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26:磁器の完成
アヒムの願いもむなしく、王はヨーゼフを城に留め置くことはしなかった。
外の情報が入りにくいアヒムの耳にも入ってくる変化があった。王が隣領に攻め入り、エベル山地を手に入れたらしい。その際に、デボネ夫人が失脚し幽閉されたらしいが、アヒムはその女性が誰かなど知らないし、興味もない。
エベル山地とは、フリートヘルムが言っていたカオリンが手に入る豊富な鉱山地帯だ。そのおかげで、アヒムは惜しみ無くカオリンを使うことができた。
そうして、ジークの傷もだいぶ回復してきた時に、磁器の焼成が成功し、第一号が完成した。
「アヒムくん。磁器ができたと聞いたよ」
フリートヘルムが体調が悪い中、工房にやって来てくれた。
「フリートヘルムさん! 見てください。こっちが素焼きしたもので、こっちが釉薬をつけて本焼成したものです」
いくつかは断面確認のために割っているが、フリートヘルムにはちゃんと形成されている磁器のコップを手渡した。
「よくやったじゃないか。生きている内に完成できて嬉しいよ。君のお手柄だ」
「そんな。フリートヘルムさんが居てくれたからです」
フリートヘルムが子供を誉めるようにアヒムの頭をなでると、アヒムは嬉しそうにはにかんだ。彼の心からの表情で、あの暗い瞳はしていない。
「俺なんて、途中からは体調を崩して何の役にも立てていないぞ」
フリートヘルムが笑うと、気管を刺激したのか咳き込んだ。
ゴホゴホ、ゼーゼーと苦しそうな咳にジークはなれたように彼の背を擦っていた。
「ハハハっ。これで磁器工場が実稼働できるな。これなら技術提供の代価を貰えるぞ」
咳をしたことなど忘れたかのように、フリートヘルムは嬉しそうにいった。それに連れてアヒムも自然な笑顔をした。
「陛下に報告はしたのか?」
ジークは確認するように聞いてきた。彼の片手は折れているようで固定されている。
「したよ。オスヴァルト卿がお話されているはずだ」
「それなら、やっと自由の身だな」
ジークはあからさまに喜んだ。
そうだ。はじめから、磁器をつくりだし、その東洋の神秘を解き明かせば、罪を不問として解放するという約束だった。
アヒムはずっと、オスヴァルトに言われたようにただの気まぐれな王が飽きるまで堪えようとしていた。だが、本来の目的を達成できた今、アヒムは元に戻れるのだ。
その現実がじわりじわりとわいてくる。
気がつけば季節は三周していた。長い地獄から解放されるのだと、自由になったらどうしようかと夢を膨らませた。
城を出たら、またあの場所で薬師をするのもいい。別の国に行って、旅をするのもいい。フリートヘルムに倣ってギムナジウムに行くのもいい。この城にいてはできないことを想像していた。
「死ぬ前にできて本当によかった」
フリートヘルムが染々というものだから、アヒムは不安げにフリートヘルムをみた。
「それほどお体がすぐれないんですか?」
「まあ、歳も歳だし、仕方ないさ。死ぬ前に東洋の神秘を解明できたのだからよしとしよう」
もうすぐ五十になるというフリートヘルムには、死神が近づく平均的な年齢といえるだろう。
「それなら、骨壺は僕の磁器にしてください。一等のものを用意します」
「ハハハ。それは光栄だな」
フリートヘルムは冗談を受け流すように笑ってこたえたが、アヒムは本気だった。
久しぶりにあったフリートヘルムといくつかの言葉を交わしてから、体調もかんばしくないために彼は帰っていった。
フリートヘルムといれかわるように王がやって来た。
「アヒムよ」
名前を呼ばれると、条件反射で体が跳ねる。笑みを浮かべて、王の言葉を待つ。
自由だ。
城から、王から解放される。
「よくやった」
王はアヒムが成功させた磁器を手に取り褒めるように言った。
さあ、続きを言ってくれ。
お前は自由だと。
「だが、まだ完成ではない。染付が残っている」
「はい?」
王の言葉が信じられずにいた。
まだ終わっていない?
「何を言っているんですか? 磁器を完成させたら、僕を自由にしてくれるはずではなかったのですか!?」
「そなたこそ何を言っている。そなたも見ているであろう、東洋の磁器には、白い黄金のうえに青い花が咲いている。それを含めてやれと言っている」
「そんなこと聞いていない!」
夢を抱いていたのだ。
城を出ることを。土を手ではなく足で踏むことを。
その夢を、希望を一瞬で打ちくだかれた。
「そなたに拒否権はない」
王は反抗的なアヒムの髪を掴み引き寄せた。
まわりはいやに空気を呼んで工房から出ていった。
外の情報が入りにくいアヒムの耳にも入ってくる変化があった。王が隣領に攻め入り、エベル山地を手に入れたらしい。その際に、デボネ夫人が失脚し幽閉されたらしいが、アヒムはその女性が誰かなど知らないし、興味もない。
エベル山地とは、フリートヘルムが言っていたカオリンが手に入る豊富な鉱山地帯だ。そのおかげで、アヒムは惜しみ無くカオリンを使うことができた。
そうして、ジークの傷もだいぶ回復してきた時に、磁器の焼成が成功し、第一号が完成した。
「アヒムくん。磁器ができたと聞いたよ」
フリートヘルムが体調が悪い中、工房にやって来てくれた。
「フリートヘルムさん! 見てください。こっちが素焼きしたもので、こっちが釉薬をつけて本焼成したものです」
いくつかは断面確認のために割っているが、フリートヘルムにはちゃんと形成されている磁器のコップを手渡した。
「よくやったじゃないか。生きている内に完成できて嬉しいよ。君のお手柄だ」
「そんな。フリートヘルムさんが居てくれたからです」
フリートヘルムが子供を誉めるようにアヒムの頭をなでると、アヒムは嬉しそうにはにかんだ。彼の心からの表情で、あの暗い瞳はしていない。
「俺なんて、途中からは体調を崩して何の役にも立てていないぞ」
フリートヘルムが笑うと、気管を刺激したのか咳き込んだ。
ゴホゴホ、ゼーゼーと苦しそうな咳にジークはなれたように彼の背を擦っていた。
「ハハハっ。これで磁器工場が実稼働できるな。これなら技術提供の代価を貰えるぞ」
咳をしたことなど忘れたかのように、フリートヘルムは嬉しそうにいった。それに連れてアヒムも自然な笑顔をした。
「陛下に報告はしたのか?」
ジークは確認するように聞いてきた。彼の片手は折れているようで固定されている。
「したよ。オスヴァルト卿がお話されているはずだ」
「それなら、やっと自由の身だな」
ジークはあからさまに喜んだ。
そうだ。はじめから、磁器をつくりだし、その東洋の神秘を解き明かせば、罪を不問として解放するという約束だった。
アヒムはずっと、オスヴァルトに言われたようにただの気まぐれな王が飽きるまで堪えようとしていた。だが、本来の目的を達成できた今、アヒムは元に戻れるのだ。
その現実がじわりじわりとわいてくる。
気がつけば季節は三周していた。長い地獄から解放されるのだと、自由になったらどうしようかと夢を膨らませた。
城を出たら、またあの場所で薬師をするのもいい。別の国に行って、旅をするのもいい。フリートヘルムに倣ってギムナジウムに行くのもいい。この城にいてはできないことを想像していた。
「死ぬ前にできて本当によかった」
フリートヘルムが染々というものだから、アヒムは不安げにフリートヘルムをみた。
「それほどお体がすぐれないんですか?」
「まあ、歳も歳だし、仕方ないさ。死ぬ前に東洋の神秘を解明できたのだからよしとしよう」
もうすぐ五十になるというフリートヘルムには、死神が近づく平均的な年齢といえるだろう。
「それなら、骨壺は僕の磁器にしてください。一等のものを用意します」
「ハハハ。それは光栄だな」
フリートヘルムは冗談を受け流すように笑ってこたえたが、アヒムは本気だった。
久しぶりにあったフリートヘルムといくつかの言葉を交わしてから、体調もかんばしくないために彼は帰っていった。
フリートヘルムといれかわるように王がやって来た。
「アヒムよ」
名前を呼ばれると、条件反射で体が跳ねる。笑みを浮かべて、王の言葉を待つ。
自由だ。
城から、王から解放される。
「よくやった」
王はアヒムが成功させた磁器を手に取り褒めるように言った。
さあ、続きを言ってくれ。
お前は自由だと。
「だが、まだ完成ではない。染付が残っている」
「はい?」
王の言葉が信じられずにいた。
まだ終わっていない?
「何を言っているんですか? 磁器を完成させたら、僕を自由にしてくれるはずではなかったのですか!?」
「そなたこそ何を言っている。そなたも見ているであろう、東洋の磁器には、白い黄金のうえに青い花が咲いている。それを含めてやれと言っている」
「そんなこと聞いていない!」
夢を抱いていたのだ。
城を出ることを。土を手ではなく足で踏むことを。
その夢を、希望を一瞬で打ちくだかれた。
「そなたに拒否権はない」
王は反抗的なアヒムの髪を掴み引き寄せた。
まわりはいやに空気を呼んで工房から出ていった。
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