誘惑なんてしてないから

ミナクオ

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目を開けると、そこはラブホだった~by高條~

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強烈な喉の渇きで、目が覚めた。かろうじて吐くほどではないが、胃がムカムカするし、身体を起こそうと動いたら、頭にガンガンと響いた。完全なる二日酔いで、プラス身体の色んなところが痛い。


「っつぅ…」


昨夜、サークルの飲み会があり、同じ学年の由良川ゆらかわが、俺を潰しにきたのがわかったから、負けじと飲んだが、向こうの方が強かった。

しこたま飲まされた後、強引に肩を組まれ、居酒屋を出た辺りから記憶が途切れている。

酒の席であんなに絡まれたのは、今回が初めてだったが、由良川の幼馴染、鮎登あゆとうと同じ学科というだけで、一年の頃からやたらと突っかかってくる。


「…ここは、どこだ?」


一人、ベッドの上で固まる。ラブホのようだが、昨夜は由良川とほぼサシで飲んでいたから、女子と話したのは飲み始める前だけで、こんな所に泊まるような展開にはならなかったはずだ。

言い寄られることが多い分、ガードを固くしておかないと、ヤリチンなどと、悪評を立てられる可能性が高い。だから、相手は見極めているつもりだし、酒による失敗も今までしたことがなかった。


「あれだけ飲んだし…」


上半身は何も付けておらず、下着と、なぜかジーンズは半分位しか履いていないが、下半身が役に立ったとは思えない。身体の下からスマホと財布が出てきた時点で、冷静になれた。そっちの意味でも、身ぐるみ剥がされてなくてよかった。


「とりあえず、水だな」


中途半端に履いていたジーンズを蹴り捨て、ミネラルウォーターを一気飲みしてから、シャワーを浴びに行く。すぐにチェックアウトしなくても、宿泊料金は後一時間ほど変わらない。


「うわっ…!すげぇーな、こりゃ…」


首と鎖骨に、おびただしい数のキスマークが付けられていた。情熱的と言えなくもないが、逆にあやしい感じがした。


「ギャグか。吸い付きすぎだろ」


下着を脱ごうと、視線を移したところで、へその下に、薄めの赤い痕が付いていることに気が付いた。


「えっ…!これもキスマーク?」


下半身もとなると、笑えなくなってくる。中心部は何事もなさそうで、鼠径部も無印だった。安堵したのも束の間、内股にくっきりと赤い痕。


「あった…」


こんな際どい場所に付いているってことは、際どい行為をしたってことか?一方的に口淫されたのならまだしも、それを強要したりしてないよな?


「記憶がないって、超怖ぇ…!」


身体を適当に拭いてから、ベッドまで戻り、放置していたスマホを確認する。サークルの連中から、着信やメッセージが数件入っていた。どれも、ヘベレケの状態で、由良川と共に消えたことを心配したり、面白がる内容だった。


「おっ?」


一件だけ、登録していないアドレスからメールが入っていた。普段なら見ずに消去しているが、状況が状況なので、件名なしのそれを開いてみる。


『忘れられない一夜だったよ』


その一言に、怒りマーク(怒筋)が付いていた。


「何したんだ、俺…。んでもって、誰だよ、この子…」


メールに添付されていたのは、赤ら顔で眠っているキスマークだらけの俺と、そんな俺に肩枕をされて目を閉じているショートカットの子の画像だった。相手の表情はよくわからないが、肌の色は火照ほてったようなピンクで、事後なんじゃないかと思わせる一枚…。


「…ヤッたとか?いや、そんなわけは…」


見覚えのない子と、それなりのことをしたっぽいのに、まったく記憶がない。なぜ相手は怒っているのか。この際、最後までしたかどうかは、問題じゃないだろう。


「責任を取るとしても、まずは謝らなきゃな」


謝るなら早い方がいい。名も知らぬ相手に、謝罪メールを送信した。それから、グロッキーな気分で、金を払って部屋を出た。

痛すぎる出費と、経験だった。今後、もし機会があったとしても、このラブホを利用することはあるまい……。


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