孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ

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第124話

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「私に与えられた任務は、ただ愚かな人物を演じることでした」


 無機質な机へと視線を落とし、訊いてもいないことを零す。


「転入生である柳瀬春人──この学園に存在し得なかった彼の言動に魅了され、まさに盲目的に彼のことを崇め、従う、愚かな信者」

 ─それが、この私に当てられた役でした。


 ぽつぽつ、ぽつぽつ。他に誰が聞いているかも分からないような状況で、ソイツは1人語り続ける。

 さらりと耳に掛けられていた紺髪こんぱつが滑り落ち、その端正な顔に一筋の影がかかった。


「何故私がと思いました。転入生アレを監視するならば、もっと相応しい者がいるはずなのに、と」


 段々と顔は内側へと向いていき、やがて俺からはカタチの良い頭部しか見えなくなった。


 ─何故この俺が、コイツの自己満ひとりがたりを聴かなくてはならないんだ?

 
「しかしこの学園にいる限り、私には拒否権などという便利な物はありません。理事長あの人が何をしたかったのかは分かりませんが、きっと碌でもない事だったのでしょうね」
 
 よく分からない言い訳を次から次へと並べていく年上ヤツを見下ろしながら、そんなどうでもいいコトを考える。

「私の中での愚かな人物像は、己の思考を停止し、己の役目を放棄するような者でもありました。ですから私は、己に課されてしまった任務を果たす為に─」

「─はいストップ」
 
 気分がだだ下がる身勝手な言い訳内容になってきたトコロで、近くまで寄ってきた第三者の声がそれを遮った。


「いい加減、そのよく回る口閉じてくんねぇ?」

「なんだ、時間切れか?」

「そっ、アンタのね」

「よく分かってんな」

 副会長愚者役越しに同類コウハイと会話をすれば、切れかかった堪忍袋の緒ギリギリまで上がったメーターはアッサリとほぼ元通りになる。

「(やっぱ、余計なストレスはさっさと排除すべきか)」

「一応不良品リストに載ってないんで」

「はいはい、ジョーダンだって」

 死んだ表情のまま、巫山戯フザケたように軽く両手を上げてみせれば、どうやら今回は見逃してくれるらしい。コウハイの矛先は俺から逸れ、未だ立ち上がれていない副会長へと向けられた。


「“任務が~”とか“権利が~”とか、色々言ってたケドさぁ」

 俺の近く─つまり副会長の眼前へと移動しながら、コウハイは嗤う。 

「お前の自己満な言い訳とかショージキどーでもイイんだわ」

 蔑みの色を宿した大きな青い双眼に見下された彼は、いつの間にか再び見えるようになった同色の瞳を戸惑いで揺らした。

「つーか、それ言うならオレも当てはンだけど」

 ─誰が好きで騒音発生機あんなの演じるやるかッての。

 ケッと、実に嫌そうにその愛らしい顔を歪めて吐き捨てる。


「で、ですが貴方は初めからずっと……いやまさか、選別をするその為だけに華織学園此処へ…?」

「やっと気付いたンかよ」

 普段の笑顔を無くし、呆然とした表情をした彼を嘲笑う。


「それだけお前が完璧だったということだ。現に、俺でもあの瞬間まで見破れなかった」 

「ナニ、コレのこと庇ってんの?」

 どこか面白くなさそうな暗い目をしたコウハイの視界には、先程まで己が嗤ってた対象者の姿は既に無い。

「なんだ、俺に認められるのはしゃくか?」

「あーもー…、やっぱセンパイもクダサイよ」  

生憎あいにくだが、俺はんで無理だな」


 正常なニンゲンからすれば意味不明であろう、まさに狂ったコトを脈絡無く発する。


「何を、言っているのですか…?」

 最早困惑の色を隠しもしなくなった副会長の、どこか上擦った声が空虚な教室内に響いた。
 


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