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俺のモノはお前のモノ。
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≪side 佐熊≫
「悪い!この小説ずっと借りっぱなしだった。返したと思ってたけど、俺の思い違いだったわ。ごめんな!」
伊坂に謝りつつ、借りたままになっていた小説を手渡す。
「オレ、佐熊に小説なんて貸してたっけ?あぁ、これ、谷本のだよ」
「あっ、やっぱり?谷本に借りたとは思っていたんだけど、裏表紙のところに、“い”を丸で囲ったサインがあったから、伊坂のだったっけか?って、思い直してさ。谷本で合ってたんだな。」
「その“い”は、伊坂の“い”じゃなくて、壱貴の“い”だよ。コレ、けっこう昔の小説だろ?谷本はその頃よく、自分のモノにそのサインを書いてたから」
「そうなんだ。さすが、幼馴染みだな。よく知ってるわ。じゃあ、谷本に返さなきゃな」
「いいよ。オレが代わりに返しておくから。今日、あいつの家に寄ってから帰る予定だったし」
「ありがとう!谷本には、詫びのメールを入れておくわ」
「おう!あいつの部屋から、俺のモノがよく出てきてさ、今日もソレ取りに行くんだよ。オレのモノだか、あいつのモノだかってやつ、けっこう多いんだ」
幼馴染みの便利さに感謝しながら、前に、谷本と話していて気になったことを、伊坂に聞いてみることにした。
「あのさ、伊坂の理想の目元って、どんなの?目元フェチっていうのは知ってるけどさ、具体的に聞いたことがなかったなと思って」
「え?なんだよ、急に。長くなるけどいい?」
「ん?短めでよろしく!」
「しかたねぇーな!!オレの理想の目元はな、小さい頃の谷本の目元!!クリッとしてて、すげぇツボだったの!毎日、あいつの顔を覗き込んでてさ。あいつの瞳に映る、自分の姿を見るのが気に入ってたんだよな。あー!懐かしいなぁ!!谷本の今の、ちょいクールな目元も捨てがたいけどな!」
「…おー、直球きたな」
「えっ?!なにが?」
「いや、こっちの話。そのこと、谷本に言ったことあんの?」
「えっ?!なんで?オレが勝手に、ツボに嵌って覗き込んでただけで、あいつも嫌がってなかったし。迷惑かけてないのに、あいつに言う必要ってあんの?今は、覗き込んだりしてないから、関係なくね??趣味趣向は、個人の自由だろ?」
「…あぁ、そういう認識ね」
「えっ?!オレ、あいつに言った方がいいの?」
「…いや。(言っても言わなくても)いいと思う!」
谷本も鈍そうだとは思ったが、伊坂も違った意味で鈍かった。予想していたとはいえ、なかなかのカミングアウトだった。2人の馴染みの友人である俺は、何とも表現し難い気持ちになる反面、単純にうらやましいと思った。
俺のモノはお前のモノ。お前のモノは俺のモノ。(ジャ○ア○の有名なセリフとは少し違う)
そんなふうに言えてしまう絆が、2人にはあるように思えた。お互いの一部を気に入るあまり、フェチになってしまったことも。それぞれのモノに対する、独占欲というか、俺とお前の境界線をなくしてしまう、同一視というか…。谷本には、確認できたわけではないけれど、きっと、あいつのフェチも伊坂が原点のような気がした。
一日を締めくくる、お楽しみの時間。今夜も、ルシアンを連れてK公園に散歩に来た。
あれから、ヒコちゃんとは時折、出会う。当番制でムムさんの散歩をしているらしく、毎回、この時間帯の担当になるわけではないと言っていた。今日は会えるかな?
急にギューーーンッと、ルシアンにリードを引っ張られる。ルシアンの成長は著しく、日に日に力が強くなってきている。そのうち、こいつに引きずり回されるかもしれない。
俺はまだ確認できていなかったが、ルシアンには、ムムさんが来たことがわかったようだ。シッポをグリングリン振り回しながら、彼らの居る方に向かって猛ダッシュして行く。もちろん、俺も釣られてダッシュする。
「こんばんは」
「あぁ」
「ルシアン、ムムさんのことすげぇ好きみたいだわ。リードを引く力が、ムムさんを見つけた時だけ、いつもより数倍強いんだよ」
ワフワフじゃれ合う2匹を眺めながら、ヒコちゃんに話しかける。
「ヒコちゃん、俺さ…」
「なぁ…」
「何?ヒコちゃん?」
「それ…」
「ヒコちゃん?」
「そう、それ」
「あっ!もしかして、ヒコちゃんって、あの時限定の呼び名だった?」
「……」
ヒコちゃんが、何ともいえない、遠い目をした。…気がする。
「…鈴掛清彦。アンタは?」
ヒコちゃんがポツリと呟く。
「俺は、佐熊咲弥。そういえば、フルネームで名乗ってなかったな」
「佐熊…か」
「今さらだけど、今後ともよろしく!!鈴掛って呼べばいい?」
「あぁ」
「あっ!鈴掛もイニシャル、S.Sだな。一緒だ」
以前、ルシアンの前足に巻きつけた、白い布に書いた短い伝言を思い出す。
―――あれは、S.SからS.Sへ宛てたメッセージだったんだ…。
何となく、くすぐったい感じを覚え、フッと笑みがこぼれた。“S.S”という、偶然にも同じイニシャル。俺とお前の区別が付かないソレ。俺のモノであり、お前のモノである、モノ。
谷本と伊坂には、敵わないけれど、“俺のモノはお前のモノ”って言える存在を、見つけた。
隣に立っている鈴掛を見つめながら微笑めば、まっすぐな瞳で見つめ返される。そんな視線の交流がとても心地よく、俺達の間を、ほっこりとした穏やかな時間が流れていく。
…明日も一日頑張れそうな予感がした。
「悪い!この小説ずっと借りっぱなしだった。返したと思ってたけど、俺の思い違いだったわ。ごめんな!」
伊坂に謝りつつ、借りたままになっていた小説を手渡す。
「オレ、佐熊に小説なんて貸してたっけ?あぁ、これ、谷本のだよ」
「あっ、やっぱり?谷本に借りたとは思っていたんだけど、裏表紙のところに、“い”を丸で囲ったサインがあったから、伊坂のだったっけか?って、思い直してさ。谷本で合ってたんだな。」
「その“い”は、伊坂の“い”じゃなくて、壱貴の“い”だよ。コレ、けっこう昔の小説だろ?谷本はその頃よく、自分のモノにそのサインを書いてたから」
「そうなんだ。さすが、幼馴染みだな。よく知ってるわ。じゃあ、谷本に返さなきゃな」
「いいよ。オレが代わりに返しておくから。今日、あいつの家に寄ってから帰る予定だったし」
「ありがとう!谷本には、詫びのメールを入れておくわ」
「おう!あいつの部屋から、俺のモノがよく出てきてさ、今日もソレ取りに行くんだよ。オレのモノだか、あいつのモノだかってやつ、けっこう多いんだ」
幼馴染みの便利さに感謝しながら、前に、谷本と話していて気になったことを、伊坂に聞いてみることにした。
「あのさ、伊坂の理想の目元って、どんなの?目元フェチっていうのは知ってるけどさ、具体的に聞いたことがなかったなと思って」
「え?なんだよ、急に。長くなるけどいい?」
「ん?短めでよろしく!」
「しかたねぇーな!!オレの理想の目元はな、小さい頃の谷本の目元!!クリッとしてて、すげぇツボだったの!毎日、あいつの顔を覗き込んでてさ。あいつの瞳に映る、自分の姿を見るのが気に入ってたんだよな。あー!懐かしいなぁ!!谷本の今の、ちょいクールな目元も捨てがたいけどな!」
「…おー、直球きたな」
「えっ?!なにが?」
「いや、こっちの話。そのこと、谷本に言ったことあんの?」
「えっ?!なんで?オレが勝手に、ツボに嵌って覗き込んでただけで、あいつも嫌がってなかったし。迷惑かけてないのに、あいつに言う必要ってあんの?今は、覗き込んだりしてないから、関係なくね??趣味趣向は、個人の自由だろ?」
「…あぁ、そういう認識ね」
「えっ?!オレ、あいつに言った方がいいの?」
「…いや。(言っても言わなくても)いいと思う!」
谷本も鈍そうだとは思ったが、伊坂も違った意味で鈍かった。予想していたとはいえ、なかなかのカミングアウトだった。2人の馴染みの友人である俺は、何とも表現し難い気持ちになる反面、単純にうらやましいと思った。
俺のモノはお前のモノ。お前のモノは俺のモノ。(ジャ○ア○の有名なセリフとは少し違う)
そんなふうに言えてしまう絆が、2人にはあるように思えた。お互いの一部を気に入るあまり、フェチになってしまったことも。それぞれのモノに対する、独占欲というか、俺とお前の境界線をなくしてしまう、同一視というか…。谷本には、確認できたわけではないけれど、きっと、あいつのフェチも伊坂が原点のような気がした。
一日を締めくくる、お楽しみの時間。今夜も、ルシアンを連れてK公園に散歩に来た。
あれから、ヒコちゃんとは時折、出会う。当番制でムムさんの散歩をしているらしく、毎回、この時間帯の担当になるわけではないと言っていた。今日は会えるかな?
急にギューーーンッと、ルシアンにリードを引っ張られる。ルシアンの成長は著しく、日に日に力が強くなってきている。そのうち、こいつに引きずり回されるかもしれない。
俺はまだ確認できていなかったが、ルシアンには、ムムさんが来たことがわかったようだ。シッポをグリングリン振り回しながら、彼らの居る方に向かって猛ダッシュして行く。もちろん、俺も釣られてダッシュする。
「こんばんは」
「あぁ」
「ルシアン、ムムさんのことすげぇ好きみたいだわ。リードを引く力が、ムムさんを見つけた時だけ、いつもより数倍強いんだよ」
ワフワフじゃれ合う2匹を眺めながら、ヒコちゃんに話しかける。
「ヒコちゃん、俺さ…」
「なぁ…」
「何?ヒコちゃん?」
「それ…」
「ヒコちゃん?」
「そう、それ」
「あっ!もしかして、ヒコちゃんって、あの時限定の呼び名だった?」
「……」
ヒコちゃんが、何ともいえない、遠い目をした。…気がする。
「…鈴掛清彦。アンタは?」
ヒコちゃんがポツリと呟く。
「俺は、佐熊咲弥。そういえば、フルネームで名乗ってなかったな」
「佐熊…か」
「今さらだけど、今後ともよろしく!!鈴掛って呼べばいい?」
「あぁ」
「あっ!鈴掛もイニシャル、S.Sだな。一緒だ」
以前、ルシアンの前足に巻きつけた、白い布に書いた短い伝言を思い出す。
―――あれは、S.SからS.Sへ宛てたメッセージだったんだ…。
何となく、くすぐったい感じを覚え、フッと笑みがこぼれた。“S.S”という、偶然にも同じイニシャル。俺とお前の区別が付かないソレ。俺のモノであり、お前のモノである、モノ。
谷本と伊坂には、敵わないけれど、“俺のモノはお前のモノ”って言える存在を、見つけた。
隣に立っている鈴掛を見つめながら微笑めば、まっすぐな瞳で見つめ返される。そんな視線の交流がとても心地よく、俺達の間を、ほっこりとした穏やかな時間が流れていく。
…明日も一日頑張れそうな予感がした。
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