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「なぁ、聞いているか。一体誰の事を考えていた?君には俺だけで十分だろう??」
随分考え込んでいたようだ。
彼が仄暗い狂気の見え隠れする目で、僕のことを見て問いかける。答えを間違えたらすぐに刺されるだろう。
「あぁ、貴方と出会った頃のことを思い出していたの。貴方は今も昔もずっと僕のことを愛してくれているなぁ、って思ってさ」
「それは当たり前だろう。俺は君しか要らない。君以外はどうなろうとどうでもいい。俺にとってはゴミ以下だ」
「あぁ、それにしても過去の俺だとはいえ、君が俺以外のヤツを考えていたということに嫉妬で気が狂いそうだ。出来るのなら、相手を今すぐ抹消してしまいたいぐらいだよ」
そう言って、彼は包丁の柄を硬く握りなおす。
僕は全身が震えた。
でもそれは恐怖では無く、歓喜からの震えだ。
彼がそんな些細なことで嫉妬し、相手を殺したくなるほど、僕だけを愛してくれているということだから。
それを喜ぶ以外に何があるというのだろう?
少なくとも僕には無い。
「君が奪われてしまう前に早くしないと……っ!」
ザシュッ
「─!?ガハッッ…!」
何かを突き刺す音がした。胸に衝撃が走り、口から空気と一緒に少量の赤い液体が吐き出された。
身体から生暖かいものが流れていく。
次の瞬間にやっと、僕は彼に刺され、流れている赤い液体が血だと理解した。何故か痛みは感じない。
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