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せめて自分の手による終焉を
しおりを挟むあの後、どうやって風紀室まで来たのか覚えてない。
ただ、気が付いたら俺はアイツの腕を多少跡が残る程の強さで引っ掴んでいて、あの女から強引に引き離していた。
残ってねぇはずの記憶の中で、アイツは道中「痛い」「やめて」と僅かに怯えを顔に浮かべていて……
─いや、きっと気の所為だろ。
あの人のように、自分に都合の悪い出来事から目を逸らしちまったのを自覚する。
あぁこうやってヒトは狂ってくのかと、自分が正しいことを信じて疑わない狂人の、黒く塗りつぶされた顔が思い浮かんだ。
だがまァ、もうどうしようもない。
所詮は紛い物、いつかおかしくなんのは明白だった。
予測よりも数年、綻ぶのが早くなっただけ。
「……っと、……ね……いい、…ち…」
まっ、今はンなことどうでもいいか。さっさとこの書類の束を片付けねぇとな。
「…い……、へん……な…」
『持ち物検査厳しすぎる。この前もアウトくらってコンドーム没収されたんだが』
『発情してしまったオメガの熱を抑えるために、ピーピーピーをする部屋を用意して欲しい(番同士限定で)』
「(………………つまり、学内にて合法でヤることヤりたいと)」
重くため息をつきたいのをなんとか抑え込み、それら書類をシュレッダーの刑に処した。
つか、コレ絶対ぇ風紀案件じゃねぇだろ。
「委員長!!」
「……あ゛?」
煩ぇ声のする前方へ目を向けると、書類だらけの机上に両手をつき、少し前のめりになった冷徹女がいた。
「ちょっと大丈夫なの?貴方さっきから様子がおかしいようだけれど。あのバカも今日は大人しいし…それに、普段よりフェロモンも驚くぐらい薄いし」
「……何が言いてぇ」
「貴方達の間で何かあったのかってことが聞きたいの。そのぐらい貴方なら分かるでしょ?」
「…………」
「…ま、他人には言えないか。この件は一旦関わらないであげるから、早いうちどうにかしてよ?室内の空気悪すぎて息苦しいんだから」
上体を起こしたソイツは呆れたように肩をすくめると、重要書類らしき紙束を俺の前に置いた。
「それの期限今日の18時までだから」
「…は?」
現在時刻は16時23分。
書類提出タイムリミットまで、あと1時間37分。
枚数的にギリ間に合うぐらいだが…俺を殺す気か?
「私にその怒りを向けたところで無駄よ。あのイカれた先生から渡されたのが今日のHR終わりだったんだから」
予想はしてたが…またあの鳥頭共か。
どうせ自分が頼まれた直後に書類の存在忘れて、今になって慌ててコッチに寄越してきたってトコだろ。
ホント、何故鳥頭共が教師っつう肩書きを持ててんのか、まるで理解できねぇな。指導案作りや諸々の準備が大変だってのは理解るが、熟せねぇなら始めからすンなと言いたい。
「やっぱりあの人達、一度ぐらい殺されてみないと駄目だと思う」
「…止めとけ。俺らだっつうコトがバレるだろ」
ブラウンの目を据わらせ、今にもぶっ殺しに行きそうな冷徹女を軽く制止させる。その手元に視線をやると、血管が浮き出そうなレベルで硬く拳を握っていた。
マジかよ、ガチギレしてンじゃねぇか。
「ねぇ待ってちょっと待って!?ボスそれ自分達だってバレなければ実行していいって言外に言ってるよね!?」
「確かにそうね、私達が殺ったと分からないように完璧な計画練ってからでないと……」
「…最低限、アリバイさえ作れりゃなんとかなンだろ」
「なら、それを誰が証言するかが重要になってくるか…誰が良い?」
「…あー…そうだな…」
「ねぇほんと待って、なんで2人とも普通に完全犯罪目指そうとしてるの!?…あれ、もしかしてオレの方がおかしい???ん????」
奴が言うには、アイツは今日大層大人しいらしい。が、俺達の会話を耳にした途端、目の前までぶっ飛んできた。
死んだようになってた目は生き生きと輝いて、いつものハイテンションでツッコミを入れてくる。
「ま、今は止めておくけど。ということで、それ早く終わらせておいて」
「あぁ……サンキュ」
「別に。ただ、このままだと私が息しづらかっただけだし」
コチラに背を向けて、おざなりに返答する黒髪にもう一度だけ内心で感謝を零し、俺からコッソリ離れようとしたアイツを捕まえた。
「 」
抵抗する間を与えること無くその小さな耳元に唇を寄せ、端的に重要なことだけ囁く。そして拒否される前に解放し、タイムリミットが残り1時間16分になった書類に取り掛かった。
アイツがどう思っても、今言ったことは絶対に実現させる。
それがせめてもの俺の意地で、消化させるための儀式に過ぎないとしても。強いてしまうアイツ自身には何の利益も無いことだと、端から分かっていても。
紛い物は紛い物らしく、大人しく壊れる方が似合いだから。
これでもう、後戻りはできねぇ。
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