誘惑なんてしてないから

ミナクオ

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前フリをすると、才原の自虐鉄板ネタが飛び出した~by高條~

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俺の笑いのツボを、いちいち押してくる才原さいはらと、そのまま飲みに行くことにした。

カフェ代を出すと譲らない才原に、この後、割り勘で酒に付き合ってくれるならと、条件付きで奢ってもらった。


「いいのか?俺なんかと飲みに行って」

「俺と酒を飲むのは嫌?」

「こっちが聞いてるのに…。嫌なはずがないだろ」

「ブッ。何その、かわいい反応」

「かわいくないから!」


顔を赤くして、うつむく姿もツボだ。才原は、自分を平凡やそれ以下と言っていたが、色白で肌のキメが整っているせいか、なかなか見栄えがする。体の作りが小さい方だし、痩せて見えるが、ケーキの食いっぷりはよかったから、太らない体質か、ただの甘党か。

あれだけのキスマークを付けられた相手だが、その手の空気をまったく感じないし、遊んでいるようにも思えない。真面目で几帳面っぽいこいつが、あんなことをするなんて実に不思議で、誰かにやらされたとしか考えられなかった。


「壁が薄くて会話は筒抜けだが、全席個室の居酒屋がこの近くにあるんだ。そこでいい?」

「個室の意味がない店だな…。そこでいいよ」

「才原は飲める方?」

「どっちかと言えば、飲めない方かな。飲みの雰囲気は嫌いじゃないけど。高條たかじょうは強いんだろ?」

「弱くはねぇが、しばらくは節酒する。また記憶をなくして、キスマークだらけになりたくねぇし?」

「ごめん。やっぱり、これから飲むのよそう…」

「わりぃ。才原と飲みたいんだって。俺はもう全然だし、才原もそこはネタにしていかねぇ?」

「ネタにか。高條と楽しく飲みたいから努力するよ」


思ったことを隠さず口に出しているんだろうが、内容がスレてないから、聞いていて和む。最初のイメージとのギャップで、才原のことをもっとちゃんと知りたくなった。




「とりあえず、ポテトと唐揚げだな」

「ブッ。そこは、とりあえず生だろ」

「さっきコーヒー飲んで、喉があんま乾いてないから、揚げ物の方が恋しい」

「ブッ、恋しいって。表現が笑える。乾杯ができねぇし、酒も何か頼め」

「あ、乾杯はしたいよな。じゃあ、俺も生にする」


最奥の個室に通されて、第一声がそれで笑った。揚げ物好きの甘党っぽいから、太らない体質の方だったようだ。

最初だけ店員を呼んで注文をしたら、後はタッチパネルで追加していく。才原と話しながら選んでいると、生ビールが運ばれてきた。


「罪悪感が薄れたことに、乾杯!…はあ、うまい!」

「乾杯!罪悪感なんて木端微塵に消し飛ばしちまえ。そうすれば、もっとうまい酒になる」


才原が放った乾杯の音頭に苦笑しながら、一気にジョッキの半分くらいまで呷る。むこうは早くも、顔から首にかけてピンク色に染まっている。色白だからよく目立つ。


「木端微塵にか。酒の力を借りてそうしたいのは山々だけど」

「これは前フリだが、あの時の写メな、才原の肌の色が火照ったようなピンクで、最後までやったかと錯覚した」

「あれか…。酔っ払って寝こけた高條をおぶって部屋まで運んだ上に、寝転んでいるおまえの服を苦労して脱がせたら、汗だくで赤くもなるさ。初めて会った男を半裸に剥いて、キスマークを付けまくった後に、己の貧相な身体を晒しながらの自撮りツーショットって、なんの罰ゲームだよ?自撮りも初めてで何度も取り直したら、腕とかがりそうになって、変な汗も出てくるし…。思い出すと涙が出そう…。また泣いていいか?」

「ブッ!ブフッ!可笑しすぎんだろ!やべぇ、腹がよじれる!痛ぇ!」

「泣く…!もう泣くから!」


そう言って才原も笑い始めた。笑いすぎて俺も涙が出た。二人して、おしぼりで目を拭ってから、また大笑いした。


「はあ…。笑った」

「これは完璧、ネタだろ」

「ネタだな。自虐の鉄板にするよ。高條限定だけど」

「ブッ!も、これ以上、笑わせんな!」


ここまで笑えるネタが、飛び出すとは思っていなかった。才原の表情からも、どんなに大変だったかが伝わってきて、それがまた笑いを誘った。


「酒飲んで大笑いしたら、罪悪感が木端微塵に消し飛んだ。高篠、本当にありがとう」

「それはよかった。これで、楽しくうまい酒が飲めるな」

「うまい酒もいいけど、ポテトと唐揚げが早く食べたい」

「とりあえず、酒よりそっちか!」


そんなやり取りをして笑い合っていると、店員がポテトと唐揚げを運んできた。才原がすごく嬉しそうな顔をしたから、また笑いが込み上げた。


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