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第拾話-詐欺

詐欺-19

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 絢巡査長の通報により、シェアハウスに家宅捜査が入り警察官達がひしめき合っていた。
 そんな警察官達の邪魔にならないように。長四郎と燐はリビングの端っこの方で突っ立ていた。
「どうよ。私達のおかげで事件解決に一歩近づいたんじゃない?」
 燐は勝ち誇ったような顔で長四郎に話しかけると「へぇへぇ」と参ったといった感じの返事をする。
「何で不満そうな訳?」
「別に不満があるわけじゃないけどな」
「顔はそう言ってないけど」
「そう」
「そうよ」
「じゃあ、正直に言おう。オンジンを捕まえるのは難しくなったかもな」
「どうして、そうなるのよ」
「ラモちゃん、忘れていない? あのオンジンは清廉潔白で聖人君子で売っているお方だぜ。今回の件で証拠を隠蔽に動くはず、それも自分の手は汚さずに」
 長四郎はそう言うとスマホを取り出し、何かを確認する。
「ふぅー」と息を吐き、スマホをズボンのポケットにしまうと長四郎は部屋の中を移動し始めたので、燐もそれに続いて行く。
 長四郎は階段を駆け上がり、燐が助け出した女性が監禁されていたという部屋に移動した。
 その部屋はルームツアーでは、管理人室として紹介されていた。
 ただ、管理人というのは実際には存在しない人物であった為、顔出しNGかつ部屋の中の撮影を禁止といったルールがあると動画内で説明がなされていた。
「失礼しまぁーす」
 監禁部屋の鑑識作業をしている鑑識捜査官達に向けて、断りを入れながら長四郎と燐は部屋の中に入る。
「何? この部屋がどうかしたの?」
「いや、どんな部屋なのかなと思って」燐の問いにそう答え、部屋を見回す長四郎。
 部屋には机はなく、マットの上に敷かれた布団が部屋中に敷き詰められカップ麵、菓子パン、コンビニおにぎりとペットボトル飲料が食事として与えられていたのであろうか。
 その残骸が部屋の隅に固められていた。
 そして、張り紙が四枚、壁に張られており次のような事が書かれていた。
“トイレは、一日二回”

“食事は、一日一回”

“風呂は、火曜日”

“編集優先、締切絶対!!”
「刑務所より、ひでぇな」
 長四郎は張り紙を見て感想を述べると、その場に居た全員がその感想に納得するように一緒に頷く。
「奴は、ここには来ていなさそうだな」長四郎は一人うんうんと頷くと、「お邪魔しましたぁ~」と言って部屋を出て行く足でシェアハウスを出た。
 偶々、近くを通ったタクシーに燐と共に乗り込み長四郎はすぐ様、「ピー(個人情報保護の観点から音声を変えております)までお願いします」そうタクシー運転手に伝え、タクシーは目的地に向けて走り出した。
「オンジンの家に行くの?」燐は隣に座ってスマホを操作する長四郎に向かって尋ねる。
「ああ」
「ねぇ、何を考えているの?」
「う~ん。分かんない」
 長四郎はスクロールさせている動作をしていたので、ネットニュースを見ているようだった。
「分かんないじゃないでしょ!!」
 燐は長四郎の太ももに拳を叩きつける。
「痛っ!! 何すんだよぉ~」
「あんたが、答えないからでしょ!」
「ちったぁ~自分の頭で考えろ。バカ高校生!!」
「許ざん!!!」
 燐はそう言い放ち、長四郎の頬を抓り引っ張り上げる。
「にちゃい。にちゃい。やめへ。へへめきゅらしゃひ! (訳:痛い。痛い。やめて。やめてください!)」
 長四郎が涙目で懇願していると「お客さん、揉めるなら降りてください!」タクシー運転手はそう言ってタクシーを路肩に停めようとする。
「あ、すいません」
 燐はしおらしくし、長四郎の頬から手を離す。
「揉め事はよしてください!」
 タクシー運転手は再び目的地に向けてタクシーを走らせる。
「あんたのせいで怒られたじゃない」
 タクシー運転手に聞こえないようなトーンで燐が話しかけると、長四郎はスマホを見ながら笑いを堪えるようにし、肩を小刻みに揺らしていた。
「何? どうかしたの?」
「い、いや。ぷっ」反省の色なんて見せる素振りもなく長四郎は声を殺し、肩を大きく揺らし笑い始めた。
 燐は長四郎のスマホを見ると、オンジンの動画を消音で見ていた。
 スマホを取り上げて動画を視聴し始める燐。
 その動画は、オンジンが倉庫として使っている部屋の大掃除動画だった。
 オンジンが倉庫に置いてある過去に紹介した製品を懐かしみながら再度紹介し、処分するといった何の変哲もない動画でこれのどこが変なのか燐には皆目、見当もつかなかった。
 だが、横に居る長四郎は終始、肩を揺らして笑い続けている。
「ねぇこれのどこが、面白いの?」
「どこがって。今までの努力というものがパァーになるぐらいの物がそこに映っているんだよ」
「え? どこぉ?」
 燐は再びスマホに視線を落とす。
「お客さん、もう少しで着きますよ」
「ありがとうございます」
 長四郎はそう言って、財布を取り出し会計の準備をする。
「着きました。2千と450円です」
「はい、丁度です。領収書下さい。宛名は熱海探偵事務所で」
「かしこまりました」
 タクシー運転手から領収書を受け取り、タクシーを降りる二人。
「乗り込む前にっと」
 長四郎はまだ動画を見ている燐から自分のスマホを取り返すと、一川警部に電話をかけようとするのだが、電池残量が残り5%をであった。
「SHIT!!」
 長四郎はそう言って、盛大な舌打ちをする。
「私のスマホ使う?」
「おっ、サンキュー」
 長四郎が受け取ったその時、タイミングよく一川警部から燐のスマホに着信が入った。
「もしもし」
「その声は長さんやね。今、どこにおると?」
「オンジンの家の前です」
「ああ、ホント。実は尾多の意識が回復したらしいんよ。それで、もう一度、取り調べをしようと思っているんやけど来る?」
「それは俺が居なくても大丈夫です。それより、社長の鎌飯の緊急手配をした方が宜しいかと」
「鎌飯を?」
「シェアハウスで監禁している事が警察に露見したんです。高飛びを考えてもおかしくありません」
「分かった。じゃあ、そうするばい」
「それと、こちらに捜査員を回してもらえませんか?」
「何か、分かったと?」
「ええ、灯台下暗しでした。これからラモちゃんと一緒にそれを確かめる所です。行方不明の女の子達はまだ見つかってませんよね?」
「見つかっとらんよ。そこに居るって言うやないとね」
「それを今から確かめに行くんです」
「気を付けてね」
「はい。後、齋藤刑事に尾多からある事を聞き出して欲しいんです。その為に、次のことを尾多に伝えてください」
 長四郎は一川警部に言伝をし、通話を切った。
「さ、行くわよ」燐はストレッチしながら長四郎を見る。
「気合の入り方が違うね」
「勿論よ。きっちり、締めあげてやるんだから」
 燐は自分の顔をパンパンっと叩き、気合を入れ歩き出す。
「こりゃ、荒れるな」
 長四郎が先を行く燐を見ながら呟くと「早く、行くぞ! 行くぞぉ~」と戦に赴く戦国武将のように言う燐の後を追うのだった。
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