22 / 28
21:断罪の後
しおりを挟む
本来はセリーヌ嬢は招待されないはずであったが、婚約者としてパーティー会場にいた。
今思えばクロードが描いた脚本に必要な役割であり、彼が招いたのだろう。
そうして行われた断罪劇により、予定よりもはやく、パーティーが行われる裏でジョレアン公爵を捕縛することになった。
「お見苦しいところをお見せしました」
クラウディアはプロンベルト侯とクリスティーナの元へ赴き陳謝した。
「若気の至りというやつですな。私にもありましたよ」
「お父さまにも?」
「そうさ。あの時は下手な恋愛小説が流行して、真実の愛を探すんだと、他国へ出ようともしたさ。結局は妻の尻にしかれているのがな」
プロンベルト侯は笑い話にして流してくれたが、クラウディアの内心は穏やかではなかった。
「燃え上がるような恋もいいですが、築き上げた関係の方が長続きするものですもの。フレシミア随一の夫妻を見てください」
そういってシャルモン伯爵夫妻を紹介した。
彼らは恋愛結婚ではなかったが、王国で知らないものはいないおしどり夫婦だ。そして王と王妃の信任のあつい貴族でもある。
「引き続き楽しんでください」
プロンベルト侯の相手をシャルモン伯爵にまかせた。
「リズ、王太子は?」
立ち去り際に、シャルモン伯爵夫人であるリゼットに声を潜めて聞いた。
「すでに退場し、謹慎しています」
「わかったわ。少し席をはずしますから、頼みました」
「はい」
クラウディアは賑やかな会場を抜け出し、王太子の居室へと向かった。
王太子の部屋の扉を開けて中にはいると、苛立たし気に室内を動き回っているクロードがいた。
「母上! なぜあのようなことを言ったのですか。ティオゾ伯爵は……」
「黙りなさい!」
怒気を含んでクロードは迫ったが、大きく頬を打たれて言葉を失った。
平手打ちの音は響くようなものではなく、鈍くじんわりと広がる痛みがあった。
このように声を声を荒らげる母親をクロードは一度もみたことがなく、困惑した。
「なんという馬鹿なことをしでかしたのです! 他国の要人がいる中で、我が国の醜聞をさらすとは……。これほどまでに愚かだとは思いませんでした」
今回の件は国の威信にもつながるものだ。
いくら親しい仲であったプロンベルト侯であっても利害のある話をしている中で、国の威信が落ちればどうなるかなどわかるはずだ。
「貴方にはこの国を背負う者としての自覚が足りません! ただ一令嬢を辱しめる為に国の威信を犠牲にしたのですか!?」
どこから教育を間違えたのだろうか。
きっとはじめからだ。先代の王妃に養育を任せ、そのまま放置していた罰だ。
王の子ではないという心ない噂を払拭するためにも懸命に勉学に勤しませたせいなのだろうか。テオドールと比較して競争心を駆り立てようとしたのが間違いだったのだろうか。
「この母の責任です。どうしても貴方は陛下に似はていない。私を優先し、国を見ない。そんな人物は我が子として恥ずかしく、王族として情けない」
クラウディアの言葉にクロードは気が触れたように笑った。
「ハハハ、アハハハ! 母上は俺を御自分の子だと思ったことがあったのですね。他人であるティオゾ伯爵の方がよっぽど息子のように扱っていたではないですか。俺に関心を、愛情を向けたことはありますか?」
核心をつかれたような気がした。
クロードに対する愛着は他の子どもたちよりも薄い。それは彼を産んだときの環境などが起因している。
「父上にも似ていないこんな出来損ないは産まれてこなければよかったですか?」
クロードの自棄なったような言葉に腹がたった。
クロードを身籠った時の幸福感や、当時のアルフレッドとクラウディアの気持ちを蔑ろにされている気分だ。
「馬鹿なことを言わないで! 貴方がお腹の中にいた時の幸せや愛情を否定しないでちょうだい! アルとともに喜びあったことを、あの時を!」
感情のままに大きな声を張り上げた。
その時、目の前が真っ白になって力が抜けた。
「母上!?」
突如音を立てて倒れたクラウディアに驚き、クロードはかけよった。
抱き寄せた体は力なく、手足は冷たくなっていた。浅い呼吸に、ドレスの下から出血していた。
「母上、しっかりしてください。誰か! 誰か来い! 母上が倒れた!」
クロードは取り乱しながら声をあげた。
クラウディアの言葉の続きを、意味を知りたかった。
今思えばクロードが描いた脚本に必要な役割であり、彼が招いたのだろう。
そうして行われた断罪劇により、予定よりもはやく、パーティーが行われる裏でジョレアン公爵を捕縛することになった。
「お見苦しいところをお見せしました」
クラウディアはプロンベルト侯とクリスティーナの元へ赴き陳謝した。
「若気の至りというやつですな。私にもありましたよ」
「お父さまにも?」
「そうさ。あの時は下手な恋愛小説が流行して、真実の愛を探すんだと、他国へ出ようともしたさ。結局は妻の尻にしかれているのがな」
プロンベルト侯は笑い話にして流してくれたが、クラウディアの内心は穏やかではなかった。
「燃え上がるような恋もいいですが、築き上げた関係の方が長続きするものですもの。フレシミア随一の夫妻を見てください」
そういってシャルモン伯爵夫妻を紹介した。
彼らは恋愛結婚ではなかったが、王国で知らないものはいないおしどり夫婦だ。そして王と王妃の信任のあつい貴族でもある。
「引き続き楽しんでください」
プロンベルト侯の相手をシャルモン伯爵にまかせた。
「リズ、王太子は?」
立ち去り際に、シャルモン伯爵夫人であるリゼットに声を潜めて聞いた。
「すでに退場し、謹慎しています」
「わかったわ。少し席をはずしますから、頼みました」
「はい」
クラウディアは賑やかな会場を抜け出し、王太子の居室へと向かった。
王太子の部屋の扉を開けて中にはいると、苛立たし気に室内を動き回っているクロードがいた。
「母上! なぜあのようなことを言ったのですか。ティオゾ伯爵は……」
「黙りなさい!」
怒気を含んでクロードは迫ったが、大きく頬を打たれて言葉を失った。
平手打ちの音は響くようなものではなく、鈍くじんわりと広がる痛みがあった。
このように声を声を荒らげる母親をクロードは一度もみたことがなく、困惑した。
「なんという馬鹿なことをしでかしたのです! 他国の要人がいる中で、我が国の醜聞をさらすとは……。これほどまでに愚かだとは思いませんでした」
今回の件は国の威信にもつながるものだ。
いくら親しい仲であったプロンベルト侯であっても利害のある話をしている中で、国の威信が落ちればどうなるかなどわかるはずだ。
「貴方にはこの国を背負う者としての自覚が足りません! ただ一令嬢を辱しめる為に国の威信を犠牲にしたのですか!?」
どこから教育を間違えたのだろうか。
きっとはじめからだ。先代の王妃に養育を任せ、そのまま放置していた罰だ。
王の子ではないという心ない噂を払拭するためにも懸命に勉学に勤しませたせいなのだろうか。テオドールと比較して競争心を駆り立てようとしたのが間違いだったのだろうか。
「この母の責任です。どうしても貴方は陛下に似はていない。私を優先し、国を見ない。そんな人物は我が子として恥ずかしく、王族として情けない」
クラウディアの言葉にクロードは気が触れたように笑った。
「ハハハ、アハハハ! 母上は俺を御自分の子だと思ったことがあったのですね。他人であるティオゾ伯爵の方がよっぽど息子のように扱っていたではないですか。俺に関心を、愛情を向けたことはありますか?」
核心をつかれたような気がした。
クロードに対する愛着は他の子どもたちよりも薄い。それは彼を産んだときの環境などが起因している。
「父上にも似ていないこんな出来損ないは産まれてこなければよかったですか?」
クロードの自棄なったような言葉に腹がたった。
クロードを身籠った時の幸福感や、当時のアルフレッドとクラウディアの気持ちを蔑ろにされている気分だ。
「馬鹿なことを言わないで! 貴方がお腹の中にいた時の幸せや愛情を否定しないでちょうだい! アルとともに喜びあったことを、あの時を!」
感情のままに大きな声を張り上げた。
その時、目の前が真っ白になって力が抜けた。
「母上!?」
突如音を立てて倒れたクラウディアに驚き、クロードはかけよった。
抱き寄せた体は力なく、手足は冷たくなっていた。浅い呼吸に、ドレスの下から出血していた。
「母上、しっかりしてください。誰か! 誰か来い! 母上が倒れた!」
クロードは取り乱しながら声をあげた。
クラウディアの言葉の続きを、意味を知りたかった。
586
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました
あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。
そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。
平民出身のヒロインの「善意」、
王太子の「優しさ」、
そしてそれらが生み出す無数の歪み。
感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。
やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。
それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。
なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。
これは、
「断罪される側」が最後まで正しかった物語。
そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので
鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど?
――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」
自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。
ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。
ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、
「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。
むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが……
いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、
彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、
しまいには婚約が白紙になってしまって――!?
けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。
自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、
さあ、思い切り自由に愛されましょう!
……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか?
自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、
“白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。
『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』
鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」
その一言で、私は婚約を破棄されました。
理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。
……ええ、どうぞご自由に。
私は泣きません。縋りません。
なぜなら——王家は、私を手放せないから。
婚約は解消。
けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。
失ったのは殿下の隣の席だけ。
代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。
最初は誰もが疑いました。
若い、女だ、感情的だ、と。
ならば証明しましょう。
怒らず、怯えず、排除せず。
反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。
派手な革命は起こしません。
大逆転も叫びません。
ただ、静かに積み上げます。
そして気づけば——
“殿下の元婚約者”ではなく、
“揺れない王”と呼ばれるようになるのです。
これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。
王冠の重みを受け入れた一人の女性が、
国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
夫婦という名の協力者、敵は令嬢
にゃみ3
恋愛
齢十二歳にして公爵夫人となった、セレスティア。
常に命を狙われる危険と、露骨な敵意に晒される立場。
同年代の令嬢たちからは妬みと侮蔑を向けられ、年長の貴婦人たちからは距離を置かれる。
そんな生活を送り始めて、早くも六年が経った頃。
「私、公爵様とお近づきになりたいんです!」
夫に好意を寄せる、自らが公爵夫人の座に就きたいと言い出した令嬢が現れて……。
黒く爛れた世界でたった二人の幼い夫婦が、どれほど苦しい思いをして生きてきたか。それは、当人である二人にしか分からないことだ。
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる