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第一の不思議
ゆれる
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「そういや七不思議の集まりは?」
響子が尋ねてきたのは週明け。月曜の放課後だった。
いくら私がつっぱねたとしても、数のうえで劣勢。なし崩しに押し負けてしまいそうで、あの日以来、無断欠席し続けていた。
七不思議メンバーたちとはクラスが違うので、日常生活に支障なし。廊下ですれ違っても空気を読んで、声をかけたりもしてこない。いい人たちだな。ちょっと個性は強めだけど。
「もう行かなくてもいいかな、って」
「やめるんだ?」
「だって、もともと理事長のわがままだし。律儀に付きあう必要ないよね」
「ま、そりゃそうだ」
とはいえ、うやむやなままにしておくのは落ちつかなくて、正式に辞退させてもらえるよう理事長にお願いすることに。
部活のある響子と別れ、理事長室に向かう。五月半ばの青々とした枝葉が廊下の窓越しにも眩しく、それがあまりにも自分の気分と真反対で、いっそう憂鬱にさせる。
こうなるくらいなら最初から断るなり抗議するなりして、理事長に諦めてもらえばよかった。そうしたら私もみんなも、嫌な気持ちにならずにすんだのに。
後悔先に立たずを噛みしめ廊下をすすむ。と、理事長室の前にきたとき、扉のむこうから怒号が届いた。
「俺はそんなの望んでないって何度も言ってんだろ!」
聞き覚えのある声――夏木くんだ。
「あんまりしつこいと母ちゃんに言いつけるからな!」
出てくる気配がして大急ぎで来た道を戻り、階段をおりる。甥っ子(夏木くん)に怒鳴られた直後の理事長と会うのは非常に気まずい。しかたない、日を改めよう。
そのまま昇降口をめざす。が、厄日なのかタイミングの悪さは続き、今度は義井くんとばったり出くわした。よりによって、なんでこんなところに。恨み言をこらえ、目をそらして通りすぎようとした。けれど……。
「待って! 僕、中垣さんに謝りたくて!」
予想外の言葉で、うっかり足をとめてしまう。
「浮かれてたんだ、僕ら。中垣さんに、まともに相手してもらえて。そんなふうに接してもらえたの、これまで誰にもなかったから」
次から次に飛びでてくるのは、思いもよらない内容だ。
「嫌なこと押しつけようとして本当にごめん。今みんなで話しあって、違う方法を模索中なんだ。それで、もし中垣さんが嫌じゃないなら……また、いつでも来てよ。みんな大歓迎だから」
義井くんは一方的に喋りきると、逃げるように去っていった。
気配の消えた廊下。さしこむ陽光のなか、窓外の木々の影が、強く大きく揺れていた。
響子が尋ねてきたのは週明け。月曜の放課後だった。
いくら私がつっぱねたとしても、数のうえで劣勢。なし崩しに押し負けてしまいそうで、あの日以来、無断欠席し続けていた。
七不思議メンバーたちとはクラスが違うので、日常生活に支障なし。廊下ですれ違っても空気を読んで、声をかけたりもしてこない。いい人たちだな。ちょっと個性は強めだけど。
「もう行かなくてもいいかな、って」
「やめるんだ?」
「だって、もともと理事長のわがままだし。律儀に付きあう必要ないよね」
「ま、そりゃそうだ」
とはいえ、うやむやなままにしておくのは落ちつかなくて、正式に辞退させてもらえるよう理事長にお願いすることに。
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こうなるくらいなら最初から断るなり抗議するなりして、理事長に諦めてもらえばよかった。そうしたら私もみんなも、嫌な気持ちにならずにすんだのに。
後悔先に立たずを噛みしめ廊下をすすむ。と、理事長室の前にきたとき、扉のむこうから怒号が届いた。
「俺はそんなの望んでないって何度も言ってんだろ!」
聞き覚えのある声――夏木くんだ。
「あんまりしつこいと母ちゃんに言いつけるからな!」
出てくる気配がして大急ぎで来た道を戻り、階段をおりる。甥っ子(夏木くん)に怒鳴られた直後の理事長と会うのは非常に気まずい。しかたない、日を改めよう。
そのまま昇降口をめざす。が、厄日なのかタイミングの悪さは続き、今度は義井くんとばったり出くわした。よりによって、なんでこんなところに。恨み言をこらえ、目をそらして通りすぎようとした。けれど……。
「待って! 僕、中垣さんに謝りたくて!」
予想外の言葉で、うっかり足をとめてしまう。
「浮かれてたんだ、僕ら。中垣さんに、まともに相手してもらえて。そんなふうに接してもらえたの、これまで誰にもなかったから」
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「嫌なこと押しつけようとして本当にごめん。今みんなで話しあって、違う方法を模索中なんだ。それで、もし中垣さんが嫌じゃないなら……また、いつでも来てよ。みんな大歓迎だから」
義井くんは一方的に喋りきると、逃げるように去っていった。
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