白亜城の麗しき錬金術師

土岐ゆうば(金湯叶)

文字の大きさ
26 / 37

26:磁器の完成

アヒムの願いもむなしく、王はヨーゼフを城に留め置くことはしなかった。

外の情報が入りにくいアヒムの耳にも入ってくる変化があった。王が隣領に攻め入り、エベル山地を手に入れたらしい。その際に、デボネ夫人が失脚し幽閉されたらしいが、アヒムはその女性が誰かなど知らないし、興味もない。

エベル山地とは、フリートヘルムが言っていたカオリンが手に入る豊富な鉱山地帯だ。そのおかげで、アヒムは惜しみ無くカオリンを使うことができた。

そうして、ジークの傷もだいぶ回復してきた時に、磁器の焼成が成功し、第一号が完成した。

「アヒムくん。磁器ができたと聞いたよ」

フリートヘルムが体調が悪い中、工房にやって来てくれた。

「フリートヘルムさん! 見てください。こっちが素焼きしたもので、こっちが釉薬をつけて本焼成したものです」

いくつかは断面確認のために割っているが、フリートヘルムにはちゃんと形成されている磁器のコップを手渡した。

「よくやったじゃないか。生きている内に完成できて嬉しいよ。君のお手柄だ」

「そんな。フリートヘルムさんが居てくれたからです」

フリートヘルムが子供を誉めるようにアヒムの頭をなでると、アヒムは嬉しそうにはにかんだ。彼の心からの表情で、あの暗い瞳はしていない。

「俺なんて、途中からは体調を崩して何の役にも立てていないぞ」

フリートヘルムが笑うと、気管を刺激したのか咳き込んだ。

ゴホゴホ、ゼーゼーと苦しそうな咳にジークはなれたように彼の背を擦っていた。

「ハハハっ。これで磁器工場が実稼働できるな。これなら技術提供の代価を貰えるぞ」

咳をしたことなど忘れたかのように、フリートヘルムは嬉しそうにいった。それに連れてアヒムも自然な笑顔をした。

「陛下に報告はしたのか?」

ジークは確認するように聞いてきた。彼の片手は折れているようで固定されている。

「したよ。オスヴァルト卿がお話されているはずだ」

「それなら、やっと自由の身だな」

ジークはあからさまに喜んだ。

そうだ。はじめから、磁器をつくりだし、その東洋の神秘を解き明かせば、罪を不問として解放するという約束だった。

アヒムはずっと、オスヴァルトに言われたようにただの気まぐれな王が飽きるまで堪えようとしていた。だが、本来の目的を達成できた今、アヒムは元に戻れるのだ。

その現実がじわりじわりとわいてくる。

気がつけば季節は三周していた。長い地獄から解放されるのだと、自由になったらどうしようかと夢を膨らませた。

城を出たら、またあの場所で薬師をするのもいい。別の国に行って、旅をするのもいい。フリートヘルムに倣ってギムナジウムに行くのもいい。この城にいてはできないことを想像していた。

「死ぬ前にできて本当によかった」

フリートヘルムが染々というものだから、アヒムは不安げにフリートヘルムをみた。

「それほどお体がすぐれないんですか?」

「まあ、歳も歳だし、仕方ないさ。死ぬ前に東洋の神秘を解明できたのだからよしとしよう」

もうすぐ五十になるというフリートヘルムには、死神が近づく平均的な年齢といえるだろう。

「それなら、骨壺は僕の磁器にしてください。一等のものを用意します」

「ハハハ。それは光栄だな」

フリートヘルムは冗談を受け流すように笑ってこたえたが、アヒムは本気だった。

久しぶりにあったフリートヘルムといくつかの言葉を交わしてから、体調もかんばしくないために彼は帰っていった。

フリートヘルムといれかわるように王がやって来た。

「アヒムよ」

名前を呼ばれると、条件反射で体が跳ねる。笑みを浮かべて、王の言葉を待つ。

自由だ。

城から、王から解放される。

「よくやった」

王はアヒムが成功させた磁器を手に取り褒めるように言った。

さあ、続きを言ってくれ。

お前は自由だと。

「だが、まだ完成ではない。染付が残っている」

「はい?」

王の言葉が信じられずにいた。

まだ終わっていない?

「何を言っているんですか? 磁器を完成させたら、僕を自由にしてくれるはずではなかったのですか!?」

「そなたこそ何を言っている。そなたも見ているであろう、東洋の磁器には、白い黄金のうえに青い花が咲いている。それを含めてやれと言っている」

「そんなこと聞いていない!」

夢を抱いていたのだ。

城を出ることを。土を手ではなく足で踏むことを。

その夢を、希望を一瞬で打ちくだかれた。

「そなたに拒否権はない」

王は反抗的なアヒムの髪を掴み引き寄せた。

まわりはいやに空気を呼んで工房から出ていった。

感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

転生先は猫でした。

秋山龍央
BL
吾輩は猫である。 名前はまだないので、かっこよくてキュートで、痺れるような名前を絶賛募集中である。 ……いや、本当になんでこんなことになったんだか! 転生した異世界で猫になった男が、冒険者に拾われて飼い猫になるほのぼのファンタジーコメディ。 人間化あり、主人公攻め。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

潔癖王子の唯一無二

秋月真鳥
BL
 アルファと思われているオメガの王子と、美少女でオメガと思われているアルファの少年は、すれ違う。  整った容姿、鍛え上げられた屈強な身体、見上げるほどの長身。  ササラ王国の王子、アレクサンテリは、アルファと間違われるオメガだった。  潔癖症で、「キスは唾液が耐えられない」「他人の体内に体の一部を突っ込むのは気持ち悪い」「中で放たれたら発狂する」と、あまりにも恋愛に向かないアレクサンテリ王子の結婚相手探しは困難を極めていた。  王子の誕生日パーティーの日に、雨に降られて入った離れの館で、アレクサンテリは濡れた自分を心配してくれる美少女に恋をする。  しかし、その美少女は、実は男性でアルファだった。  王子をアルファと信じて、自分が男性でアルファと打ち明けられない少年と、美少女を運命と思いながらも抱くのは何か違うと違和感を覚える王子のすれ違い、身分違いの恋愛物語。 ※受け(王子、アレクサンテリ)と、攻め(少年、ヨウシア)の視点が一話ごとに切り替わります。 ※受けはオメガで王子のアレクサンテリです。 ※受けが優位で性行為を行います。(騎乗位とか) ムーンライトノベルズでも投稿しています。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。