62 / 131
第七章
第三話
しおりを挟む
麹町の南山本邸から自動車で揺られることおよそ二時間。
休憩を挟みながら国分寺の別荘の近くまで来た。
周辺は本邸が建っている場所よりも手つかずの自然が多く残っている。
まもなくして自動車は、一つの鉄格子に囲まれた門の前で止まる。
ほどなくすると鉄の扉が開き、車はそのまま門をくぐり、続く木立の中を進む。
車窓から見える木々は、ちょうど今の季節に見頃を迎えていて、自身のまとう葉を緑、赤、黄色、濃淡様々に艶《あで》やかな色へと変え、千鶴達の目を楽しませてくれている。
色鮮やかな森ともいえるほどの木立を抜けると、大きな二本の銀杏を両脇に携えた雰囲気のある洋館が現れる。
まず目を引くのは秋晴れの太陽光に照らされ、眩いばかりに輝く青い双子の三角屋根。
せり出す屋根につけられた二つの窓は、鳩時計の鳩が飛び出てきそうなアーチ型。
外壁は全体的に白く、横一列に均一に並べられた木目がどこか温かみを感じさせる。
木目に沿うように等間隔に取り付けられた窓には、幾何学模様の洒落た窓枠がはめられ、屋根と同じ鮮やかな青色の雨どいも相まって可愛らしい。
黄金色に染まった双子の銀杏に囲まれた屋敷の全景は、御伽噺に出てくる魔法使いの家のようにも見える。
千鶴がその景色に見とれているうちに自動車は建物の正面で停車する。
いつのまにか車を降りていた桐秋は千鶴側のドアを開け、千鶴の手を引いてくれる。
屋根よりも深い濃紺色の玄関ドアを開けると、そこは小さな玄関ホールとなっていた。
赤いカーペットが全面に敷かれ、正面には二階へと続く階段。
その途中、踊り場にあるステンドグラスに千鶴は心奪われた。
中央に深紅の薔薇が儚くも凜と咲き、周りを色ガラスが放射状に囲む。
それはまるで花の輝きを表すようで、たった一輪の薔薇をどこまでも気高い神の花に仕立て上げる。
そんな荘厳なステンドグラスは、秋の天高い陽の光を浴びることで美しい色ガラスを投影し、玄関ホールに極彩色の神々しい光を届ける。
思わず跪きたくなるような神秘的な光景。千鶴は目を閉じ、祈るように手を組んだ。
しばらくして、千鶴がゆっくりと瞼を開けると、いつのまにかその空間には、にこやかに微笑む老夫婦が静かに佇んでいた。
休憩を挟みながら国分寺の別荘の近くまで来た。
周辺は本邸が建っている場所よりも手つかずの自然が多く残っている。
まもなくして自動車は、一つの鉄格子に囲まれた門の前で止まる。
ほどなくすると鉄の扉が開き、車はそのまま門をくぐり、続く木立の中を進む。
車窓から見える木々は、ちょうど今の季節に見頃を迎えていて、自身のまとう葉を緑、赤、黄色、濃淡様々に艶《あで》やかな色へと変え、千鶴達の目を楽しませてくれている。
色鮮やかな森ともいえるほどの木立を抜けると、大きな二本の銀杏を両脇に携えた雰囲気のある洋館が現れる。
まず目を引くのは秋晴れの太陽光に照らされ、眩いばかりに輝く青い双子の三角屋根。
せり出す屋根につけられた二つの窓は、鳩時計の鳩が飛び出てきそうなアーチ型。
外壁は全体的に白く、横一列に均一に並べられた木目がどこか温かみを感じさせる。
木目に沿うように等間隔に取り付けられた窓には、幾何学模様の洒落た窓枠がはめられ、屋根と同じ鮮やかな青色の雨どいも相まって可愛らしい。
黄金色に染まった双子の銀杏に囲まれた屋敷の全景は、御伽噺に出てくる魔法使いの家のようにも見える。
千鶴がその景色に見とれているうちに自動車は建物の正面で停車する。
いつのまにか車を降りていた桐秋は千鶴側のドアを開け、千鶴の手を引いてくれる。
屋根よりも深い濃紺色の玄関ドアを開けると、そこは小さな玄関ホールとなっていた。
赤いカーペットが全面に敷かれ、正面には二階へと続く階段。
その途中、踊り場にあるステンドグラスに千鶴は心奪われた。
中央に深紅の薔薇が儚くも凜と咲き、周りを色ガラスが放射状に囲む。
それはまるで花の輝きを表すようで、たった一輪の薔薇をどこまでも気高い神の花に仕立て上げる。
そんな荘厳なステンドグラスは、秋の天高い陽の光を浴びることで美しい色ガラスを投影し、玄関ホールに極彩色の神々しい光を届ける。
思わず跪きたくなるような神秘的な光景。千鶴は目を閉じ、祈るように手を組んだ。
しばらくして、千鶴がゆっくりと瞼を開けると、いつのまにかその空間には、にこやかに微笑む老夫婦が静かに佇んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる