俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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後編

銀髪の団長と三十人の騎士(主人公視点)

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  翌朝。

「ヴィクトール様!ティアナ様!お目覚め下さい!」
「ヴィクトール様!」

  いつもより少し早い時間、俺とティナはハンスとクリフに起こされた。
  正確に言うと、常に無いほど慌てた二人が部屋に飛び込んで来て、何事かと飛び起きたっていうのが正しいかな。

「何事だ」
「ど、どうしたの」

  駆け寄って来た二人を落ち着かせようと、俺は努めて冷静に問いかけた。
  二人によると、早朝、街の外の朝靄の向こうに、大勢の人馬の影が見えたと、アヒムさんが宿にやって来たのだそうだ。
  アヒムさんは大きな盗賊団ではないかと予想し、早急に此処を出ようと言っているらしい。
  いやいや、なにそれ。
  此処はヒルシュ公爵領だよ?南方騎士団のお膝元だよ?馬を持ってる大規模な野党だか、盗賊団だか知らないけど無法者を集団でのさばらせとく訳ないでしょ。

「……とにかく、着替えるか………」
「はい!すぐに!」
「ティアナ様は此方へ!」

  バタバタと使用人達が部屋を出入りし始め、俺はさっさと着替えるとアヒムさんの待つ玄関ロビーに降りて行った。

「おはよう、アヒムさん」
「おい!なに呑気にあくびしてんだよ!ハンスに聞いてないのか!?」
「聞いたよ。とにかく、街壁まで付いて来てくれないかな」
「は!?」

  俺は寝ぼけ眼をこすりながら、早く街から出ようと急かすアヒムさんを連れて人馬の一団が現れたという南側の街壁に登った。

「すみません、単眼鏡をお貸し頂けますか」
「えっ?なんだ、あんた」
「おい!ヴィル!」

  俺はアヒムさんの声を全力でスルーして、壁の上で単眼鏡片手に右往左往していた自警団らしい人に声を掛けた。

「ん?そのふくろうの紋章……まさか、コール様!?」
「ヴィクトールと申します。以後お見知りおきを」
「ヴィクトール様だって!?」

  俺は腰をぬかしそうな勢いで驚いているその人からやっと単眼鏡を借りると外の一団に向けて覗いた。

「…………」

  俺が覗いた先には、案の定というか予想どおりというか、見知った顔が見え、まだ薄く朝靄のかかるなか、呑気にパンを噛って小休止しているのが見えた。
  何であの人が居るのかな……。まあ多分、いつものように周りの制止も聞かずに飛び出して来たんだろうけど。
  全く悪気が無いからあの人はタチが悪いんだよな……。

「……すみません、守衛殿。この街の開門時刻は何刻でしょう」

  俺は単眼鏡から目を離すと、そう守衛さんに聞いた。

「へぁっ!?は、はい!明けの六刻半(午前七時)です!」

  明け六刻半……あと半刻(一時間)か。
  俺は朝日の昇り始めた東側を振り向いた。

「開門時刻になったら、あの一団の先頭にいる銀髪の男だけを通して頂けますか」
「えっ?」
「お、おいヴィル!あいつらが何者か分かってんのか!?」
「分かってるよ。……守衛殿、安心していただきたい、彼らは私の古い知り合いなのです」

  俺は守衛さんに、俺達の宿を伝え、銀髪の男に伝言して貰うように頼んで宿に戻ろうとした。
  そのとき、壁を登ってきた人たちが。

「町長!」

  町長さん?
  ちょうど良かった。

「これは一体どういうことだ?その方達は?」

  守衛さんが町長さんに、外の一団について報告し終わるのを待って、俺から声を掛けた。

「初めまして町長殿」
「どうも初めまして。貴方は?」

  俺が名乗り、俺の襟章のふくろうをガン見した町長さんは驚いてかしこまった。

「失礼致しました!貴族の方がお泊まりになっているとは聞いていましたが……、まさかコール家のヴィクトール様とは……」

  この国の人間は、主神アレスと並んで祀られる四英雄の子孫、四大公爵については子供の頃から絵本や学校でさんざん聞かされて育つ。
  四大公爵が戴く紋章と、家名を知らないのは赤ん坊くらいなものだと言われる。
  コール家のふくろう
  ヒルシュ家の鹿。
  ツァイス家の猫。
  バルツァー家の獅子。
  それぞれの襟章や肩章を身につけた者を自然と敬う習慣が身に付いているのだ。

「それはそうと町長殿。外の一団なのですが……」

  俺はかくかくしかじか、外の団体は知り合いで、盗賊などでは無いことを説明した。

「本当に、お騒がせして申し訳ない。彼らは私が呼んだのですが、まさかあんなに大勢でこのような早朝に来るとは思っていなかったものですから」

  本当は呼んでないけど、そういう事にしておいた。

「左様でございましたか……。こちらこそ早とちりをしまして、失礼致しました」

  それと、町長さんにも守衛さんにお願いした事を伝えておいた。
  さて、そろそろティナも支度が終わったかな。
  俺はしぶしぶ納得したらしいアヒムさんを連れて、今度こそ宿に戻った。

「おかえりなさい、ヴィル」

  宿に戻ると、ティナは支度を整えてホールで待っていてくれた。

「ただいま、ティナ」
「外の様子はどうだったの?」
「心配ないよ、盗賊なんかじゃなかった。俺たちのお客だったよ」

  俺が、外の一団にあの人が居た事を伝えると、ティナの顔がみるみる険しくなった。
  うん、そうなるよね。

「ティナ、あの人にはティナから言ってもらった方が効くから、頼むよ」
「ええ、任せて頂戴」

 俺たちは開門時間までの間、朝食を済ませてしまう事にした。
  そして、明け六刻半(午前七時)からほどなくして、あの人が俺たちのもとを訪ねて来た。

「ティナ!ヴィル!迎えに来たぞ!」

  バァン!

  と、満面の笑みで飛び込んで来たその人をティナが寒々しい笑みで迎えた。

「あら、レオン兄様。ご無沙汰しております。さ、其処へお座りになって?」
「うん?お、おう」

  ティナの笑みの圧力に圧されたのか、銀髪を短く刈り込んだ褐色の肌のその人は、大人しくソファに腰かけた。

「レオン兄様、わざわざ此処まで出向いていただいてありがとうございます。ですが、随分と賑やかなお迎えのようですわね?」
「おう!ティナとヴィルを迎えに行くっつったら非番の野郎共が皆付いて来ちまってよ!ははは!」

  ああ、やっぱりなぁこの人は。本当に悪気が無いんだよなぁ。
  この人、この人言っているが、この人はティナの二番目の兄さんだ。
  ちょっと空気読まないのと、猪突猛進なのさえ除けば、肩書きとルックスは完璧。
  なにせ、ヒルシュ公爵家の次男にして南方騎士団の海上師団長だ、婚約者はもちろん居るが、それでも街に出れば女性達の注目のマトだ。

「兄様?私は怒っているんですのよ?」
「えっ?何でだ?」

  俺はティナに任せてだんまりを決め込んだ。
  頑張れティナ。

「兄様ッ!」
「おぁっ!?」
「あのような大勢でこのような早朝から街へ押し寄せて!街の方々は盗賊が現れたのだと、危うく大騒ぎになるところでしたのよ!?」
「うぇ!?そうなのか!?」
「そうなのかではありませんッ!」
「ひえっ」

  レオン兄様は涙目で俺に視線を送ってくるけど無視。
  言いたいことは分かるけど、俺はティナと同意見だからね。レオン兄様の味方はしないよ?

「兄様のことですから、大方ハルト兄様やリーン兄様が止めるのも聞かずに飛び出して来られたのでしょう!?」
「えっ、何で分かんの」
「見ていなくとも分かります!!兄様は指揮官としてまず御自身の行動を律する事をなさいませ!」
「ひぇっ!す、すみませんでした!」

  はい、御愁傷様でした。
  今回はレオン兄様が全面的に悪いので存分に反省してもらおう。
  俺はお疲れ様の意味を込めて、ティナの肩を叩いた。

「失礼致します」

  と、そこで、丁度いいタイミングでハンスがお茶を運んで来た。
  レオン兄様はまだしょぼくれているが、放っておいて俺たちはお茶を口に運んだ。

「これを飲んだら、俺達も出発しようか」
「ええ、そうね」

  街の壁の外に待機しているであろうレオン兄様の部下達が行商人の人に迷惑を掛けない内にね。

「おう!野郎共待たせたな!」

  ティナに怒られへこんでいたレオン兄様はいつの間にか復活し、俺達の乗った馬車を先導するようにして街門を出ると、三十人からの屈強な男達が列をなしていた。
うわぁ、壮観。
  やっぱり見事に街道を行き来する人たちを威圧してるし。

「団長!おせぇよ!」
「お嬢とは会えたのかよ!」

  レオン兄様が近づいて行くと、途端にわあわあと騒がしくなる男達。
  なにこれ。
  一個小隊クラスの人数じゃん。いくら非番だからって何してんのこの人達。

「慌てんな野郎共!ティナ!ヴィル!こいつらに顔を見せてやってくれ!」

  レオン兄様の後を付いて進んでいた馬車を止めて貰い、フランクが扉を開けてくれるのを待って、俺達はゆっくりと馬車を降りた。

「お帰りお嬢!!」
「ヴィル坊も元気だったか!」

  途端、俺達は歓声に迎えられ、おっさん達のアイドル的存在のティナに、皆が口々にお帰りと言ってくれた。
  相変わらずのティナ人気。
  かくいう俺は彼らの間では、船に忍び込んだり、訓練に混じって剣を振るったりするやんちゃ坊主で通っている。

「野郎共!そのくらいにして出発するぞ!」
「「「「「おう!!」」」」」

  レオン兄様の号令で、ビシリと再び列を整えるおっさん達。
  その統率力で、彼らを置いて来て欲しかったところだ。
  って。

「よし!各人、馬車隊の周囲を囲め!」
「「「「「おう!」」」」」

  俺達が馬車に戻ると、ガチャガチャと馬具を鳴らしながら馬車の周りを囲む様に並んだ。
  頼んでいなくても俺達に付いて来る気満々の彼ら。非番との事だったが、腰にはそれぞれしっかりと剣を差し、軽装の皮鎧を身につけている。
  いいのかな…、本当に……。
  ていうか、一個小隊の警護とかどこの王様だよって扱いなんだけど………。

「ヴィル、ごめんね兄様が……」
「いいんだよ、賑やかでいいじゃないか」

  俺が半ば投げやりにそう言うと、すっかり主導権を握ったレオン兄様の号令のもと、再び馬車が動き出したのだった。
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