚かだとは思いませんでした」
今回の件は国の威信にもつながるものだ。
いくら親しい仲であったプロンベルト侯であっても利害のある話をしている中で、国の威信が落ちればどうなるかなどわかるはずだ。
「貴方にはこの国を背負う者としての自覚が足りません! ただ一令嬢を辱しめる為に国の威信を犠牲にしたのですか!?」
どこから教育を間違えたのだろうか。
きっとはじめからだ。先代の王妃に養育を任せ、そのまま放置していた罰だ。
王の子ではないという心ない噂を払拭するためにも懸命に勉学に勤しませたせいなのだろうか。テオドールと比較して競争心を駆り立てようとしたのが間違いだったのだろうか。
「この母の責任です。どうしても貴方は陛下に似はていない。私を優先し、国を見ない。そんな人物は我が子として恥ずかしく、王族として情けない」
クラウディアの言葉にクロードは気が触れたように笑った。
「ハハハ、アハハハ! 母上は俺を御自分の子だと思ったことがあったのですね。他人であるティオゾ伯爵の方がよっぽど息子のように扱っていたではないですか。俺に関心を、愛情を向けたことはありますか?」
核心をつかれたような気がした。
クロードに対する愛着は他の子どもたちよりも薄い。それは彼を産んだときの環境などが起因している。
「父上にも似ていないこんな出来損ないは産まれてこなければよかったですか?」
クロードの自棄なったような言葉に腹がたった。
クロードを身籠った時の幸福感や、当時のアルフレッドとクラウディアの気持ちを蔑ろにされている気分だ。
「馬鹿なことを言わないで! 貴方がお腹の中にいた時の幸せや愛情を否定しないでちょうだい! アルとともに喜びあったことを、あの時を!」
感情のままに大きな声を張り上げた。
その時、目の前が真っ白になって力が抜けた。
「母上!?」
突如音を立てて倒れたクラウディアに驚き、クロードはかけよった。
抱き寄せた体は力なく、手足は冷たくなっていた。浅い呼吸に、ドレスの下から出血していた。
「母上、しっかりしてください。誰か! 誰か来い! 母上が倒れた!」
クロードは取り乱しながら声をあげた。
クラウディアの言葉の続きを、意味を知りたかった。
今思えばクロードが描いた脚本に必要な役割であり、彼が招いたのだろう。
そうして行われた断罪劇により、予定よりもはやく、パーティーが行われる裏でジョレアン公爵を捕縛することになった。
「お見苦しいところをお見せしました」
クラウディアはプロンベルト侯とクリスティーナの元へ赴き陳謝した。
「若気の至りというやつですな。私にもありましたよ」
「お父さまにも?」
「そうさ。あの時は下手な恋愛小説が流行して、真実の愛を探すんだと、他国へ出ようともしたさ。結局は妻の尻にしかれているのがな」
プロンベルト侯は笑い話にして流してくれたが、クラウディアの内心は穏やかではなかった。
「燃え上がるような恋もいいですが、築き上げた関係の方が長続きするものですもの。フレシミア随一の夫妻を見てください」
そういってシャルモン伯爵夫妻を紹介した。
彼らは恋愛結婚ではなかったが、王国で知らないものはいないおしどり夫婦だ。そして王と王妃の信任のあつい貴族でもある。
「引き続き楽しんでください」
プロンベルト侯の相手をシャルモン伯爵にまかせた。
「リズ、王太子は?」
立ち去り際に、シャルモン伯爵夫人であるリゼットに声を潜めて聞いた。
「すでに退場し、謹慎しています」
「わかったわ。少し席をはずしますから、頼みました」
「はい」
クラウディアは賑やかな会場を抜け出し、王太子の居室へと向かった。
王太子の部屋の扉を開けて中にはいると、苛立たし気に室内を動き回っているクロードがいた。
「母上! なぜあのようなことを言ったのですか。ティオゾ伯爵は……」
「黙りなさい!」
怒気を含んでクロードは迫ったが、大きく頬を打たれて言葉を失った。
平手打ちの音は響くようなものではなく、鈍くじんわりと広がる痛みがあった。
このように声を声を荒らげる母親をクロードは一度もみたことがなく、困惑した。
「なんという馬鹿なことをしでかしたのです! 他国の要人がいる中で、我が国の醜聞をさらすとは……。これほどまでに愚かだとは思いませんでした」
今回の件は国の威信にもつながるものだ。
いくら親しい仲であったプロンベルト侯であっても利害のある話をしている中で、国の威信が落ちればどうなるかなどわかるはずだ。
「貴方にはこの国を背負う者としての自覚が足りません! ただ一令嬢を辱しめる為に国の威信を犠牲にしたのですか!?」
どこから教育を間違えたのだろうか。
きっとはじめからだ。先代の王妃に養育を任せ、そのまま放置していた罰だ。
王の子ではないという心ない噂を払拭するためにも懸命に勉学に勤しませたせいなのだろうか。テオドールと比較して競争心を駆り立てようとしたのが間違いだったのだろうか。
「この母の責任です。どうしても貴方は陛下に似はていない。私を優先し、国を見ない。そんな人物は我が子として恥ずかしく、王族として情けない」
クラウディアの言葉にクロードは気が触れたように笑った。
「ハハハ、アハハハ! 母上は俺を御自分の子だと思ったことがあったのですね。他人であるティオゾ伯爵の方がよっぽど息子のように扱っていたではないですか。俺に関心を、愛情を向けたことはありますか?」
核心をつかれたような気がした。
クロードに対する愛着は他の子どもたちよりも薄い。それは彼を産んだときの環境などが起因している。
「父上にも似ていないこんな出来損ないは産まれてこなければよかったですか?」
クロードの自棄なったような言葉に腹がたった。
クロードを身籠った時の幸福感や、当時のアルフレッドとクラウディアの気持ちを蔑ろにされている気分だ。
「馬鹿なことを言わないで! 貴方がお腹の中にいた時の幸せや愛情を否定しないでちょうだい! アルとともに喜びあったことを、あの時を!」
感情のままに大きな声を張り上げた。
その時、目の前が真っ白になって力が抜けた。
「母上!?」
突如音を立てて倒れたクラウディアに驚き、クロードはかけよった。
抱き寄せた体は力なく、手足は冷たくなっていた。浅い呼吸に、ドレスの下から出血していた。
「母上、しっかりしてください。誰か! 誰か来い! 母上が倒れた!」
クロードは取り乱しながら声をあげた。
クラウディアの言葉の続きを、意味を知りたかった。
応援ありがとうございます!
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