誘惑なんてしてないから

ミナクオ

文字の大きさ
4 / 18

復活した由良川と、お迎え?チカちゃん?

しおりを挟む
「はいは~い!チカちゃん、どうした~?…たかじょ~?しらないよ~?みせでてすぐ、わかれたから~。…おれ~?よいさましちゅう~!…ひとりだよ~?」


チカちゃんが探しているのは、高條たかじょうなのか、由良川ゆらかわなのか。


「いっしょにかえるって~?…ばしょ~?あ~、ちょっと、まってて~!こっちから、またれんらくするわ~!」


由良川だったようだ。家が近所だから、物心がつく前からの付き合いだと、前に聞かされた。由良川もチカちゃんも、実家から大学に通っているはずだ。


「マイ、スウィーティ~がまっているから、かえらないと~!さいはら、フロントにでんわして、ロックかいじょもらって~!」

「ロック?言わないと開かないのか?」

「そうだよ~!しゅくはくするけど、ちょっとでてくるっていって~!」


部屋を出るには、室内の精算機で会計を済ますか、フロントに電話をかけて、ロックを解除してもらわないといけないらしい。鍵いらずとは、そういうシステムなのか。


「開けてもらうのはいいけど、歩けそうなのか?肩ぐらいしか貸せないからな?」

「あるけそう~!チカちゃんのこえをきいたら、ふっかつした~!あいのちからは、いだいだわ~!」


愛の力かどうかはわからないけど、由良川はふらふらと立ち上がった。どうなることかと思ったが、チカちゃんから着信があって助かった。

言われた通りにすると、そのうちガチャッと、ロックの解除音が聞こえた。

痛ましい姿で寝こけている高條を残し、由良川に肩を貸しながら部屋を出た。もう会うことはないだろうが、後味がとてつもなく悪いから、今夜のことは早く忘れようと思った。



「このへんまでくればいいか~!さいはら、もういいよ~!ありがとうな~!マイ、スウィーティ~に、れんらくするわ~!」

「チカちゃんに迷惑かけるなよ。…明日とかに、高條からメールの返信があったら、どうすればいい?」

「あ~、てきとうにかえしておいて~!チカちゃんがフラれちゃったら、さいはらにしらせるから~!そしたら、ブッチしちゃっていいよ~!」

「…わかった。そこまで引き受けてやるんだから、それ相応のことを返してもらうからな」

「まかせろ~!おれは、おんをあだでかえさないおとこだ~!」


ここまでこき使われて、恩を仇で返されたら、たまったもんじゃない。

早く忘れようと思ったばかりだったけど、最後まできちんとやりたい性分が、それを邪魔することになってしまった。由良川から知らせが入るまでは、高條とメールのやり取りをしなければ。


スマホを耳に当てながら、ふらふらと立ち去る由良川の背中を見送っていたが、やつが惚れ込んでいるチカちゃんを、一目見てから帰ろうかと思い直した。

次の角を曲がって行ったので、尾行していることに気がつかれないように、その角からちょっとだけ顔を出して、状況をうかがう。


「チカちゃ~ん!!!」


ぶんぶんと、手を振っている由良川の後ろ姿が目に入った。振り方が大げさで、よろめいて今にも転びそうになっている。手なんか振っている場合じゃない。距離的に近いし、街灯でそこそこ明るいから、由良川のハタ迷惑な様子がばっちり見えた。

運悪く、そこへ通りがかったガッチリとした体躯の若者おとこが、めちゃくちゃ迷惑そうな顔をしながらも、よろよろしている由良川を支えようと、手を伸ばした。

…かのように見えたが、伸ばしたその手で由良川を張り倒し、黒くて長い毛束のような物を、由良川の顔面にバシッと叩きつけた。…あれは、俺が被るはずだったヅラか?


「うっせぇ。帰るぞ」


低く野太い声の持ち主は、道に倒れ込んだ由良川を振り返ることなく、スタスタと元来た道を戻って行った。


「ぶはっっ!!まってくれ~!おいていかないで~!」


由良川は、ジタバタして何とか立ち上がり、さっきよりふらふらしながら、その後を追いかけて行った。投げつけられたヅラが、日本人形の呪いのごとく首元に巻き付いていて、それはそれは不気味だった。

……もしかして、今のがチカちゃん?

今度、それとなく聞いてみるか。俺の中の勝手なチカちゃん像が、根底から崩壊しそうだし、由良川のどうしてそうなった的な勘違いが、ボロボロ出てきそうだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...