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メールをもらった才原と、とっちらかっている由良川
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髪を切りに行こうかと起きたら、メールが入っていた。登録せずにいたけど、このアドレスは高條のだ。あれから、ちゃんと帰れたのだろうか。
『昨夜は泥酔していて記憶がない。怒らせることをしたみたいで、すまなかった。謝って許されることではないと思うが、一度きちんと謝りたい。会うことはできないか?』
誠実すぎる文面に良心が痛み、現在進行形で騙していることに、息苦しさのようものを感じる。…怒らせることをしたみたい?俺が怒るとしたら、それは高條にではなく、由良川にだ。
ハテナ?と思って、昨夜、送信したメールを見返すと、ハートマークを入れたつもりが、そうはなっていなかった。言われたセリフをまんま打ち込んで、見直さずに即送信したから、誤りにまったく気がつかなかった。
高條からメールの返信があったら、適当に返すことになっていたけど、そんな誠意のない対応をする気にはなれなかった。
『マークの入力ミスをしただけで、怒ってないから。あんなことをしてしまって、罪悪感しかない。だから、会うことなんてできない。とにかく、ごめんなさい』
はあ、もう嫌だ。髪を切ることで、ちょっとはすっきりしたい。その後、元凶の由良川を呼び出して、カット代の請求と、夕飯を奢らせてやる。
襟足はすっきりしたが、気持ちはまったく変わらないまま、バイト先近くの、いつもと同じファミレスで、由良川と待ち合わせをした。
「高條がいいやつすぎて、これ以上メールのやり取りをしたくない。きっとまた、紳士的な内容が送られてくると思うから」
「あ~、あいつ、見てくれが抜群で、根が真面目なだけじゃなくて、チカちゃんのことを抜きにすれば、普通にいいやつだからな!」
「…それって、ウルトラいいやつってことじゃん。あのさ、チカちゃんって、本当に高條のことが好きなのか?何て言ってたんだ?」
「なーんも言ってない。けど!高條みたいなやつが同じ学科にいたら、誰だって好きになるだろ?現在フリーなら、アタックしたくなるだろ?チカちゃんはピュアッピュアだから、あいつの人の良さに、コロッといっちゃってもおかしくないんだよ!憎い!高條が憎い!万人受けする高條が憎いんだよ~!」
「信じられない。そんな理由で、犯罪の片棒を担がされたのか…」
「犯罪とは、大げさな~!まあ、チカちゃんのためなら、なんだってやるけど?」
勘違いというか、度を越した思い込みだった。通常運転にしているのに、標的にされている高條が不憫でならない。とんだとばっちりだ。ニタリと黒い笑みを浮かべる由良川が、ゲスこわキモい。
「チカちゃんに今すぐ、好きなやつがいるか聞いてみろよ。じゃないと、高條にメールして、すべてバラす!」
「才原、相当きてんな~。わかったから、バラすのはやめてくれ!」
「チカちゃんに好きなやつはいないって言われたら、高條を目の敵にするのはやめろよ」
「え~!今はいなくても、そのうち好きになるかもしれないじゃん!あの高篠だぞ?」
「由良川、おまえちょっと、高條から離れろ」
由良川が口を尖らせて、スマホをいじるのを横目で見ながら、残りのステーキをライスと一緒に口に放り込む。一番高いメニューを注文してやった。カット代を支払うと、飯が奢れないと言われたので、そっちは次会った時に請求することにした。俺は見返りがあるからまだいいけど、高條は被害しか受けていないのだから気の毒すぎる。
「既読も、メッセージなし!いつものパターンだわ~。チカちゃん、ソー、クール!」
「今まで聞いたことなかったけど、チカちゃんってけっこう強い?その、腕力的に」
それとなく聞こうとしたけど、オブラートに包めなかった。あれだけガッチリしていれば、由良川だって敵わなさそうだし、俺なんかは、たぶん一捻りでオワる。
「はぁ~~~?」
「あ、違ってたら…」
「俺は、チカちゃんより強いやつを知らない!!」
「やっぱ、そうか。あれか、あの若者か…」
「あ?何ブツブツ言ってんだ?」
「いや、こっちの話。チカちゃんは本名?アダ名?」
「俺がつけたアダ名だよ。物心ついた時からずっとそう呼んでる。才原には、チカちゃん呼びを特別に許してやってんだから、ありがたく思えよ!」
「ありがとう。で、本名は?」
「1ミリも心がこもってねーありがとうだな!本名は鮎登知佳で、ともよしの字が、ちかって読めるから、チカちゃん!」
テーブルに、指で大きく漢字を書きながら説明された。確かにチカとも読めるけど、トモヨシというバリッバリの男性ネームだった。俺の中の可憐なチカちゃん(イメージ像)よ、さようなら。ガッチリ無敵な知佳ちゃん(実像)よ、こんにちは。とっちらかっている由良川のことだ。チカちゃんの性別を初めから確認しておくんだった。
「チカちゃんも男が好きなのか?」
「も!?それって、俺が含まれてんの?俺はチカちゃんだから好きっつーか、唯一愛してるし!おい~!恥ずかしいことを言わせんなよ~!チカちゃんは、普通に女の子が好きだと思うけどな」
「言わせてないから…。ノーマルなのに、高篠にアタックしそうになるか?」
「だって!だって!チカちゃん、高條には既読無視しないし、『電話すんな。うぜぇ。』って、言わないしさ~!俺の時と比べて、接し方が柔らかいというか、愛想がいいというか。この調子でいったら、チカちゃん、絶対あいつにアタックしちまうわ~!阻止する!断固、阻止する!」
何となくだけど、高條にはというより、由良川以外には皆そうなんじゃないのか。ここにきて、どうしてそうなった的な勘違いも出てきた。
「いいから、落ち着けよ。でも、昨夜はチカちゃんから着信あったよな?」
「あっちからはいいんだよ。俺からはダメ~!」
由良川が胸の前で両腕を交差させて、バツを作った。この上なく不満顔でだ。これまでに、色々聞かされてきたからわかるけど、由良川がしつこすぎて、そういうあしらい方になっているんだろう。告白できないでいるが、多分こいつの気持ちは、痛すぎるほどチカちゃんに伝わっていると思う。
「チカちゃんは、高篠にアタックしないと思うよ」
「まじで?!」
「まじで。由良川は、チカちゃん以外で、男に告白しようと思うか?」
「超・超・超無理!あ・り・え・な・い!」
「それと同じだから!」
『昨夜は泥酔していて記憶がない。怒らせることをしたみたいで、すまなかった。謝って許されることではないと思うが、一度きちんと謝りたい。会うことはできないか?』
誠実すぎる文面に良心が痛み、現在進行形で騙していることに、息苦しさのようものを感じる。…怒らせることをしたみたい?俺が怒るとしたら、それは高條にではなく、由良川にだ。
ハテナ?と思って、昨夜、送信したメールを見返すと、ハートマークを入れたつもりが、そうはなっていなかった。言われたセリフをまんま打ち込んで、見直さずに即送信したから、誤りにまったく気がつかなかった。
高條からメールの返信があったら、適当に返すことになっていたけど、そんな誠意のない対応をする気にはなれなかった。
『マークの入力ミスをしただけで、怒ってないから。あんなことをしてしまって、罪悪感しかない。だから、会うことなんてできない。とにかく、ごめんなさい』
はあ、もう嫌だ。髪を切ることで、ちょっとはすっきりしたい。その後、元凶の由良川を呼び出して、カット代の請求と、夕飯を奢らせてやる。
襟足はすっきりしたが、気持ちはまったく変わらないまま、バイト先近くの、いつもと同じファミレスで、由良川と待ち合わせをした。
「高條がいいやつすぎて、これ以上メールのやり取りをしたくない。きっとまた、紳士的な内容が送られてくると思うから」
「あ~、あいつ、見てくれが抜群で、根が真面目なだけじゃなくて、チカちゃんのことを抜きにすれば、普通にいいやつだからな!」
「…それって、ウルトラいいやつってことじゃん。あのさ、チカちゃんって、本当に高條のことが好きなのか?何て言ってたんだ?」
「なーんも言ってない。けど!高條みたいなやつが同じ学科にいたら、誰だって好きになるだろ?現在フリーなら、アタックしたくなるだろ?チカちゃんはピュアッピュアだから、あいつの人の良さに、コロッといっちゃってもおかしくないんだよ!憎い!高條が憎い!万人受けする高條が憎いんだよ~!」
「信じられない。そんな理由で、犯罪の片棒を担がされたのか…」
「犯罪とは、大げさな~!まあ、チカちゃんのためなら、なんだってやるけど?」
勘違いというか、度を越した思い込みだった。通常運転にしているのに、標的にされている高條が不憫でならない。とんだとばっちりだ。ニタリと黒い笑みを浮かべる由良川が、ゲスこわキモい。
「チカちゃんに今すぐ、好きなやつがいるか聞いてみろよ。じゃないと、高條にメールして、すべてバラす!」
「才原、相当きてんな~。わかったから、バラすのはやめてくれ!」
「チカちゃんに好きなやつはいないって言われたら、高條を目の敵にするのはやめろよ」
「え~!今はいなくても、そのうち好きになるかもしれないじゃん!あの高篠だぞ?」
「由良川、おまえちょっと、高條から離れろ」
由良川が口を尖らせて、スマホをいじるのを横目で見ながら、残りのステーキをライスと一緒に口に放り込む。一番高いメニューを注文してやった。カット代を支払うと、飯が奢れないと言われたので、そっちは次会った時に請求することにした。俺は見返りがあるからまだいいけど、高條は被害しか受けていないのだから気の毒すぎる。
「既読も、メッセージなし!いつものパターンだわ~。チカちゃん、ソー、クール!」
「今まで聞いたことなかったけど、チカちゃんってけっこう強い?その、腕力的に」
それとなく聞こうとしたけど、オブラートに包めなかった。あれだけガッチリしていれば、由良川だって敵わなさそうだし、俺なんかは、たぶん一捻りでオワる。
「はぁ~~~?」
「あ、違ってたら…」
「俺は、チカちゃんより強いやつを知らない!!」
「やっぱ、そうか。あれか、あの若者か…」
「あ?何ブツブツ言ってんだ?」
「いや、こっちの話。チカちゃんは本名?アダ名?」
「俺がつけたアダ名だよ。物心ついた時からずっとそう呼んでる。才原には、チカちゃん呼びを特別に許してやってんだから、ありがたく思えよ!」
「ありがとう。で、本名は?」
「1ミリも心がこもってねーありがとうだな!本名は鮎登知佳で、ともよしの字が、ちかって読めるから、チカちゃん!」
テーブルに、指で大きく漢字を書きながら説明された。確かにチカとも読めるけど、トモヨシというバリッバリの男性ネームだった。俺の中の可憐なチカちゃん(イメージ像)よ、さようなら。ガッチリ無敵な知佳ちゃん(実像)よ、こんにちは。とっちらかっている由良川のことだ。チカちゃんの性別を初めから確認しておくんだった。
「チカちゃんも男が好きなのか?」
「も!?それって、俺が含まれてんの?俺はチカちゃんだから好きっつーか、唯一愛してるし!おい~!恥ずかしいことを言わせんなよ~!チカちゃんは、普通に女の子が好きだと思うけどな」
「言わせてないから…。ノーマルなのに、高篠にアタックしそうになるか?」
「だって!だって!チカちゃん、高條には既読無視しないし、『電話すんな。うぜぇ。』って、言わないしさ~!俺の時と比べて、接し方が柔らかいというか、愛想がいいというか。この調子でいったら、チカちゃん、絶対あいつにアタックしちまうわ~!阻止する!断固、阻止する!」
何となくだけど、高條にはというより、由良川以外には皆そうなんじゃないのか。ここにきて、どうしてそうなった的な勘違いも出てきた。
「いいから、落ち着けよ。でも、昨夜はチカちゃんから着信あったよな?」
「あっちからはいいんだよ。俺からはダメ~!」
由良川が胸の前で両腕を交差させて、バツを作った。この上なく不満顔でだ。これまでに、色々聞かされてきたからわかるけど、由良川がしつこすぎて、そういうあしらい方になっているんだろう。告白できないでいるが、多分こいつの気持ちは、痛すぎるほどチカちゃんに伝わっていると思う。
「チカちゃんは、高篠にアタックしないと思うよ」
「まじで?!」
「まじで。由良川は、チカちゃん以外で、男に告白しようと思うか?」
「超・超・超無理!あ・り・え・な・い!」
「それと同じだから!」
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