七不思議をつくろう

第一の不思議

思いだしたくもない

　穏便に。平穏に。波風たてず、いさかわず。私が神経をすりへらして毎日そう心がけているのにはわけがある。

　きっかけは小学生のころ。いわゆる学校裏サイトの、クラスの掲示板を教えてもらったときのことだ。

　その日の放課後、帰宅してすぐパソコンを起動した。みんな学校外、しかもこっそりネット上で遊んでいたのかと思うと、なんだか凄く秘密めいていて、わくわくしながら。

　どんどん書きこまれていく文字を見ていると、リアルタイムにみんながいることが実感できた。流行りのゲームの話、昨日のテレビの話、先生や親へのグチ……。そんななか、私の心臓をひときわ大きく脈打つ文字が現れた。

『栞里ってウザくない？』

　見まちがいかと思った自分の名前を皮切りにコメントが続く。

『わかる。いい人ぶってむかつく』
『おせっかい』
『ありがた迷惑。絡んでくんな』
『でしゃばり』
『目立ちたがりや』
『自分大好きか』

　けれどもそれは、あっというまに新しい話題に埋もれ、なにごともなかったかのように押し流されていった。心臓が、ぎゅうぎゅうと悲鳴をあげていた。

　翌日、重い足どりで登校。本当は休みたかったけど、悪口を書きこんだのが誰なのか見極めたくて。

「あ、おはよう栞里」
「おは、しおりん」
「おはよー！　そのヘアアクセかわいいね、どこで買ったの？」

　教室には、昨日までと変わらない態度のクラスメイトたちがいた。このうちの何人かが……いや、もしかすると全員が心の中で私を嫌っているのだと思ったら、とたんに体の芯から震えがきた。

　誰もかれもが人間のふりをした悪魔に見えた。親しみあふれる笑顔も全部嘘に思えて、どうしようもなく恐ろしくなった。

　そこからは心を殺して生きてきた。でしゃばらないように、目立たないように、細心の注意を払いながら。まるでトゲだらけの狭い箱に閉じこめられた、身動きのとれない不自由な日々を。

　掲示板は二度と見なかったから、実際にその努力が功を奏したのかはわからない。けれど、上っ面の平和は守ることができたし、進級進学をへた現在も維持できていると思う。

　だからこそ、顔出しでＳＮＳなんて言語道断だった。どう頑張ったって反感をかうに決まってる。今までの苦労が一瞬で水の泡になるのは、絶対の絶対に嫌だ！

　悪口を言われるのは、つらい。嫌われるのは、こわい。悔しくて惨めで、誰のことも信じられずに、ひとりぼっち。

　もう二度と、あんなふうになりたくない。そのためなら、私は――。