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4・バートン伯爵に聞いてみましょう
「セシリア様、あの、どうなされたのですかっ! 今は、初夜のはずではっ!」
「本来ならそうだったのですが……わたくし、バートン伯爵と伯爵夫人にその説明とお別れのご挨拶に参りましたの。早くお取次ぎいただけます?」
夜中にバートン伯爵夫妻を訪ねる花嫁を見て、バートン伯爵家の執事は口元を引きつらせた。
花嫁であるセシリアはしっかりと身支度を整え、何故か肩に小鳥を止まらせていた。
そして花嫁と共に来た侍女は、バートン伯爵家のメイドの髪を掴み、引きずっている。
これは絶対にただ事ではない……執事はすぐにバートン伯爵の元へ向かい、数分後セシリアは、バートン伯爵夫妻とアランの祖父母である前バートン伯爵夫妻がくつろぐサロンへと通された。
セシリアがサロンへと足を踏み入れると、四人は優雅にお茶を飲んでいた。
花嫁が初夜に新郎に放置されているのも知らずに、のんきなものだとセシリアは表情には出さすにイラっとした。
そんな彼らの前に、ジゼルが引きずっていたメイドを放り出す。
「セ、セシリア……今はその……初夜ではないのかい? このメイドは一体……」
バートン伯爵はセシリアを見、サロンに転がされたメイドを見、それから息子であるアランの姿を探した。
「セシリア、アランはどうした?」
「わたくし、バートン伯爵家の皆様方にいろいろとお伝えしたいことがあるのですが……何からお伝えすればいいか、悩みますわ。では、まずは新郎のことからお伝え致しましょうか」
「あ、あぁ」
もうアランの名前を呼ぶのも嫌になったセシリアは、アランのことを新郎と表現することにした。
「新郎ですが……初夜だというのに、花嫁であるわたくしを置いて、どこかに行ってしまったらしいのです……」
セシリアがそう言うと、バートン伯爵夫人と、前バートン伯爵夫人は、同情するようにセシリアを見つめたが、
「きっと急な仕事が入ったのね……。あなたには申し訳ないけれど、この家に嫁いたのだから、夫であるアランを支えていかなければならないわ。仕方がないことよ」
と、セシリアに対して嫁いできた女性の心得を説いた。
まぁ、百歩くらい譲って、本当に仕事だったら仕方がなかったのかもしれないのだけれど、とセシリアは苦笑する。
「ですが、どうやら仕事ではないようなのです……。新郎がどこに行ったかは、そちらのメイドからお聞きいただけますか」
セシリアはサロンに転がされたメイドに、優雅に笑いかける。
メイドは震えながら主人であるバートン伯爵を見ると、力なく首を横に振った。
「あら? こちらの使用人は、主人に報告もできないのかしら? 使用人教育がなっていませんわね」
深いため息をついてセシリアが言った瞬間、バートン伯爵はメイドに報告をするように命じる。
メイドは伯爵に土下座しながら、
「アラン様は、ドロシー様からの手紙を見て、ドロシー様の元へと向かわれました!」
と答えた。
「え?」
「なんてことっ……」
驚くバートン伯爵夫妻と、前バートン伯爵夫妻。
メイドはさらに続ける。
「ドロシー様が、アラン様に、会いに来てくれないと命を絶つという手紙を送って来られたのです!」
「何だって! あの娘はまだアランに執着していたのか!」
「まあ、なんてこと!」
「おい、レインズの娘とまだ切れていなかったのか! 別れさせたんじゃなかったのか!」
「アランったらっ!」
さらに驚く、バートン伯爵夫妻と、前バートン伯爵夫妻。
ここでドロシーの名前が出ることは、この家の人々にとって予想外のことだったようだ。
花嫁でありながらも、完全に冷め切ってしまっているセシリアは、バートン伯爵家の狼狽ぶりを、まるで他人事のように冷静に観察していた。
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