上 下
1 / 3

低スペックとは認めない

しおりを挟む
 俺の名前は黒川泰嗣(黒川くろかわ
泰嗣ひろつぐ)。今26歳の塾講師だ。

 昔から人に何かを教えるということが
好きでアルバイトも家庭教師だった
流れでそのままこの業界に就職した。

 得意な科目は歴史と国文学だった。
最初に本にはまったきっかけは当時流行って
いたアニメの原作のライトノベルだろう。
そこからアニメ、ラノベ、ゲームに熱中し
立派なオタクへと進化した。

 そんな俺が、異世界なんてものに実際に
行くことになるなんて思っていなかった。

 休日に学生の頃の友人と電車で行ける
範囲にある遊園地へと遊びに行った。

 初めて行く場所だったが、ネットで
調べてみるとその遊園地はゲームの世界
さながらの世界観で作られていた。

 入ってすぐの広場には地面に刺さった聖剣のようなものが刺さっていた。


「せ~ので抜こうな、せ~ので」

 そうカップルがイチャイチャしながら、
剣の柄を握って写真を撮っていた。
 ……なるほど、どのテーマパークにもある
名物のようなものか、と俺は納得して
友人と横を通り抜けていこうとした。

 すると係員だろうか?が近づいてきて

「すみませ~ん、ご入場者様には全員、
剣を手に写真を撮ってもらっているんですぅ」

 という謎のルールについて教えられ、
その列に並ばされた。

 こんな面倒なルールが遊園地にあっただろうか?
そう考えているうちにすぐに俺の順番が
回ってきた。

 男二人で一つの剣を握るのも微妙という
ことで友達はすでにそのイベントを終えて
俺を待っていた。

 さてと……。
とっとと終わらせて遊園地楽しむか~

と剣を手にしたとき、周囲の景色が変わった。


  そこは……真っ白だった。
ただただ純白の世界に自分が一人
立っていた。
 それはさながら白い紙に一点黒で
塗りつぶした丸があるような錯覚さえ覚えた。

「ここは…なんだ…白昼夢?
それとも倒れての幽体離脱?」

 戸惑っているとさっきの聖剣が目の前に
遊園地と同じ状態で地面から突然出現した。


「(これを抜けってことか……?)」


 とりあえず現状をなんとかしたかった俺はその剣に手をやった。すると


「情報確認、レベル低、運動能力、中、頭脳、中、状況判断、中の上、魔力、下…」


という声が剣から聞こえてきた。


 なにが起こったのか全く分からず戸惑って
いると横から声がした。


「あ~この能力値で戦うんですかぁ、
かわいそうですが今までの自分のふがいない
人生に後悔しながら戦いの中で散っていって
ください」


そんな声のした方に向いてみると遊園地で
見た係員が立っていた。


「どういうことだ、ここはどこなんだよ」


 俺が問いただそうとすると係員が


「これはゲームでもアトラクションでも
ないので、ガイダンスはありません。
願わくば、自身の可能性と後悔を胸に
そちらの世界を歩んでください」


 その声を聴いた途端、世界は一面
真っ黒になった……。

 その中で最後に聞こえたのは


「あなたの魔法は……」


 え?ブラックアウトしながらだから大切なところが…!

今度こそ世界は暗転した。
しおりを挟む

処理中です...