13 / 18
しんみりする才原と、誤解を招く高條
しおりを挟む
居酒屋を出て、少し歩いたところに公園があったので、園内に設置してあるベンチに高篠と二人で腰を下ろす。
「…18年だって」
「何が?」
「由良川の片想い歴。騒がしくて気が多そうなのに、チカちゃん一筋なんだよ、あいつ」
「物心ついた頃から想ってんだな…」
「由良川に、チカちゃんのことを聞かされる度に、さっさっと告れよって思っていたし、それを口にも出してた。でも、酒が入って感情的になっていたとは言え、あれだけの想いを吐き出す由良川を見て、出しゃばるんじゃなかったって後悔してるよ。あいつのペースで告らせてやればよかった」
「由良川が自ら選んで、才原を聞き手にしていたんだ。それも一度じゃないんだろ?おまえに背中を押して欲しいって、心のどっかで思い続けていたんじゃねぇ?それにもう告っちまったんだし、その後の話をまた聞いてやればいい。きっと、聞いてくれ!って言ってくんだろ」
「そうだな…。ありがとう」
高條の言葉は、俺の中にスーッと入ってきて馴染む。積年の想いを煽るような形で、由良川に吐露させてしまったことは今も申し訳ないと思っているけど、そう言われて心が幾分か軽くなった。
「由良川の想いがあそこまでとは、予想以上だった。男同士だろって茶化すどころか、あれだけ想えるってすげぇーなって、純粋に思った」
「それは俺も同じ。そこまで人を想ったことがないから」
「…才原のこともすげぇと思った。由良川のしょうもねぇ計画に巻き込まれて、言いたいこともあっただろうに、口を挟まないで聞いていただろ。そうじゃないって否定したのは、あいつの鮎登への想いだけだった。誤魔化すべきじゃねぇところを、はっきり言わせようとしただけで、俺からは出しゃばっているようには見えなかった」
「俺は、高條の方がすごいと思う。とんだとばっちりで被害しか受けてないのに、何も言わずに聞いてたじゃん」
「呆れて物が言えないってのもあったが、才原に会えたからもういいと思って。それにネタだし、ネタ!」
ニカッと笑う高篠につられて俺も笑ってしまったけど、褒め合っていることに気づき、顔が熱くなるのを感じたから急いでうつむいた。
「才原は、色が白いから赤くなるとすぐわかる。うつむいても隠せてねぇし」
「あー…、バレてるのか。いつもは、こんなに顔が熱くならないはずなんだけど。高篠の前だといろいろ調子が狂うな」
「レアなかわいい表情をたくさん見られて、ラッキーってことか」
「かわいくないから!…かわいいと言えば、チカちゃんだ。由良川が毎回かわいい、かわいいって話していたから、どんな可憐な女子かと思いきや、知佳という名のガッチリな男子だった。びっくりだよ」
「ブッ!鮎登が可憐な女子?超腹痛ぇ!」
「惚れ込むと、野獣が美女に見えるんだな…」
例えがまたツボにヒットしたようで、高條が腹を抱えて笑い出した。つられて笑うのもお決まりのパターンになってきた。
「そんなのイメージしていて、現物を見たらそりゃ驚くな。俺が驚いたのは、鮎登が俺にアタックしそうになっているっつう由良川の妄想にだが」
「やっぱり。…妄想であってるんだよな?高篠が男にも言い寄られそうなのは、わかる気がするけど」
「ブッ、わかる気ってなんだ。あいつの妄想だって。そんなやつ、まわりにいねぇし」
由良川曰く、天然タラシ野郎だから、高條自身は気づいていない可能性は高い。
現に少し会っただけの俺が、これだけの好印象を抱くのだから、度を越した思い込みと勘違いがベースにあっても、由良川の言うことはあながち間違っていないようにも思えた。起きている高篠に会ってタラシこまれても知らない、というのもまた然りだ。
「高條、おまえは罪作りな男だな。天然って怖い」
「ブッ、突然の罪人認定!天然は、才原だろ。真顔で笑えることを連発するし」
「思ったことを口に出してるだけだよ。半日なのに、高篠のすごさを思い知らされた。俺の中のイイ男ランキング1位にこの短時間で躍り出たよ」
「ブッ、そんなランキングを付けてんのか?」
「今、思いついたから言ってみた」
高篠が声を出さずに笑い転げている。そこまで笑うほどのことか?首をひねりながらも、その様子に口角が上がる。
「その仕草で少しだけ笑うってかわいい」
「かわいくないから!由良川の口癖がうつったんじゃないのか?気安くかわいいって言わない方がいいと思う。高篠の場合は、誤解を招くよ」
「俺も、思ったことを口に出しているだけだし。誤解を招く?」
「口説かれてるって、相手に思わせることだよ。何とも思ってないやつから迫られて困ったとしても、それは高篠の自業自得だから」
「才原は今、口説かれていると思った?」
「…ちょっと思った」
顔が熱くなってうつむきながら答えると、「かわいい」とまた言われた。だから、それが罪作りだって教えてやっているのに…。恋愛経験がまったくない俺を、からかうのはやめて欲しい。
「…18年だって」
「何が?」
「由良川の片想い歴。騒がしくて気が多そうなのに、チカちゃん一筋なんだよ、あいつ」
「物心ついた頃から想ってんだな…」
「由良川に、チカちゃんのことを聞かされる度に、さっさっと告れよって思っていたし、それを口にも出してた。でも、酒が入って感情的になっていたとは言え、あれだけの想いを吐き出す由良川を見て、出しゃばるんじゃなかったって後悔してるよ。あいつのペースで告らせてやればよかった」
「由良川が自ら選んで、才原を聞き手にしていたんだ。それも一度じゃないんだろ?おまえに背中を押して欲しいって、心のどっかで思い続けていたんじゃねぇ?それにもう告っちまったんだし、その後の話をまた聞いてやればいい。きっと、聞いてくれ!って言ってくんだろ」
「そうだな…。ありがとう」
高條の言葉は、俺の中にスーッと入ってきて馴染む。積年の想いを煽るような形で、由良川に吐露させてしまったことは今も申し訳ないと思っているけど、そう言われて心が幾分か軽くなった。
「由良川の想いがあそこまでとは、予想以上だった。男同士だろって茶化すどころか、あれだけ想えるってすげぇーなって、純粋に思った」
「それは俺も同じ。そこまで人を想ったことがないから」
「…才原のこともすげぇと思った。由良川のしょうもねぇ計画に巻き込まれて、言いたいこともあっただろうに、口を挟まないで聞いていただろ。そうじゃないって否定したのは、あいつの鮎登への想いだけだった。誤魔化すべきじゃねぇところを、はっきり言わせようとしただけで、俺からは出しゃばっているようには見えなかった」
「俺は、高條の方がすごいと思う。とんだとばっちりで被害しか受けてないのに、何も言わずに聞いてたじゃん」
「呆れて物が言えないってのもあったが、才原に会えたからもういいと思って。それにネタだし、ネタ!」
ニカッと笑う高篠につられて俺も笑ってしまったけど、褒め合っていることに気づき、顔が熱くなるのを感じたから急いでうつむいた。
「才原は、色が白いから赤くなるとすぐわかる。うつむいても隠せてねぇし」
「あー…、バレてるのか。いつもは、こんなに顔が熱くならないはずなんだけど。高篠の前だといろいろ調子が狂うな」
「レアなかわいい表情をたくさん見られて、ラッキーってことか」
「かわいくないから!…かわいいと言えば、チカちゃんだ。由良川が毎回かわいい、かわいいって話していたから、どんな可憐な女子かと思いきや、知佳という名のガッチリな男子だった。びっくりだよ」
「ブッ!鮎登が可憐な女子?超腹痛ぇ!」
「惚れ込むと、野獣が美女に見えるんだな…」
例えがまたツボにヒットしたようで、高條が腹を抱えて笑い出した。つられて笑うのもお決まりのパターンになってきた。
「そんなのイメージしていて、現物を見たらそりゃ驚くな。俺が驚いたのは、鮎登が俺にアタックしそうになっているっつう由良川の妄想にだが」
「やっぱり。…妄想であってるんだよな?高篠が男にも言い寄られそうなのは、わかる気がするけど」
「ブッ、わかる気ってなんだ。あいつの妄想だって。そんなやつ、まわりにいねぇし」
由良川曰く、天然タラシ野郎だから、高條自身は気づいていない可能性は高い。
現に少し会っただけの俺が、これだけの好印象を抱くのだから、度を越した思い込みと勘違いがベースにあっても、由良川の言うことはあながち間違っていないようにも思えた。起きている高篠に会ってタラシこまれても知らない、というのもまた然りだ。
「高條、おまえは罪作りな男だな。天然って怖い」
「ブッ、突然の罪人認定!天然は、才原だろ。真顔で笑えることを連発するし」
「思ったことを口に出してるだけだよ。半日なのに、高篠のすごさを思い知らされた。俺の中のイイ男ランキング1位にこの短時間で躍り出たよ」
「ブッ、そんなランキングを付けてんのか?」
「今、思いついたから言ってみた」
高篠が声を出さずに笑い転げている。そこまで笑うほどのことか?首をひねりながらも、その様子に口角が上がる。
「その仕草で少しだけ笑うってかわいい」
「かわいくないから!由良川の口癖がうつったんじゃないのか?気安くかわいいって言わない方がいいと思う。高篠の場合は、誤解を招くよ」
「俺も、思ったことを口に出しているだけだし。誤解を招く?」
「口説かれてるって、相手に思わせることだよ。何とも思ってないやつから迫られて困ったとしても、それは高篠の自業自得だから」
「才原は今、口説かれていると思った?」
「…ちょっと思った」
顔が熱くなってうつむきながら答えると、「かわいい」とまた言われた。だから、それが罪作りだって教えてやっているのに…。恋愛経験がまったくない俺を、からかうのはやめて欲しい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる