初夜に放置された花嫁は、不誠実な男を許さない~不誠実な方とはお別れして、誠実な方と幸せになります~

明衣令央

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6・お父様がお怒りですわ



「セシリア! 怪我などしていないか? 大丈夫かい?」

 サロンに入ってきたセシリアの父――アルバートは、まず娘の無事を確認する。

「えぇ、お父様、わたくし、何も怪我などしておりませんわ」

 セシリアはそう言ったが、彼女のそばに控えていたジゼルは、アルバートに次のように報告を行った。

「とあるご老人がお嬢様へ乱暴を働こうとしましたが、私が払いのけました」

「そうか、ご苦労」

 ジゼルの報告を聞いたアルバートは、バートン伯爵家の面々へと目を向けた。
 まずはバートン伯爵へ、そして、愛娘へと手を伸ばそうとした、前バートン伯爵へと冷酷な視線を向ける。

「さて……バートン伯爵家の諸君。娘に対する数々の無礼、全て聞かせてもらった。娘も私も、大変不愉快な気分だよ。だから、今後の話を手短に済ませてしまおう」

「グ、グランチェスター侯爵……」

 バートン伯爵家の面々は、全員体を震わせた。

「まずは、この婚姻のことだ。初夜に花嫁を放置した時点で、この婚姻は無効だ。娘に離婚歴すらつけさせる価値もない」

 アルバートがそう言うと、セシリアが少し嬉しそう笑った。

「ではわたくし、離婚歴がつかないのですね……?」

 あぁ、とアルバートは頷いた。

「あぁ、もちろんだ。お前に傷など一つもつけさせん」

「お父様、ありがとうございます。嬉しいですわ」

 セシリアはアルバートの手を取ると、握りしめた。
 こんな家に嫁がずに済んだだけでも充分なのに、離婚歴がつかずに済むなんて本当にありがたかった。
 アルバートはセシリアを抱きしめると、優しく背中を撫でてくれた。

「それから、当然のことだが、我がグランチェスター侯爵家からの援助は中止だ。ハルフォード侯爵家も、恐らく同じく取り止めにするだろう」

「そ、そんな……」

 バートン伯爵夫人が崩れ落ちるが、これは当然だろうとセシリアは思った。

「次に、こちらからは娘への侮辱と精神的苦痛に対する慰謝料を請求する。もちろん、レインズ男爵家にもだ」

「ど、どうしてそんなっ……」

「当然のことだろう。私の可愛い娘を何だと思っているんだ。私はルミナスバードで、全て聞いていた。娘に対する、前バートン伯爵の暴言もね」

「あ、あれはっ……冗談だよ、どうか流してくれないか」

 前バートン伯爵は笑ってごまかそうとしたが、アルバートは彼を睨みつけた。

「暴言だけでなく、娘に手を伸ばしたらしいな。その罪は、婚姻とは別に償ってもらう」

「そ、そんな……」

 バートン前伯爵は、ガタガタと震え頭を抱えた。
 だが、アルバートの怒りはまだ収まらなかった。

「次に、我がグランチェスター家への侮辱についてだ。我が家を侮辱した代償は、伯爵家ごときが払える額ではないだろうな」

「グランチェスター侯爵、どうか……どうかもう……」

 バートン伯爵は跪き、アルバートへ許しを乞うた。
 だけどアルバートはそれを無視し、最後の一言を放つ。

「最後に、これだけで済んだことに感謝してもらいたいものだ。私の父――前グランチェスター侯爵が、侯爵家に伝わる名槍を携えてこちらに向かうのを止めてやったのだからな。父がここに来ていたらどうなっていたか……お分かりだろう?」

「は、はい……」

 バートン伯爵家の面々は、全員真っ青になりながら頷いた。
 セシリアの祖父である前グランチェスター侯爵は、槍の名手としてだけではなく、気が短いという点でも有名だった。

「では、セシリア、家に戻ろう」

 アルバートはセシリアを振り返ると、笑顔で言った。
 はい、とセシリアは頷いて――バートン伯爵家の面々へと目を向ける。

「では、一日だけ家族となったバートン伯爵家の皆様、ご機嫌よう。あ、違いますわね……一日にも満たない時間でしたわ。婚姻無効になるかもしれませんけれど……」

 セシリアはそう言って優雅に微笑むと、アルバートと共にバートン伯爵家を後にした。


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