深夜のカルテ、白衣の裏側 ~禁欲女医は、研修医(ケダモノ)に触診される~

銀条リン

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白い巨塔の冷徹な罠

離島への片道切符、愛ゆえの嘘

「…追放、ですか…」

乾いた唇から、掠れた声が漏れる。

院長は冷徹に頷き、一枚の地図をテーブルに広げた。
指差されたのは、本土から船で数時間かかる、僻地の離島診療所だった。

「どうかね?ここなら、君の腕も活かせるだろう。…ほとぼりが冷めるまで、そこで頭を冷やしたまえ」

「…もし、嫌と言ったら?」

「息子のキャリアが終わるだけだ」
院長は薄く笑った。

「君との不貞行為が公になれば、彼はこの病院にいられなくなる。…あの才能を、君ごときの情欲で潰してもいいのかね?」

「…ッ!」

卑劣だ。
けれど、それは私にとって最も効果的な脅しだった。

あの夜、血の海の中で見た迅くんの姿。
神業のような手技で命を救う彼の手。
あ手は、未来の医療を支える宝だ。私のせいで、彼がメスを置くことだけは絶対にあってはならない。

「……ふふ、可哀想な先生」
黙り込む私を見て、美園が嘲笑うように囁いた。

「でもね、感謝してほしいくらいよ。…迅くんにとっても、先生はただの〝火遊び〟だったんだからね?」

「…火遊び…?」

「そうですよ。…若い男の子が、熟れた年上の女性に興味を持つのはよくあること。…でも、一生を共にする相手じゃない。彼は遊び飽きたら、いずれ先生を捨てるわ」
美園の言葉が、鋭利なナイフとなって胸を抉る。

違う。迅くんはそんな人じゃない。

〝愛してる〟と言ってくれた。あんなに必死に求めてくれた。

けれど…世間から見れば、私たちはそういう風にしか見えないのだ。

38歳の女医と、24歳の御曹司。

釣り合わない二人。

(…私が身を引けば、彼は守られる)

簡単な計算だ。
トリアージと同じ。
助けるべき命(迅の未来)と、切り捨てるべきもの(私の恋心)。
優先順位は明白だった。

「…分かりました」
私は顔を上げ、院長を真っ直ぐに見据えた。

「…その辞令、お受けします。…ただし、条件があります」

「ほう?条件…とは、何だね?」

「…引継ぎのために、一週間だけ時間をください。…それと、私が自分から希望して異動したことにしてください」

「…よかろう。賢明な判断だ」
院長は満足げに頷いた。

私は一礼し、院長室を後にした。
廊下に出た瞬間、膝から崩れ落ちそうになるのを、壁に手をついて必死に堪える。

(…さようなら、迅くん)

ただ消えるだけじゃダメだ。
私が急にいなくなれば、彼は必ず探しに来る。あの執着心なら、地の果てまで追いかけてくるだろう。

だから、私は彼に嫌われなければならない。
〝最低な女だった〟と軽蔑され、捨てられるように仕向けなければならない。

私は震える手でスマホを取り出し、迅くんにラインでメッセージを送った。

〈今夜、◯◯ホテルに来て。…話があるの』

最後の夜。
私は彼に、一生消えない傷と、最高の快楽を刻み込んで去るつもりだ。

涙を拭い、私は〝鉄の女〟の仮面を、今までで一番分厚く被り直した。
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