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約束をさせる高篠と、約束を守る才原
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「そんな顔すんなよ、才原。誤解を招きそうなことは、口に出さないよう心がけている。普段はかわいいとか気軽に言わねぇし、使う相手は見極めているつもりだ」
「自覚があるならいいけど、気をつけろよ。高條にも相手にもいいことないから」
顔は熱いままだったけど、なじるような視線を高條に送れば、ニカッと笑いながらそう返された。
「わかってるって。才原がかわいいのは本当だし、おまえにだから使うんだ。」
「…かわいくないから、使わなくていいよ」
とてつもなく端正な笑顔で、何度もかわいいと言われ、俺にだから使うと付け足されたら、これまで感じたことがない種類の情が湧いてきて、ますます顔が熱くなった。
男相手にこんな気持ちになっていいのか?と思ったけど、この歳でかわいいなんて異性にだって言われたことがないので、性別の違いは比べようがなかった。なんとなく、高篠に言われたからだと思わなくもなかったが、そこは気づかないふりをした。
「顔から首まで、ゆでダコみてぇに真っ赤だ」
「ムグッ!…急になんだよ」
「どんな表情してんのかと思って。それにしても、才原のほっぺたは女子並みに柔らけぇな」
高條に、親指と人差し指で挟むようにして両頬を摘まれ、うつむいていた顔を上げた。指圧されて頬が凹み、唇がムニュッとくちばしのごとく突き出したマヌケ面を晒す羽目になった。すぐに手を離されたから不快感はなく、高條のコメントに自分の頬をふにふにと触ってみた。
「へー?ほー?…ウーン、大したことないな」
「ブッ!大したことねぇって、なんだそりゃ」
「女子のほっぺたってもっと柔らかいもんだと勝手に想像していたけど、こんなもんかと思ってさ。彼女がいたことないし、そんな機会もなかったから」
「そういうことか。…また触っていい?」
「別にいいけど、高篠なら女子の触りたい放題じゃん…」
「そんなことねぇし」
上半身だけ向き合うと、頬が高篠の両手に包まれる。肌触りを楽しむように、やさしく撫でられたり、摘まれたりするのを目を伏せて受け入れていたけど、だんだんと恥ずかしくなってきた。またゆでダコみたいな色になっていると思う。
「…もういいだろ?」
「まだもう少し。この感触はやみつきになる」
「女子のを触れよ。不自由してないクセに…」
「いや、才原のがいい」
向ける相手を間違えているんじゃないか?と、疑うレベルのとろけた笑顔で言われて、一瞬、呼吸することを忘れた。由良川にバレたら笑われるだろうけど、これはもうタラシこまれたと認めるしかなかった。俺は、自分で思うよりずっとずっとチョロかった。
どんなリアクションをすればいいのかわからないし、ちょっと迷ったけど、高篠の両手はそのままに、話題を変えることにした。
「明日のバイト、由良川と同じシフトなんだ。チカちゃんとうまくいってたら、バイト後に奢らされるかも」
「えっ、逆じゃねぇ?結果はどうであれ、そこは由良川が奢るべきだろ」
「俺はもう見返りを得たんだ。あいつが奢るべき相手は高條だよ」
「それって割に合った見返りだったのか?俺と一緒に奢られても、才原はまだ足りねぇ位だろ。由良川に誘われたら俺に連絡するって約束な?」
高篠を直視できなくて、また目を伏せて話していると、顔をそっと持ち上げられた。数センチの距離にさっきと同じ高條の笑顔があった。見惚れてポヤーッとしているうちに、「返事は?」と促され、反射的に「うん」と答えてしまった。
それから、最寄の駅まで歩いてそこで高篠と別れた。アパートに帰ってからも、しばらくぼんやりしてしまう程に内容の濃い半日だった。
翌日、バイト先に到着すると、由良川が翔ぶようにして駆け寄ってきた。
「才原、バイトが終わったら話を聞いてくれ!」
「いいけど、そこに高篠を呼んでも構わないか?」
「構わんよ!じゃあ、後でな!」
「おう」
由良川の表情からは、うまくいったともいってないとも判断がつかなかった。暗い雰囲気ではなかったから、うまくいったのか?そうであるなら、喜びを爆発させて落ち着かない素振りを見せるかと思っていたので、いつもと変わらない様子に肩透かしを食らった感じがした。
由良川に誘われたことと、バイトが終わるおおよその時間、バイト先から近いファミレスの場所を高條宛に送ると、すぐに既読がついて「了解」と、短いメッセージが入った。バイト先はどちらかと言えば、俺が通う大学より高條達が通う大学の方が近いから、そのファミレスは心得たもんだろう。
「高篠はいつ来るって?」
「了解って入ってたから、じきに来ると思う」
バイトが終わり、いつもと同じファミレスに移動した。四人掛けの席に由良川と対面で座り、ぱらぱらとメニューを眺めていると、高篠が颯爽と現れて俺の隣に腰を下ろした。
「わりぃ。待たせた」
「俺達もついさっき来たところ。高篠は何食べる?」
「そうだな…。バイトは忙しかった?」
「まあ、そこそこ。…なんだよ」
「やみつきになるって言っただろ」
笑顔の高篠に、片方の頬を指で突っつかれて、じわじわと顔が熱くなった。嫌じゃないのが余計に恥ずかしい。むしろ、もっと触って欲しくてそっちへ顔を向けると、高篠が両手で俺の両方の頬を弄ってきた。
「もしもーし!俺の存在は完全に無視か?ガン無視か?いきなりイチャつき始めやがって!知らぬ間に、どんだけ仲良くなってんだって感じだわ~!おまえらは、俺の話を聞きに来たんだろ!?」
由良川の怒声を聞いて我に返った。そうだった。顔を熱くしながら、うっとりとしている場合じゃなかった。
「自覚があるならいいけど、気をつけろよ。高條にも相手にもいいことないから」
顔は熱いままだったけど、なじるような視線を高條に送れば、ニカッと笑いながらそう返された。
「わかってるって。才原がかわいいのは本当だし、おまえにだから使うんだ。」
「…かわいくないから、使わなくていいよ」
とてつもなく端正な笑顔で、何度もかわいいと言われ、俺にだから使うと付け足されたら、これまで感じたことがない種類の情が湧いてきて、ますます顔が熱くなった。
男相手にこんな気持ちになっていいのか?と思ったけど、この歳でかわいいなんて異性にだって言われたことがないので、性別の違いは比べようがなかった。なんとなく、高篠に言われたからだと思わなくもなかったが、そこは気づかないふりをした。
「顔から首まで、ゆでダコみてぇに真っ赤だ」
「ムグッ!…急になんだよ」
「どんな表情してんのかと思って。それにしても、才原のほっぺたは女子並みに柔らけぇな」
高條に、親指と人差し指で挟むようにして両頬を摘まれ、うつむいていた顔を上げた。指圧されて頬が凹み、唇がムニュッとくちばしのごとく突き出したマヌケ面を晒す羽目になった。すぐに手を離されたから不快感はなく、高條のコメントに自分の頬をふにふにと触ってみた。
「へー?ほー?…ウーン、大したことないな」
「ブッ!大したことねぇって、なんだそりゃ」
「女子のほっぺたってもっと柔らかいもんだと勝手に想像していたけど、こんなもんかと思ってさ。彼女がいたことないし、そんな機会もなかったから」
「そういうことか。…また触っていい?」
「別にいいけど、高篠なら女子の触りたい放題じゃん…」
「そんなことねぇし」
上半身だけ向き合うと、頬が高篠の両手に包まれる。肌触りを楽しむように、やさしく撫でられたり、摘まれたりするのを目を伏せて受け入れていたけど、だんだんと恥ずかしくなってきた。またゆでダコみたいな色になっていると思う。
「…もういいだろ?」
「まだもう少し。この感触はやみつきになる」
「女子のを触れよ。不自由してないクセに…」
「いや、才原のがいい」
向ける相手を間違えているんじゃないか?と、疑うレベルのとろけた笑顔で言われて、一瞬、呼吸することを忘れた。由良川にバレたら笑われるだろうけど、これはもうタラシこまれたと認めるしかなかった。俺は、自分で思うよりずっとずっとチョロかった。
どんなリアクションをすればいいのかわからないし、ちょっと迷ったけど、高篠の両手はそのままに、話題を変えることにした。
「明日のバイト、由良川と同じシフトなんだ。チカちゃんとうまくいってたら、バイト後に奢らされるかも」
「えっ、逆じゃねぇ?結果はどうであれ、そこは由良川が奢るべきだろ」
「俺はもう見返りを得たんだ。あいつが奢るべき相手は高條だよ」
「それって割に合った見返りだったのか?俺と一緒に奢られても、才原はまだ足りねぇ位だろ。由良川に誘われたら俺に連絡するって約束な?」
高篠を直視できなくて、また目を伏せて話していると、顔をそっと持ち上げられた。数センチの距離にさっきと同じ高條の笑顔があった。見惚れてポヤーッとしているうちに、「返事は?」と促され、反射的に「うん」と答えてしまった。
それから、最寄の駅まで歩いてそこで高篠と別れた。アパートに帰ってからも、しばらくぼんやりしてしまう程に内容の濃い半日だった。
翌日、バイト先に到着すると、由良川が翔ぶようにして駆け寄ってきた。
「才原、バイトが終わったら話を聞いてくれ!」
「いいけど、そこに高篠を呼んでも構わないか?」
「構わんよ!じゃあ、後でな!」
「おう」
由良川の表情からは、うまくいったともいってないとも判断がつかなかった。暗い雰囲気ではなかったから、うまくいったのか?そうであるなら、喜びを爆発させて落ち着かない素振りを見せるかと思っていたので、いつもと変わらない様子に肩透かしを食らった感じがした。
由良川に誘われたことと、バイトが終わるおおよその時間、バイト先から近いファミレスの場所を高條宛に送ると、すぐに既読がついて「了解」と、短いメッセージが入った。バイト先はどちらかと言えば、俺が通う大学より高條達が通う大学の方が近いから、そのファミレスは心得たもんだろう。
「高篠はいつ来るって?」
「了解って入ってたから、じきに来ると思う」
バイトが終わり、いつもと同じファミレスに移動した。四人掛けの席に由良川と対面で座り、ぱらぱらとメニューを眺めていると、高篠が颯爽と現れて俺の隣に腰を下ろした。
「わりぃ。待たせた」
「俺達もついさっき来たところ。高篠は何食べる?」
「そうだな…。バイトは忙しかった?」
「まあ、そこそこ。…なんだよ」
「やみつきになるって言っただろ」
笑顔の高篠に、片方の頬を指で突っつかれて、じわじわと顔が熱くなった。嫌じゃないのが余計に恥ずかしい。むしろ、もっと触って欲しくてそっちへ顔を向けると、高篠が両手で俺の両方の頬を弄ってきた。
「もしもーし!俺の存在は完全に無視か?ガン無視か?いきなりイチャつき始めやがって!知らぬ間に、どんだけ仲良くなってんだって感じだわ~!おまえらは、俺の話を聞きに来たんだろ!?」
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