七不思議をつくろう

真山マロウ

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第七の不思議

欲しているのは正論じゃなく

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「響子ちゃんが理由教えてくれた。手伝ってくれてありがとう」
 吹奏楽部の子がお礼を言ってきたのは、翌日の放課後。響子が帰ったあとだった。

「結局なんだったの?」
「忙しいみたい、家のことで。中垣さん、なにも聞かされてないの?」
 ぐさっと刺さる。実際なにも聞かされていない。どうして私に隠すんだろう。

「もしかしたら、仲いいから言わないのかも。心配させないように」
 ショックが顔にでていたようで、そんな言葉を返してくれる。気をつかわれてしまったのが、よけいに惨めだ。

 今日も集合場所で、おやつタイム。さしいれは理事長のいちおし、チーズラスクだ。「永遠に食べていられる」の言葉どおり、やめるタイミングを逃しそうになる。が、どんなに美味しくても現状では寂しさが助長されるばかりだ。

「友達って、なんなんだろうね」
 本音がぽろり。気をゆるしているせいで、つい甘ったれる。

「なんだか青春の香りがしそうなテーマですね」
「僕、そういう話けっこう好きかも」
「俺も嫌いじゃない」
 福谷さん、義井くん、志倉くんは打てば響く受け答え。夏木くんはチーズラスクまっしぐら。もうそのまま、ずっと食べてていいよ。

「部活休んでる理由、判明したんだけど、私には教えてもらえなかったんだよね。部員の子は、心配させないためじゃないかって言ってたんだけど」
「確かに、身近な人にこそ言えないときもある」
「僕もそう思う。それに中垣さんって、すごく親身になってくれそうだもんね」
「わかります。きっとご友人なりの気づかいですよ」

 三人とも優しい。だから、際限なく吐きだしてしまう。

「だとしても、言ってほしかったよね。勘ぐっちゃうもん。友達だと思ってたの私だけだったのかも、って」
 一方通行の虚しさに潰されてしまいそうだ、と思っていたら、
「そんなに気になるなら、本人にきいてみりゃいいんじゃねえの」

 夏木くんは、どうしていつも的確に核心をつくのかな。しかも、聞いてなさげな態度だったのに。

「それができないから困ってるんだよね」
「なんでだよ」
「なんででも。余計にこじれて、関係悪化したら嫌だし」
「ふーん。ま、好きにすりゃいいんじゃねえの」

 話しているあいだ、鬼塚くんの顔がちらつく。むこうは傷つけたことを悔やみつづけていそうだったけど、そんなの微塵も気にしなくていいと思う。

 だって夏木くん、ひたすらラスク食べてるもん。絶対、食べもの以外のこと、あんまり深く考えていないよ。
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