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第拾弐話-監禁

監禁-18

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 表裏と二重が逮捕されて、一週間が経った。
 二重は素直に自供していたのだが、もう片方の表裏は自身の犯行を認めてはおらず捜査は難航していた。
 自分が二重を唆して、今回の事件を仕組んだという事や過去の余罪を否認しているとの事で長四郎が捜査協力に再び駆り出された。
「え~なんで俺なのぉ~」
 長四郎は駄々をこねる子供のように、文句を言いながら警視庁の廊下を歩く。
「そんな事言わずに協力してください」
「そうよ。乗り掛かった舟なんだから」
 絢巡査長の言葉に賛同するように燐もまた長四郎を諭す。
 こうして、長四郎は表裏が居る取調室へと通された。
「あ、どうも」長四郎は部屋に入ると同時にそう挨拶すると「どうも、眠れるようになりましたか?」表裏は挨拶を返してきた。
「お陰様で。それより犯行を認めていないらしいですね」
 長四郎は椅子に座りながら、本題を切り出した。
「ええ、私は何もしていませんもの」
「何もしていないですか・・・・・・・」
 困ったといった顔で、調書を取るふりをしている絢巡査長を見るのだが我関せずでパソコンと睨めっこしている。
「何もしていないと言うなら、なんでここに居るんですか?」燐が質問した。
「驚いたな。女子高生から質問されるとは」
 表裏のその言葉を聞き、長四郎の口元が緩む。
「良いから、答えなさいよ」
「濡れ衣でここに居るんですよ。確かに二重さんの犯行は、診察時に聞いていました。それは認めます。でもね、それだけなんですよ」
「それだけって。あんたさぁ、往生際が悪いんじゃない」
「往生際。でも、貴方達だって証拠がないから自供だけで私を追い込もうとしているのですよね?」
「そ、そんな訳ないじゃん! てか、あんたからも何か言いなさいよ!!」
 燐にしかられた長四郎は溜息をつき、話し始めた。
「表裏先生の仰る通りです。警察は先生の自供だけで、送検しようと企んでますよ」
「あんた、こいつの肩を持つ気なの?」
「現状そうなるけど。先生、拳大丈夫ですか?」
「え?」長四郎にそう言われ、自分の絆創膏まみれの両拳を見る表裏。
「絢ちゃん。一川さんが来ていた服って、鑑識にかけたの?」
「いいえ、まだですが」
「じゃあさ、先生のDNAが服についていないか、調べて貰えない?」
「分かりました。令状を請求して来ます」
 絢巡査長はそれだけ言って取調室を出て行った。
「今のどういう意味ですか?」
「いやね、絢ちゃんが貴方と二度目に会った時に、手に傷を追っていたと言ってましてね。それですよ」長四郎はそう言いながら、表裏の手を指差す。
 表裏は咄嗟に机の下に手を隠し「これは、暴れた患者とやりやった時に出来た傷なんですよ」
「ほぉ~その患者さんの住所は?」
「へ?」唐突な質問に素っ頓狂な声を出してしまう表裏に質問を続ける。
「いやだから、患者さんの住所ですよ。往診の際につけられた傷でしたら、往診先の住所が分かるはずですが」
「それは・・・・・・」
「答えられないんですか? 無実を証明するチャンスですよ」
 長四郎の言葉に表裏は目を右往左往させながら、この状況を切り抜ける策を考える。
「患者さんを傷害や暴行の罪でどうこうしようなんて事はありませんよ。約束します」
「約束と言われても・・・・・・」
「ねぇ、この人。本当は、往診なんて行っていないんじゃない?」
「そうかもな」
 燐の意見に同調する長四郎を見て、表裏は顔を曇らせる。
「どうしました? 先生、この世の終わりみたいな顔になっていますよ」
「そ、そんな訳ないでしょう」否定する表裏の顔には脂汗が、じっとりと浮かんでいた。
「長さん、令状が出ました」
 絢巡査長は取調室に戻って来るや否や報告した。
「だそうです。という事で、素直にお認めになった方が宜しいんじゃないんですか?」
「クソっ!!!」表裏は打って変わったような態度で、机を膝で蹴り上げる。
 そこから表裏の供述が始まった。
 精神疾患を患った犯罪者の治療を行う中で、とある事を思いついた。
 治療していく中で、マインドコントロールし彼らを自由自在に操る事はできないかと。
 取り敢えずの目標を再犯させる事とし、治療と並行しながらマインドコントロールをかけ患者が寛解仕掛けた時に再犯させるよう仕掛けた。
 すると、患者は表裏の思い通りに犯罪を犯した。
 そんな、ある日世の中を震撼させた二重が自分の患者として来た。
 二重はそれまでの患者とは違い、簡単にマインドコントロールをかけられなかったので着実に時間をかけ治療を施していき二重の人格が統一されかかった頃、マインドコントロ―ルをかけることが出来た。
 しかも、殺人鬼の人格を主人格の方に植え付ける事を成しえた。
 とはいえ、無差別殺人を起こす気がなかった表裏は復讐殺人を行うよう二重をコントロールした。
 標的は一川警部と定め、二重は行動を開始した。
 表裏も最初は傍観者を貫くつもりであったが、二重から協力を求められ異常行動者の心理を知りたいという興味から付き合う事にし、今に至るという事であった。
「どうも、ありがとうございました」
 表裏の話を聞き終えた長四郎は疲れたといった表情で礼を言い、取調室を後にするのであった。
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