FLY HIGH

真山マロウ

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飛翔

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 人が増えてきたので場所を移動。まわりに誰もいない静かなベンチに腰をおろし、一息つくことにする。おおまかなビジョンしか決まっていないのに、気持ちはすこぶる軽い。

「そういや飛行機、何時のに乗る予定なの」

 ここから空港までは電車を乗りついで一時間ちょい。さしつかえなければ見送りにいきたい。

「飛行機?」

 きょとん。シロが小首をかしげる。

「早とちりしちゃった。新幹線だったかな」
「新幹線?」

 再度きょとん。

「じゃあ、バスとか」
「バス?」

 嫌な予感がする……。

「シロ、移動手段は?」
「ぼく、乗り物は使わないよ」

 やっぱり徒歩だった! もしやバックパッカー的な旅だろうか。体力勝負は苦手そうな華奢さなのに。

「ハードじゃない? 大丈夫?」
「わかんないけど、きっと楽しくなると思うよ」
「……そっか」

 シロは、すでに前を向いている。それは素晴らしいことで、本来なら祝福すべきなのだろうけれど。

「ごめんね。悠乃が夢を叶えるまでそばで応援したかったけど、できなくて。恩返しも」

 おいてけぼりを食ったみたいで勝手にへこんでいたら、シロに誤解をさせてしまった。

「そんなことない。充分だよ。おかげで目標できたし。恩返しだって、もうほんと気にしないで。こうしてお散歩つきあってもらえて大満足だし」

 そうだ、シロにはさんざん励ましてもらった。これ以上なにかを求めるのは甘えすぎだ。

「私のほうこそ自分のことばかりで。なにもお返しできなくて、ごめんね」

 最後の最後で思いやりに欠けていたことに気づき自己嫌悪。と、がっくり肩を落とした私の手にシロが自分のを重ね、丁寧に言葉をつむぐ。

「ぼくは悠乃に、とても大切なものをもらったよ。ありがとう」

 手の甲に触れるシロの手は今日も冷たい。……はずなのに、なぜだか感覚が弱い。そのうえ、

「あれ?」

 幻覚かと思って、目をしばたたかせる。シロの背中に、うっすら〈なにか〉がはえているように見える。

「ずっと心配だったんだ、悠乃のこと。このまま死んだみたいに生きてったらどうしようかと思って」

 それは鳥のようなふかふかの翼ではなく、平たくて葉脈のような筋が入っていた。

 見覚えがある。これははねだ。さっきまで菜の花のあいだを軽やかに舞っていた、小さくて白くて、黒い紋様の――。

 頭の中に鮮烈な稲妻が走る。たしか去年の春先、ここを訪れた時だ。広場のあたりを歩いていると、通り道に青虫がうごめいていたのが、ふいに目にとまったことがあった。
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