誘惑なんてしてないから

ミナクオ

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白状する才原と、戸惑う高條

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由良川ゆらかわの作戦をバラす気はないけど、俺が男ってことは、高條たかじょうに白状したい」

「白状してどうすんだよ?」

「それでもまだ、会おうってメールが入ったら、誘いに乗ろうかと思って…。会うつもりなかったんだけど、この8日間で気が変わった。」

「まあ、会ってみないことには、彼氏になるもならないもねーしな。そこは、才原さいはらの好きにしていいぞ~」

「おまえさ、ムチャぶりばっかしてないで、いい加減、チカちゃんに告れよ。俺と高條より、由良川とチカちゃんの方が、付き合える確率としては高いと思うぞ」

「まじで?!」

「まじで。正々堂々、当たって砕けてみろよ」

「絶対に、砕けたくないんだけど!!」


俺には散々偉そうに言うくせに、この話題になった途端、グズグズになりやがる。


「断られたら気まずくなるから無理?その程度の絆なら、幼馴染なんてやめてしまえ!どれくらいの片想いかは知らんけど、フラれたらきっぱりさっぱり諦めろ!」

「18年だ!!そんな簡単に諦められるわけがないだろ!才原は、本気で人を好きになったことがないから、わからないんだよ!チカちゃんのいない人生なんて、カレーのないインドの食卓と同じだ!」

「それは…、なくてはならないレベルだな…。よくわかった。けど、由良川が告らないなら、この作戦から降りる。俺はここまで色々してやってんだ。おまえの本気とやらを、そろそろ見せたらどうなんだ?」

「おうおう、見せてやる!そこまで言われちゃ、告るしかねーし!チカちゃんをモノにできたら、盛大に奢ってもらうからな!」


奢る義理はまったくないけど、由良川を焚きつけることに成功した。結局のところ、こいつとチカちゃんが良くも悪くもどうにかなればいいだけの話だ。とばっちりの高條も、巻き込まれた俺も、このムチャクチャな作戦から、やっと解放される。

生贄、もとい女神の件は、こっちはこっちで精一杯頑張ってはみたけど、どうしても駄目だったということにしよう。見ず知らずの関係から、しかも同性で、付き合うまでの仲になれるとは100パーセント思えない。

それぞれの健闘を祈って、由良川と別れた。最近、スマホをチェックすることが増えてしまったなと、画面を開けば、メールが入っていた。ついさっきの時刻だった。


『忘れられなくなることが、お互いにとって良くないことなのか、今の俺には判断がつかない。名前も知らないし、顔もよくわからないんだ』


俺は白状する。


『名前は才原。性別は男。顔は、よくわからないままの方がいいよ』


送信するのが少し怖かったけど、これで終われば、それはそれだ。


『戸惑いはあるが、やっぱり一度、会うことはできないか?』


すぐに返信があったことに驚く。答えは決まっている。


『わかった。いつどこで会おうか?』


それから、高條が指定してきた日時と場所に、了解したと返事をして、その日のやり取りは終わった。

会うと決まれば、どんな顔をして会えばいいのかとか、どんな話をすればいいのかとか、ちょっとしたパニックを起こしかけた。心臓がドキドキしてやばかった。







「才原さん?俺…」

「高條だろ?タメだから、俺のことも呼びつけでいいよ」


指定されたカフェに入ると、奥の2人がけの席に座っている高條を見つけた。意を決してすぐそばまで行くと、声をかけるより先に話しかけられた。緊張していることがバレないように、落ち着いて話そうとしたけど、早口になってしまった。顔が熱くなるのを感じたから、うつむきがちに、高條の向かいに腰を下ろす。


「じゃ、才原、今日は来てくれてありがとう。正直、今も戸惑っている。同性だと思ってなくて…」

「ごめん。…事情があって多くは話せないけど、本当に悪かったと思ってるんだ。こっちこそ、面と向かって謝るチャンスをもらえたことに、感謝しているよ。ありがとう」

「いや、謝りたかったのは俺も同じだ。記憶がなくてすまん。もしかして、前にどっかで会ったことがあるとか?」

「ないよ。あの時が初めてだった。見ず知らずの野郎に、あんなことをされて、めちゃくちゃ気持ちが悪かったよな。本当にごめん」

「顔を上げてくれ。さっきから、才原のつむじしか見てねぇし。…あれだけの数を付けられたのは初めてで、最初はギャグかと思った。でも、際どい場所にもあったから、それなりのことをしたのかと…」

「酔い潰れて寝こけてた高篠に、俺が一方的に付けただけだから。それ以外は何もしてないし、されてもないから安心して欲しい」

「よかった!酒で失敗したことはなかったんだ。才原に、何もしてなくてよかった!」


高條は、心底ホッとしたように息を吐き、その後、端正な顔でニカッと笑った。つられてちょっと笑ってしまったけど、すぐにうつむいた。こんないいやつに、なんてことをしたんだ。


「才原、いいって。もう終わったことだろ。事情があったんだし、そんな苦しそうな顔すんなよ。甘い物は好きか?ここのケーキはうまいから、食ってけよ。俺も頼むし。」


自分の涙腺がこんなに脆いとは思わなかったが、高條の気遣いに触れて、不意に決壊した。


「えっ!どうした!?目にゴミでも入った?」

「違う…。高條、おまえいいやつすぎるよ…。ごめん、すぐ止めるから」


最悪だ。人前で泣くなんて、恥ずかしいってもんじゃない。されたことを思えば、泣きたいのは俺ではなく、高篠の方なのに。

ギョッとした様子で、高條が紙ナプキンを手渡してくれた。こいつを戸惑わせてばかりで、本当に嫌になる。


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