幸い(さきはひ)

白木 春織

文字の大きさ
63 / 131
第七章

第四話

しおりを挟む
 ここの管理人をしているという夫妻は桐秋と千鶴を温かく迎え入れると、二人をそれぞれの部屋に案内してくれる。
 
 桐秋は日当たりのよい二階南側の一番奥の部屋で、隣に千鶴の部屋が用意されていた。

 千鶴は部屋に入った瞬間、身の丈に合わない部屋の上等さに驚き、すぐさま桐秋に部屋を変えてくれるように頼んだ。

 されども桐秋には、自身の看病のため隣の部屋に居てほしいと請われてしまう。

 そう言われれば千鶴は断れるはずもなく、結局その部屋を使わせてもらうことになった。

 そんな千鶴の部屋の内装は気品に満ちあふれていながらも、どこか可愛らしさも兼ね備えた美妙びみょうなものだった。

 壁紙は白に少し黄みがかった生成きなり色の地に、淡い薄桃色の小さな薔薇が咲いた上品な模様で、室内の家具の布地にも用いられており、部屋全体のモチーフになっていた。
 
 他の調度ちょうども壁と同様の色、模様で統一されている。

 窓の近くには天蓋てんがいのかかったベッド。

 この部屋の他の家具とは違いこれは真白。

 純白だ。

 特別な趣向を凝らしているわけではないのに、薄膜の白の透明感のある覆いがそこはかとない神秘的な空間を生みだす。

 この部屋でこれだけが異質な存在ではあるが、不思議な美しさが全体的に可憐な部屋をしっとりとまとめ上げている。

 しん清白せいはくなものは、どんな部屋にも合うのだと感じる。

 千鶴は幼い頃に憧れた西洋のお姫様が使っていたベッドみたいだと思う。

 自身の乙女思考に笑いつつ、ドキドキしながら寝台に腰を下ろす。

 そこは柔らかに千鶴の身体を受けとめてくれた。

 こんな素敵なところで休めば良い夢を見られそうだ。

 それにしても、どの部屋もこんなに立派なのだろうか。
 
 他の部屋を覗いてはいないが、ここは部屋に特別なこだわりを感じる。

 千鶴の頭にふとした疑問がわいた時、それを打ち消すように部屋のドアを上品に何度か叩く音がする。

 千鶴はすぐに返事を返す。

 すると失礼しますと言って、先刻部屋を案内してくれた管理人夫妻の妻が、畳紙たとうがみを手に入ってくる。

 千鶴は慌ててベッドを降り、妻の元へ近づいた。

 妻は、中央に置かれているアンティークテーブルに畳紙をおき、前面の和紙をゆっくりと開けた。

 現れたのは、一目で素晴らしい品だと分かる繊細な意匠いしょうの着物。

 千鶴がその美しさに目を奪われていると、

「桐秋様が千鶴様にこちらをお召しになってほしいとおっしゃいまして」

 妻はそう言ってにっこりと微笑む。

 千鶴は妻から告げられた言葉に驚きながらも、桐秋からという言葉に嬉しくなる。

 千鶴は身をかがめ、愛おしげに、そろりと衣裳いしょうの袖を撫でる。

 そんな千鶴の姿に妻は優しく微笑み、

「さっそく着付けましょう」

 と提案する。
 
 妻からのありがたい申し出に千鶴は笑みを浮かべ、こくりと頷いた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...