「俺達。付き合ってみる?」〜姫と王子と呼ばれる二人の甘酸っぱい青春譚〜

アナマチア

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第9話 病原菌だけど、恋していいですか?

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 養護教諭のおばちゃん先生の車で病院に向かい、王路はレントゲン検査を受けた。オレは家族じゃないから、待合いでソワソワしながら結果を待つ。そして――

「感染性の急性胃腸炎!?」

 今いる場所が病院の待合だから、オレは驚きつつ、慌てて声のトーンを下げた。

「それって、何が原因なんすか?」

 オレの質問に、おばちゃん先生は優しく教えてくれる。

「病院のお医者さんが言うには、さまざまな原因があるって。だけど、おそらく今回は、ウイルスや細菌が原因で高熱がでたんでしょう、っておっしゃってたわよ」

 そ、そ、それってまさか……! オレは動揺が顔に出ないよう、必死に堪えた。

「ウイルスや細菌感染……それって、ゲロを……触る、とかで罹りますか?」

 実際には、マウストゥーマウス。キスしちゃったんですよねえ、はい。

「あらまっ! 心当たりがあるのね?」

 「……ま、まあ……」と、オレは、ソッとおばちゃん先生から視線をそらした。けど内心では――

 ありまくりです! むしろ原因の病原菌はオレです!! ……と叫びたいのを我慢した。

 オレはいたたまれなくて、早くこの場所から逃げ出してしまいたい思いだった。だけど、そんな無責任なことは出来ない。

 「い、今、王路はどこに?」と、内心動揺しているせいでどもってしまったけど、おばちゃん先生は気にしていないようでホッとする。

「注射を打ってもらっているわ。それが終われば、あとは窓口で支払いね。あっ、お薬も出してくれるそうよ」

「じゃあその後は、看護師のかーちゃんがオレんちに連れて帰って、看病してくれるって言ってました」

「助かるわ~! でも一応、もう一度、王路君のお母さんに連絡してみるわね」

 おばちゃん先生は、ジャケットのポケットからスマホを取り出して、オレに向かって手を振りながら病院の外に出ていった。オレも先生にひらひらと手を振って見送ったあと、一人残された待合いで頭を抱えてしゃがみ込んだ。――だあーーっ!! 完っ全に、オレとチューしたせいじゃねえかぁーーっ!!

「知らなかった……オレって、病原菌だったんだ……」

 道行く患者さんや付き添いの人に心配されながら、オレはよろよろと歩いて、王路が出てくるはずの病室前の椅子に座った。――オワッタ。オレは病原菌……もう、王路とキス出来ない。

『なぁーにが『リップクリーム』だバーカ!! お前は病原菌なんだ!! そんなもん塗ったってなあ、もう二度と王路とキスできやしねぇーよ!!』

 脳内の悪魔が、かなりキツイ言葉でオレを責めてくる。

『何言ってんだ! 今回はたまたま病原菌を持ってて、たまたまキスして、たまたま急性……なんちゃら? を発症しただけだろう!』

 脳内の天使が、オレを擁護してくれる……のはいいけど、病名くらい覚えとけ!!

 オレは自分も病人なんじゃないかってくらいに、頭をふらふら揺らしながら待合いの椅子に座っていた。





 ――数分後。

 病室の扉ががらがらと音を立てて開いた。薄いカーテンの向こうで、王路が礼を言っている声が聞こえる。――よかったぁ~! 喋れるようになったんだな、王路。

 「失礼しました」と、王路は意外とケロッとした顔で出てきた。

「お、王路。大丈夫か? 会計まで少し時間かかるらしいから、窓口前の椅子んとこ行こーぜ?」

 顔色は良くなったけど、熱が下がっていないからか、フラフラしている王路の腕を持った。それからオレは王路の杖代わりになって、窓口前まで付き添って、王路と並んで椅子に座った。ちなみに、おばちゃん先生は戻ってきてない。

 そわそわして座っていると、王路がオレの頭に寄りかかってきた。王路がオレより11cmも背が高いから、肩に寄りかかれなかったんだろうな。

「おい、王路。横になった方が良いんじゃねーか? そっちのが楽だろ。この一列、オレらしか座ってねーし。ほら、横になれよ」

 ぼうっとしている王路は、こくんと頷いた。――よし! じゃあ、オレはもうちょい横に移動して……って、え?

 オレは膝に重みと熱さを感じて、自分の足を見下ろした。

「ひ、膝枕……?」

 ん、んん? オレ今さっき、横になれって言っただけだよな? 膝枕してやるなんて、一言も言ってねーぞ!?

「……どーしてこうなった……」

 オレは恥ずかしくて、いっそのこと気を失えたらいいのにと思った。――まあ、そんな都合のいいことは起きちゃくれないけどな。

「……それにしても、すげえ汗だな」

 ズボンごしに伝わる、王路の頭の熱さと汗。オレはスポーツバッグから、まだ使っていないタオルを取り出して、王路の額や首元を拭いてやった。その間もずっと、王路は苦しそうに息をしていて、かわいそうで仕方がなかった。

「もうすぐ、うちに連れて帰ってやるからな。安心して眠っとけ」

 オレの言葉が聞き取れたのか、王路はぼんやりと目を開けて、ふにゃりと笑って眠りについた。その顔をダイレクトに見てしまったオレは、両手で口を塞ぎながら、なんとか叫ぶのを耐えた。――なんだ今の。めちゃかわなんだが? くっそかわいい笑顔だったんだが??

 オレは気分の高揚を抑えきれず、黙ったままガッツポーズをしたのだった。
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