6 / 18
メールをもらった才原と、とっちらかっている由良川
しおりを挟む
髪を切りに行こうかと起きたら、メールが入っていた。登録せずにいたけど、このアドレスは高條のだ。あれから、ちゃんと帰れたのだろうか。
『昨夜は泥酔していて記憶がない。怒らせることをしたみたいで、すまなかった。謝って許されることではないと思うが、一度きちんと謝りたい。会うことはできないか?』
誠実すぎる文面に良心が痛み、現在進行形で騙していることに、息苦しさのようものを感じる。…怒らせることをしたみたい?俺が怒るとしたら、それは高條にではなく、由良川にだ。
ハテナ?と思って、昨夜、送信したメールを見返すと、ハートマークを入れたつもりが、そうはなっていなかった。言われたセリフをまんま打ち込んで、見直さずに即送信したから、誤りにまったく気がつかなかった。
高條からメールの返信があったら、適当に返すことになっていたけど、そんな誠意のない対応をする気にはなれなかった。
『マークの入力ミスをしただけで、怒ってないから。あんなことをしてしまって、罪悪感しかない。だから、会うことなんてできない。とにかく、ごめんなさい』
はあ、もう嫌だ。髪を切ることで、ちょっとはすっきりしたい。その後、元凶の由良川を呼び出して、カット代の請求と、夕飯を奢らせてやる。
襟足はすっきりしたが、気持ちはまったく変わらないまま、バイト先近くの、いつもと同じファミレスで、由良川と待ち合わせをした。
「高條がいいやつすぎて、これ以上メールのやり取りをしたくない。きっとまた、紳士的な内容が送られてくると思うから」
「あ~、あいつ、見てくれが抜群で、根が真面目なだけじゃなくて、チカちゃんのことを抜きにすれば、普通にいいやつだからな!」
「…それって、ウルトラいいやつってことじゃん。あのさ、チカちゃんって、本当に高條のことが好きなのか?何て言ってたんだ?」
「なーんも言ってない。けど!高條みたいなやつが同じ学科にいたら、誰だって好きになるだろ?現在フリーなら、アタックしたくなるだろ?チカちゃんはピュアッピュアだから、あいつの人の良さに、コロッといっちゃってもおかしくないんだよ!憎い!高條が憎い!万人受けする高條が憎いんだよ~!」
「信じられない。そんな理由で、犯罪の片棒を担がされたのか…」
「犯罪とは、大げさな~!まあ、チカちゃんのためなら、なんだってやるけど?」
勘違いというか、度を越した思い込みだった。通常運転にしているのに、標的にされている高條が不憫でならない。とんだとばっちりだ。ニタリと黒い笑みを浮かべる由良川が、ゲスこわキモい。
「チカちゃんに今すぐ、好きなやつがいるか聞いてみろよ。じゃないと、高條にメールして、すべてバラす!」
「才原、相当きてんな~。わかったから、バラすのはやめてくれ!」
「チカちゃんに好きなやつはいないって言われたら、高條を目の敵にするのはやめろよ」
「え~!今はいなくても、そのうち好きになるかもしれないじゃん!あの高篠だぞ?」
「由良川、おまえちょっと、高條から離れろ」
由良川が口を尖らせて、スマホをいじるのを横目で見ながら、残りのステーキをライスと一緒に口に放り込む。一番高いメニューを注文してやった。カット代を支払うと、飯が奢れないと言われたので、そっちは次会った時に請求することにした。俺は見返りがあるからまだいいけど、高條は被害しか受けていないのだから気の毒すぎる。
「既読も、メッセージなし!いつものパターンだわ~。チカちゃん、ソー、クール!」
「今まで聞いたことなかったけど、チカちゃんってけっこう強い?その、腕力的に」
それとなく聞こうとしたけど、オブラートに包めなかった。あれだけガッチリしていれば、由良川だって敵わなさそうだし、俺なんかは、たぶん一捻りでオワる。
「はぁ~~~?」
「あ、違ってたら…」
「俺は、チカちゃんより強いやつを知らない!!」
「やっぱ、そうか。あれか、あの若者か…」
「あ?何ブツブツ言ってんだ?」
「いや、こっちの話。チカちゃんは本名?アダ名?」
「俺がつけたアダ名だよ。物心ついた時からずっとそう呼んでる。才原には、チカちゃん呼びを特別に許してやってんだから、ありがたく思えよ!」
「ありがとう。で、本名は?」
「1ミリも心がこもってねーありがとうだな!本名は鮎登知佳で、ともよしの字が、ちかって読めるから、チカちゃん!」
テーブルに、指で大きく漢字を書きながら説明された。確かにチカとも読めるけど、トモヨシというバリッバリの男性ネームだった。俺の中の可憐なチカちゃん(イメージ像)よ、さようなら。ガッチリ無敵な知佳ちゃん(実像)よ、こんにちは。とっちらかっている由良川のことだ。チカちゃんの性別を初めから確認しておくんだった。
「チカちゃんも男が好きなのか?」
「も!?それって、俺が含まれてんの?俺はチカちゃんだから好きっつーか、唯一愛してるし!おい~!恥ずかしいことを言わせんなよ~!チカちゃんは、普通に女の子が好きだと思うけどな」
「言わせてないから…。ノーマルなのに、高篠にアタックしそうになるか?」
「だって!だって!チカちゃん、高條には既読無視しないし、『電話すんな。うぜぇ。』って、言わないしさ~!俺の時と比べて、接し方が柔らかいというか、愛想がいいというか。この調子でいったら、チカちゃん、絶対あいつにアタックしちまうわ~!阻止する!断固、阻止する!」
何となくだけど、高條にはというより、由良川以外には皆そうなんじゃないのか。ここにきて、どうしてそうなった的な勘違いも出てきた。
「いいから、落ち着けよ。でも、昨夜はチカちゃんから着信あったよな?」
「あっちからはいいんだよ。俺からはダメ~!」
由良川が胸の前で両腕を交差させて、バツを作った。この上なく不満顔でだ。これまでに、色々聞かされてきたからわかるけど、由良川がしつこすぎて、そういうあしらい方になっているんだろう。告白できないでいるが、多分こいつの気持ちは、痛すぎるほどチカちゃんに伝わっていると思う。
「チカちゃんは、高篠にアタックしないと思うよ」
「まじで?!」
「まじで。由良川は、チカちゃん以外で、男に告白しようと思うか?」
「超・超・超無理!あ・り・え・な・い!」
「それと同じだから!」
『昨夜は泥酔していて記憶がない。怒らせることをしたみたいで、すまなかった。謝って許されることではないと思うが、一度きちんと謝りたい。会うことはできないか?』
誠実すぎる文面に良心が痛み、現在進行形で騙していることに、息苦しさのようものを感じる。…怒らせることをしたみたい?俺が怒るとしたら、それは高條にではなく、由良川にだ。
ハテナ?と思って、昨夜、送信したメールを見返すと、ハートマークを入れたつもりが、そうはなっていなかった。言われたセリフをまんま打ち込んで、見直さずに即送信したから、誤りにまったく気がつかなかった。
高條からメールの返信があったら、適当に返すことになっていたけど、そんな誠意のない対応をする気にはなれなかった。
『マークの入力ミスをしただけで、怒ってないから。あんなことをしてしまって、罪悪感しかない。だから、会うことなんてできない。とにかく、ごめんなさい』
はあ、もう嫌だ。髪を切ることで、ちょっとはすっきりしたい。その後、元凶の由良川を呼び出して、カット代の請求と、夕飯を奢らせてやる。
襟足はすっきりしたが、気持ちはまったく変わらないまま、バイト先近くの、いつもと同じファミレスで、由良川と待ち合わせをした。
「高條がいいやつすぎて、これ以上メールのやり取りをしたくない。きっとまた、紳士的な内容が送られてくると思うから」
「あ~、あいつ、見てくれが抜群で、根が真面目なだけじゃなくて、チカちゃんのことを抜きにすれば、普通にいいやつだからな!」
「…それって、ウルトラいいやつってことじゃん。あのさ、チカちゃんって、本当に高條のことが好きなのか?何て言ってたんだ?」
「なーんも言ってない。けど!高條みたいなやつが同じ学科にいたら、誰だって好きになるだろ?現在フリーなら、アタックしたくなるだろ?チカちゃんはピュアッピュアだから、あいつの人の良さに、コロッといっちゃってもおかしくないんだよ!憎い!高條が憎い!万人受けする高條が憎いんだよ~!」
「信じられない。そんな理由で、犯罪の片棒を担がされたのか…」
「犯罪とは、大げさな~!まあ、チカちゃんのためなら、なんだってやるけど?」
勘違いというか、度を越した思い込みだった。通常運転にしているのに、標的にされている高條が不憫でならない。とんだとばっちりだ。ニタリと黒い笑みを浮かべる由良川が、ゲスこわキモい。
「チカちゃんに今すぐ、好きなやつがいるか聞いてみろよ。じゃないと、高條にメールして、すべてバラす!」
「才原、相当きてんな~。わかったから、バラすのはやめてくれ!」
「チカちゃんに好きなやつはいないって言われたら、高條を目の敵にするのはやめろよ」
「え~!今はいなくても、そのうち好きになるかもしれないじゃん!あの高篠だぞ?」
「由良川、おまえちょっと、高條から離れろ」
由良川が口を尖らせて、スマホをいじるのを横目で見ながら、残りのステーキをライスと一緒に口に放り込む。一番高いメニューを注文してやった。カット代を支払うと、飯が奢れないと言われたので、そっちは次会った時に請求することにした。俺は見返りがあるからまだいいけど、高條は被害しか受けていないのだから気の毒すぎる。
「既読も、メッセージなし!いつものパターンだわ~。チカちゃん、ソー、クール!」
「今まで聞いたことなかったけど、チカちゃんってけっこう強い?その、腕力的に」
それとなく聞こうとしたけど、オブラートに包めなかった。あれだけガッチリしていれば、由良川だって敵わなさそうだし、俺なんかは、たぶん一捻りでオワる。
「はぁ~~~?」
「あ、違ってたら…」
「俺は、チカちゃんより強いやつを知らない!!」
「やっぱ、そうか。あれか、あの若者か…」
「あ?何ブツブツ言ってんだ?」
「いや、こっちの話。チカちゃんは本名?アダ名?」
「俺がつけたアダ名だよ。物心ついた時からずっとそう呼んでる。才原には、チカちゃん呼びを特別に許してやってんだから、ありがたく思えよ!」
「ありがとう。で、本名は?」
「1ミリも心がこもってねーありがとうだな!本名は鮎登知佳で、ともよしの字が、ちかって読めるから、チカちゃん!」
テーブルに、指で大きく漢字を書きながら説明された。確かにチカとも読めるけど、トモヨシというバリッバリの男性ネームだった。俺の中の可憐なチカちゃん(イメージ像)よ、さようなら。ガッチリ無敵な知佳ちゃん(実像)よ、こんにちは。とっちらかっている由良川のことだ。チカちゃんの性別を初めから確認しておくんだった。
「チカちゃんも男が好きなのか?」
「も!?それって、俺が含まれてんの?俺はチカちゃんだから好きっつーか、唯一愛してるし!おい~!恥ずかしいことを言わせんなよ~!チカちゃんは、普通に女の子が好きだと思うけどな」
「言わせてないから…。ノーマルなのに、高篠にアタックしそうになるか?」
「だって!だって!チカちゃん、高條には既読無視しないし、『電話すんな。うぜぇ。』って、言わないしさ~!俺の時と比べて、接し方が柔らかいというか、愛想がいいというか。この調子でいったら、チカちゃん、絶対あいつにアタックしちまうわ~!阻止する!断固、阻止する!」
何となくだけど、高條にはというより、由良川以外には皆そうなんじゃないのか。ここにきて、どうしてそうなった的な勘違いも出てきた。
「いいから、落ち着けよ。でも、昨夜はチカちゃんから着信あったよな?」
「あっちからはいいんだよ。俺からはダメ~!」
由良川が胸の前で両腕を交差させて、バツを作った。この上なく不満顔でだ。これまでに、色々聞かされてきたからわかるけど、由良川がしつこすぎて、そういうあしらい方になっているんだろう。告白できないでいるが、多分こいつの気持ちは、痛すぎるほどチカちゃんに伝わっていると思う。
「チカちゃんは、高篠にアタックしないと思うよ」
「まじで?!」
「まじで。由良川は、チカちゃん以外で、男に告白しようと思うか?」
「超・超・超無理!あ・り・え・な・い!」
「それと同じだから!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる