24 / 28
愛のプレゼン、覚悟の答え
しおりを挟む
「…失礼いたします」
社長室の扉が開き、詩織が入ってきた。
緊張で顔色は蒼白だ。指先が微かに震えているのが分かる。
けれど、彼女は逃げなかった。凛とした姿勢で、父と、そして敵意を剥き出しにする彩華さんの前に立った。
僕は彼女の隣に並び、そっと腰に手を添えて支えた。
そして、父に向かって口を開いた。まるで、社運を賭けた新プロジェクトの企画を説明するように。
「…紹介します。営業部課長、桐沢詩織さんです」
僕は彼女の実績を、淡々と、しかし熱を込めて語り始めた。
「…彼女は、地方支社で誰よりも困難な案件をこなし、数字を立て直しました。本社に来てからも、異例のスピードで課長に昇進し、先日の大型契約も彼女のリーダーシップによるものです」
ただ「好きだ」と言うだけでは、父には響かない。
父が認めるのは〝有能な人間〟だけだ。
「…彼女は、僕の顔色を伺うイエスマンではありません。間違っていることは間違っていると言い、部下を守るために泥をかぶる強さを持っています」
僕は詩織を見つめ、言葉に愛を滲ませた。
「…彼女は、穂積の家名にぶら下がるような女性ではありません。むしろ、僕が背中を預けられる、唯一無二のパートナーです」
一通りの説明を終えると、父はゆっくりと顔を上げ、詩織をジッと見つめた。
値踏みするような、鋭い視線。その重圧に、彩華さんなら泣き出していたかもしれない。
「…桐沢くん、と言ったか?」
「は、はい!」
「…静流は、面倒な男だぞ。家柄のしがらみも多い。親戚付き合いも煩わしい。…ただ〝好き〟というだけで務まる場所ではない」
父の声が低く響く。
「…穂積家を継ぐ者の嫁として、全ての自由を捨てる覚悟はあるのか? …そう上手くはいかないぞ」
威圧的な問いかけ。
それは、〝お前にその器量があるのか?〟という最終試験だった。
詩織は一瞬だけ私を見て、ギュッと拳を握りしめた。
そして、父に向かって真っ直ぐに答えた。
「…努力します」
「…ほう?」
「…私は、不器用で、至らない点ばかりです。…でも、静流さんが私を必要としてくれるなら…私は、彼のために強くなりたい」
彼女の声が、熱を帯びる。
「…努力します。もし、努力が足りなければ…もっと、努力します! …私には、彼以外考えられませんから!」
そのシンプルで、愚直なまでの答え。
計算高さなど微塵もない、魂からの叫び。
彩華さんが「なによ、生意気な……」と呟くが、父はそれを手で制した。
父はしばらく詩織を睨みつけていたが、やがて…フッと肩の力を抜き、苦笑した。
「…『もっと努力する』、か。…ふん、静流が惚れるわけだ」
父はデスクの上の辞表を手に取り、私の方へ放り投げた。
「…こんなもの、持って帰れ。こんな紙切れ、二度と見せるな」
「…父さん」
「…彩華さん、すまないが、この話はなかったことにしてくれ」
「そ、そんな! おじ様!?」
父は彩華さんの抗議を無視し、僕と詩織を見た。
事実上の、交際への承認だった。
私たちは顔を見合わせ、安堵の涙を浮かべた。
しかし、父の口から出た次の言葉が、私たちを新たな運命へと導くことになった。
「…桐沢くんと言ったな?」
「…はい。」
「申し訳無いが、席を外してもらえないだろうか?」
詩織は僕の顔を見た。僕は優しい微笑みを見せて頷いた。
「はい。それでは失礼致します。」
詩織がドアを閉め、社長室から遠ざかる音が聞こえる。
安堵した僕に父は改めて、ソファーに深く座ると、僕をジッと見据えていた。
「分かった。静流、お前の好きにするが良い。」
「…ありがとうございます。」
「…その代わり、静流。お前に辞令がある」
「…え?」
「…来月から、ニューヨーク支社へ行け。…次期社長になるための、最後の試練だ」
「ニュー、ヨーク…?」
突然のことでの声が震える。
海外への異動。それは、栄転であると同時に、僕たちがようやく掴んだ〝二人一緒の生活〟を引き裂く、最後の波乱の幕開けだった。
社長室の扉が開き、詩織が入ってきた。
緊張で顔色は蒼白だ。指先が微かに震えているのが分かる。
けれど、彼女は逃げなかった。凛とした姿勢で、父と、そして敵意を剥き出しにする彩華さんの前に立った。
僕は彼女の隣に並び、そっと腰に手を添えて支えた。
そして、父に向かって口を開いた。まるで、社運を賭けた新プロジェクトの企画を説明するように。
「…紹介します。営業部課長、桐沢詩織さんです」
僕は彼女の実績を、淡々と、しかし熱を込めて語り始めた。
「…彼女は、地方支社で誰よりも困難な案件をこなし、数字を立て直しました。本社に来てからも、異例のスピードで課長に昇進し、先日の大型契約も彼女のリーダーシップによるものです」
ただ「好きだ」と言うだけでは、父には響かない。
父が認めるのは〝有能な人間〟だけだ。
「…彼女は、僕の顔色を伺うイエスマンではありません。間違っていることは間違っていると言い、部下を守るために泥をかぶる強さを持っています」
僕は詩織を見つめ、言葉に愛を滲ませた。
「…彼女は、穂積の家名にぶら下がるような女性ではありません。むしろ、僕が背中を預けられる、唯一無二のパートナーです」
一通りの説明を終えると、父はゆっくりと顔を上げ、詩織をジッと見つめた。
値踏みするような、鋭い視線。その重圧に、彩華さんなら泣き出していたかもしれない。
「…桐沢くん、と言ったか?」
「は、はい!」
「…静流は、面倒な男だぞ。家柄のしがらみも多い。親戚付き合いも煩わしい。…ただ〝好き〟というだけで務まる場所ではない」
父の声が低く響く。
「…穂積家を継ぐ者の嫁として、全ての自由を捨てる覚悟はあるのか? …そう上手くはいかないぞ」
威圧的な問いかけ。
それは、〝お前にその器量があるのか?〟という最終試験だった。
詩織は一瞬だけ私を見て、ギュッと拳を握りしめた。
そして、父に向かって真っ直ぐに答えた。
「…努力します」
「…ほう?」
「…私は、不器用で、至らない点ばかりです。…でも、静流さんが私を必要としてくれるなら…私は、彼のために強くなりたい」
彼女の声が、熱を帯びる。
「…努力します。もし、努力が足りなければ…もっと、努力します! …私には、彼以外考えられませんから!」
そのシンプルで、愚直なまでの答え。
計算高さなど微塵もない、魂からの叫び。
彩華さんが「なによ、生意気な……」と呟くが、父はそれを手で制した。
父はしばらく詩織を睨みつけていたが、やがて…フッと肩の力を抜き、苦笑した。
「…『もっと努力する』、か。…ふん、静流が惚れるわけだ」
父はデスクの上の辞表を手に取り、私の方へ放り投げた。
「…こんなもの、持って帰れ。こんな紙切れ、二度と見せるな」
「…父さん」
「…彩華さん、すまないが、この話はなかったことにしてくれ」
「そ、そんな! おじ様!?」
父は彩華さんの抗議を無視し、僕と詩織を見た。
事実上の、交際への承認だった。
私たちは顔を見合わせ、安堵の涙を浮かべた。
しかし、父の口から出た次の言葉が、私たちを新たな運命へと導くことになった。
「…桐沢くんと言ったな?」
「…はい。」
「申し訳無いが、席を外してもらえないだろうか?」
詩織は僕の顔を見た。僕は優しい微笑みを見せて頷いた。
「はい。それでは失礼致します。」
詩織がドアを閉め、社長室から遠ざかる音が聞こえる。
安堵した僕に父は改めて、ソファーに深く座ると、僕をジッと見据えていた。
「分かった。静流、お前の好きにするが良い。」
「…ありがとうございます。」
「…その代わり、静流。お前に辞令がある」
「…え?」
「…来月から、ニューヨーク支社へ行け。…次期社長になるための、最後の試練だ」
「ニュー、ヨーク…?」
突然のことでの声が震える。
海外への異動。それは、栄転であると同時に、僕たちがようやく掴んだ〝二人一緒の生活〟を引き裂く、最後の波乱の幕開けだった。
1
あなたにおすすめの小説
おじさんは予防線にはなりません
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」
それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。
4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。
女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。
「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」
そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。
でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。
さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。
だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。
……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。
羽坂詩乃
24歳、派遣社員
地味で堅実
真面目
一生懸命で応援してあげたくなる感じ
×
池松和佳
38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長
気配り上手でLF部の良心
怒ると怖い
黒ラブ系眼鏡男子
ただし、既婚
×
宗正大河
28歳、アパレル総合商社LF部主任
可愛いのは実は計算?
でももしかして根は真面目?
ミニチュアダックス系男子
選ぶのはもちろん大河?
それとも禁断の恋に手を出すの……?
******
表紙
巴世里様
Twitter@parsley0129
******
毎日20:10更新
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
売れ残り同士、結婚します!
青花美来
恋愛
高校の卒業式の日、売り言葉に買い言葉でとある約束をした。
それは、三十歳になってもお互いフリーだったら、売れ残り同士結婚すること。
あんなのただの口約束で、まさか本気だなんて思っていなかったのに。
十二年後。三十歳を迎えた私が再会した彼は。
「あの時の約束、実現してみねぇ?」
──そう言って、私にキスをした。
☆マークはRシーン有りです。ご注意ください。
他サイト様にてRシーンカット版を投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる