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第拾話-詐欺

詐欺-20

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「今日、紹介するのはこちら~」
 オンジンは飛び切りの笑顔で手の中にある商品をカメラに向かって突き出すと、チャイムが鳴る。
「はぁ~」少し嫌な顔をし、ソファーから立ち上がるとインターホンの受話器に向かった。
 撮影の時には宅配が来ないように、時間指定をしているので何かの勧誘かと思いカメラ映像を見ると長四郎と燐がカメラに手を振りながら映っていた。
「何でしょうか?」
「毎度、どうも。実はお話したいことがありまして」
 長四郎は用件を伝えると「どうぞ」という返答と共に、ロビーのドアが開く。
『ありがとうございますぅ~』
 長四郎と燐は声を揃えて礼を言い、カメラから姿を消した。
 オンジンは踵を返しカメラの録画を停止させ撮影前の状態に片付け、それが終わったタイミングで玄関前のインターホンが鳴る。
「はいは~い」
 笑顔を作り、オンジンが玄関の鍵を開けるとこちらも笑顔で立っている長四郎と燐が立っていた。
「どうも、事件解決にご協力お願いします」長四郎は開口一番そう言い放ち、「お邪魔しますぅ~」と玄関に上がり込む。勿論、燐もそれに続く。
 強引な長四郎と燐に文句ひとつ言わず、オンジンは二人をリビングに通す。
「今日はどの様な、御用で?」
「あ、もしかして、撮影してましたか? これは申し訳ないタイミングで来てしまったようだ」とオンジンの質問に答えず、別の事を答える。
「ああ、そうですけど」長四郎の態度に少しイラつきを覚え始めるオンジン。
「では、手短に。拉致した女の子達はどこに居る?」
「すいません。仰っている意味が分からないんですけど」
「だってさ、ラモちゃん」
 オンジンは連れの燐が居ない事に今、気づいた。
 そして、洗面所から戻ってきたであろう燐が「洗面台の下、何もなかったわよ」と不満たらたらに、リビングへと戻ってきた。
「だそうです。」
「さっきから、貴方は何の事を仰っているのか、僕には分からないのですが」
「おっほぉっほぉ~シラ切られるとは思っていなかった。じゃあ、懇切丁寧に教えてあげますか」
「はぁ」
 オンジンはソファーに腰を下ろし、長四郎の話に耳を傾けようとする。
「あ、その前に。バッグを失礼」
 床に置かれているオンジンのバッグから、仕込んだGPSを取り出した。
「ちょっと! 人のカバンにGPSを仕込んでいたんですか!! 違法捜査じゃないか!!!」
 温厚な事が売りのオンジンも、こればかりには激怒した。
「まぁまぁ、落ち着いて。これを週刊誌に売ったりはしてないんですから」と宥める長四郎に「そういう問題じゃない!! プライバシーの問題ですよ!!!」と反論する。
「怒るのも無理ないですけど、これ見てください。ラモちゃん、スマホ貸して」
「はい」燐はスマホのロックを解除し、長四郎に手渡した。
 長四郎はすぐ様、GPSアプリを開き燐のアカウントから自分のアカウントに切り替えてオンジンの行動履歴を画面に出し、それを見せる。
「オンジンさん、あなた凄いですね。この家と近くのコンビニ、スーパー、仕事場であろう場所しか行ききしていない。このキャバクラを除いて。スキャンダル0の異名は伊達じゃありませんね」
「それが何だって言うんですか? これがへケべケの殺害事件と何か関わりがあるんですか?」感心する長四郎に語気を強めてオンジンは質問した。
「大いにあります。こんな、仕事人間が女の子達を囲っていたんですから」
「私が? 何の根拠があって?」
 その一言を聞き長四郎はニヤッと笑うと、今度は洗面台の下で撮影した写真を見せる。
「これは先日、ここで撮影した写真です。映っている物全て女性用の化粧品ですよ。 変ですねぇ~オンジンさんは確かここにお住まいだったはず、御一人で」
 オンジンの顔が、ハッとする。
「言いたいことが伝わったようで、安心しました」
「彼女の物です」
「じゃあ、その彼女呼んでください。それで、オンジンさんの疑いは晴れるんですから」
 燐はそう言いながらキッチンカウンターに置いてあったオンジンのスマホを手に取り、オンジンに渡す。
 黙ってスマホを受け取り、オンジンは顔認証でロックを解除し電話アプリを開き震える指先で画面をスクロールさせながら彼女に電話を掛ける。
「ご、ごめん。忙しいとこ悪いんだけど。今から来てくれないか? えっ、どうしてって。警察に不当逮捕されるかもしれないんだ。頼むよ」
 長四郎達に聞こえるようにオンジンは彼女という人物に説明し、頼み込む。
「うん、うん。来てくれるって、ありがとう。30分後にまた。じゃ」
 そう言って、通話を切ったオンジンは項垂れながら「これで良かったですか?」と聞く。
「ええ、30分後が楽しみです」
「それで、どうして僕が女性を誘拐していると思ったんです?」
「へケべケさんの事件の発端を調べていく内に、尾多が殺す動機として最も有力なのがkuunhuberの拉致事件であると推理しまして。調べるとオンジンさんにも聞いた「Kuunhuberニュージェネレーションズ」に参加申し込みをしたであろう女性達が行方不明だという事が分かりました」
「それだけで、僕が女性達を囲っていると」
「とんでもない。だから、さっきの写真なんです。彼女の物とのことらしいですが。一人の女性が使うには品物の種類が多すぎる。そこに違和感を覚えまして、拉致されたであろう浦安民という方の部屋に行ったんです。そしたら、どうした事でしょう。こちらの洗面台の下に置いてあった物と同じ物を浦安民が使っていたんですよ」
「偶々でしょう」
「そう、偶々かもしれません。だから、別口からウラ取りすることにしたんです」
「別口?」
「kuunhuberのシェアハウスがあるでしょ。あそこにkuunhuberの女性が監禁されていたの。勿論、救出済みよ」
「それは良かった」聖人君子の名にふさわしいように、被害者の身を案じるオンジンを見て燐は舌打ちをし、話を続ける。
「その女性が話してくれたの。参加費を払ってから一週間も経たないうちにオンジンに会わされたって。そこでオンジンが鎌飯に何かを耳打ちしてたって。その後、鎌飯から配信者専用の交流スペースがあるって言われてノコノコついて行ったら、あのシェアハウスに監禁されて、そこで暮らす配信者の動画編集を押し付けられたって」
「それだけかと思いのようですが、もっと酷いことをされていたみたいですよ」
 知らぬ損ぜぬといった顔をしているオンジンに向かってそう告げる長四郎。
「毎晩、そこに住んでいる男の配信者からレイプされてた女の子も居たっていう証言も取れたし、話してくれた女の子もレイプされそうになっている所を私が助けたの。あんた、ここまで聞いて心が痛まないの?」
 燐がそう問いかけると、オンジンは大粒の涙を垂らしながら床に崩れ落ちる。
「どうして、そんな酷いことが出来るんだ・・・・・・・僕は、僕はねぇ!! 新世代の才能を見つけるのを手助けしたかったそれだけ。それだけなんです!!!」
 オンジンは身体を丸め、拳を床に叩き連れながら悔しがる。
「あの、忘れてませんか? 俺は今、そんな女の子達を助ける為にここに居るんですけどぉ~」長四郎は手で輪っかを作りオンジンの耳元で大きな声で喚くと、びっくりしたオンジンは飛びあがり顔を見せた。
 その顔はとっくに涙が枯れた顔であった。長四郎は特にそれには突っ込まず、事件の話に話を戻す。
「でも、救出したって。その娘が・・・・・・・」
「ええ、一人だけね」と燐が腕を組みながら答える。
「そう、救出できたのは一人だけなんですよ。それにその女性が、シェアハウスに監禁されている女性が全てではなくどこかへ場所を移されたと証言していましてね」
「それで、僕の所に居るっていう訳ですか?」
「さっきからそう言っているじゃありませんか。それにあなた自身が女性の居場所を教えてくれたんですよ」
「はい?」
 長四郎はkuunhubでタクシーの中で観ていた動画を検索し、オンジンに見せる。
「この動画のここに映っているの。洗面台の下に置いてあった化粧品ですよね?」
 部屋の隅に有象無象の雑貨の中に洗面台の下に収納されていた化粧品が散らばっていた。
 だが、オンジンは映ったことに気づいたのか、直ぐに化粧品を画角から外したので長四郎は映った所まで早戻し、その化粧品部分を拡大させオンジンに見せるとオンジンの顔が引きつる。
「おかしいですね。彼女の物なのに、こんなゴミ部屋みたいな所に投げ捨ててあるのは。以前、ここに来た時には洗面台の下に置かれていたのに。まるで、見つけて貰いたくない物を隠しているみたいだ」
「そ、それは・・・・・・・・空になったから、捨ててくれと彼女から頼まれたんです」
「では、それを証明してもらえますか?」
「へ?」
「彼女の物だったら、これらと同じ物の新品がこの部屋のどこか、若しくは倉庫として借りられている部屋に置いてあるはずです。それに倉庫として借りられている部屋は、この部屋と一緒の間取りの部屋だ。つまり、トイレ、風呂もある。飯だけ与えれば監禁部屋にしとくのは持って来いだ。なぁ、ラモちゃん」
「そうね。じゃあ、その部屋に行きましょうか?」
 燐がそう言い放ち、長四郎と共に案内しろと言わんばかりに玄関に向かう。
「待ってください!!」
 オンジンは二人にそう言って、引き留めた。
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