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一章 四人の勇者と血の魔王
第37話 決裂前提で挑む交渉なんてのはいらないから殴る準備だけしてこよう
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─────賢者の小屋から少し離れ、赤刃山脈の尖った岩の、比較的高めでそんなに尖ってない所。
《拙が斬ろう》
声のみが響き、1秒後……岩は切断され、平となった断面が夕日に照らされる。
「(刃の野郎のトゲトゲ、もういっそのこと全部君が切っちゃってよ。景観が良くない)」
《赤刃山脈の個性が無くなるのは賛成出来ない。それに先人の偉業は適度に称え、適度に忘れるのが吉と言うものだろう》
次元魔法でテーブルを取り出し、全員が腰を下ろす。
「(んで、材料揃えてきたか?)」
《勿論。それなりに良さげなものを各地で仕入れてきた》
米や酢、何匹かの魚介が並ぶ。
「(よっし!まず米を炊く。これしないと始まんねーからな)」
流浪者は言いながら次元の穴を開き────人間の頭より二回りほど大きい魔導具を取り出した。
【それは?】
「(剣ちゃんからの贈り物でね。1000年経っても破損無しの高級品魔導具。『炊飯器』って言う)」
【そんな事もあったな。だがアレは贈り物と言うか、ほとんど奪い取るような形ではなかったか?】
「(いいのいいの。アイツの事だ、どうせこんな魔導具なんか山のように作れてたんだし)」
炊飯器の中に米を入れ、水魔法を指先から放つ。十数秒ほど指で洗った後、ザルに開けて研ぎ汁を赤刃山脈の空中に適当に捨てる。
「(これを数回繰り返して────)」
炊飯器の蓋を閉じ、ボタンを押す。
「(少し硬めに炊く)」
《む……この表記からして、1時間近く待たなければいけないのか?》
【悠久の時を生き、食事を必要としない吾らにとってはそれくらいどうと言う事は無いだろう?】
《それはそうだが……》
「(じゃあそもそも食うなよ引きこもりキモ触手。安心しな……よっと)」
魔力が炊飯器に放たれる。空間が歪むようなモヤが炊飯器を纏い─────それが消えた時、ピーッという音が数回繰り返された。
「(既に炊いておいたモノがこちらになります。今回はこちらを使用していきましょう)」
《おぉ!素晴らしい!!》
【時間魔法を使ったな?あまり乱用して良い代物では……】
「(いいのいいの。後輩には優しくしないとね)」
蓋を開けた途端、むわっとした蒸気が3つの災害を包み込む。
「(もうこの時点で美味そうだけど……今回は寿司だからね、酢飯にしていこう)」
酢に醤油、砂糖を混ぜたものを米にかけ、空気と共に混ぜる。
《おぉ、香りが立ってきたぞ》
「(さて、ここからはネタの準備に入りますが……)」
下方を覗くようにして、流浪者は微笑んだ。
「(そろそろ頃合いだ。まずはマジストロイ君の初陣を見せてもらおうじゃないか)」
ー ー ー ー ー ー ー
(────今、ママロを起こす事は可能)
どういう訳か夢の聖剣を使用出来ているナイズならば、その力を行使して彼女を夢から覚めさせられる。
(だが問題は目覚めた瞬間、すぐ魔王を倒す為に協力してくれるかどうか。ママロの友人である魔女を殺した俺は勿論、よく分からない勘違いのせいで賢者『創起のサヴェル』と『鬼神再来』のゴルガスをも敵視しているようだった)
勇者は魔王への特効薬。災害を否定しうる唯一の存在。起こせば強力な手札だが─────協力してくれない、敵になるのであれば最悪の事態。だからと言って勇者無しの3人で勝てるほど魔王は甘くない。
(選択を誤ったか……いやしかし、ママロは一度冷静になる必要があった。それに俺の素性を打ち明けるのは『全てが終わった時』がベスト……仕方なかった)
思考を回転。行動の最適化を図る。
(夢の聖剣の幻覚能力で魔王に先制攻撃を放ち、【逆夢】が維持出来る間に逃げるか……不可能と推測、勇者不在時の弊剣の出力は【統率者】に影響を及ぼすには不十分)
冷や汗が垂れる。腕の中の少女の寝息のみが彼を安心させる存在となっていた。
そして─────魔王に動きが見えた。
「……?」
サヴェルは警戒し、障壁を二重に張ろうとするが……魔王の行動に魔力の関与は見られなかった。
剣を地面に突き立て、サヴェル達を見上げたマジストロイは両手を頭の上に上げる。
─────バンザイのポーズで、自身の無害さをアピールしているかのようだった。
「まずは!話さないかー!」
そして勘違いでは無かった。上空まで聞こえるように腹から声を出す事を意識して、魔王が叫ぶ。
『罠』─────3人は即座にそう考えただろう。
「行くしかないのだ、この状況は」
重々しく口を開いたゴルガスに、2人は頷く。
罠であろうとなんだろうと──────相手が平和を望む可能性があるのなら、それを否定する事は許されない。
ゆっくりと地上に着地した3人にマジストロイは近づく事なく、だが地に刺した剣から離れた場所で両腕を下ろした。
「応じてくれた事に感謝する」
「いえ、平和的解決はこちらの悲願ですので」
「……そうか」
咳払いの後、名乗りを上げた。
「余はマジストロイ・アスタグネーテ、魔王だ」
「サヴェル・アネストフールです」
「ゴルガス・ベオグレンと言う」
「ナイズ・メモリアル」
マジストロイが一人ずつの顔と名前を一致させようと、まじまじと見つけていた時……巨躯の男の目を覗き、視線が止まる。
「……ベオグレン、だと?」
「お、俺に何か……?」
「いや、失礼。少しその名に聞き覚えがあったものでな」
災害という『圧』を以前として放ちながら、マジストロイは続ける。
「本題に入る前に。……その、余の部下であるマリナメレフについてだが……」
「……彼女なら死んでいませんよ。私が捕縛魔法を解除したのが今日の朝。その時にはまだ反応がありました」
「そうか。……感謝する」
気まずい空気が横切り、再び咳払いをする。
「時間は有限だ、単刀直入に言おう。貴様らに余の『要求』を受け入れて欲しい」
「……要求?」
「承諾してくれるのなら……余は魔王の座をレナ殿に返還し、魔界の閉鎖と魔物の排出を止める」
「なっ────」
それは事実上の『終戦』。魔王にレナ・ブレイヴ・ラグナフォートが再就任する事は誰もが……正確にはレナ本人以外の誰もが望んでいる。
平和が戻ってくる。人と魔の隔てが消える。
「その要求とは……何ですか?」
サヴェルは息を飲んで口を開いた。その要求が達成される事はつまり、今までの戦いの理由、目的がそれに詰まっている。
「聖剣だ」
手を開き、天の向けながら魔王は呟く。
「岩、雷、黒、夢の聖剣の譲渡だ」
「─────馬鹿げてる」
飲んだ息をため息にし、サヴェルが唾を飛ばす。
「その4本を手に入れたとして何になる?正式な勇者以外には扱えやしない!そんな事も知らないで……こんな事のために戦争を?人族と魔族の平穏を……!」
「……」
悩んだように口に手を当てた魔王は、不安定な眼差しで3人を見渡す。
「理由を、話したい……と思う。余が聖剣を求める理由だ」
「!」
「だがこれは余の部下にも話していない……出来れば話すのは勇者達だけにしたかった」
「西の勇者はあなたの部下が遠くに吹っ飛ばしました」
「南の勇者はすまないが今は寝ている」
「うぐ……そうだな、話すしかないか─────いや、待て。貴様が南の勇者ではないのか?」
魔女を抱えるナイズの片手には夢の聖剣が握られている。
「そんな事よりも話すべき事が別にあるだろう?」
不器用な微笑みの後、マジストロイが不可解そうに口を開いた。
「余の目的は─────全ての『災害』の抹殺」
「……災害、だと」
「達成するには歴史上唯一災害を殺害出来た『聖剣』という存在が不可欠だ。……そして当時の状況……初代勇者のように出来るだけ多くの聖剣を携える必要がある」
全12本の聖剣。【剣の勇者】という異名を持つ彼は─────同時に12本を操っていたと言う。
「災害であるあなたが、他の災害を倒すと?……信用出来るわけがない」
「……」
「サヴェル殿の言う通り、これは信用の問題だ。例え平和が本当に訪れたとしても、魔王が現れた時の対抗策である四聖剣が失われてしまったとなると……人族に敵対する魔王が現れた時、今まで眠っている聖剣が目を覚ましてくれるとは限らない。リスクが高すぎる」
淡々とナイズは問題点を告げ、握った聖剣を握りしめる。
「分かっている。……分かっているさ」
「それでも成し遂げたいと言うのだな?災害の抹殺を」
「……世界が今まで存続していたのは奴らの気まぐれに過ぎない。軽はずみで世界を滅ぼせる存在が六つ、嘲笑っている。誰かがやらなければいけない……誰かが立ち上がらなければいけない……誰かが負わなければいけない責務だ」
3人は感じてしまっていた。マジストロイという男の信念、生きている理由すらそこにあると─────。
「……ですが。それでも────賢者としてその要求には反対します」
「────そうか」
俯いた魔王の角はどこか頼りなく、彼の今の感情を表しているようだった。
─────乾いた風が吹き抜ける。
「この戦争の目的は聖剣を手に入れる事」
マジストロイは顔面を両手で覆う。
「四人の勇者を誘き寄せる事」
「ッ!」
「そしてその後─────聖剣を強奪する事」
顔を上げた彼は既に、3人の人間の敵対者だった。
「やはり、こうなってしまうか。だが─────殺しはしない。目的は聖剣だ」
「交渉決裂、か」
ママロを地面に置き、ナイズは剣を魔王に向ける。
「っ、ちょっと待ってください!本当に─────」
ここで魔王と戦うのか?
勇者無しというあまりにも絶望的な状況。だが……止める事も逃げる事も不可能にしか見えない。
「覚悟を決めるのだ、サヴェルくん」
「……私は分かっていますよ、それくらい。そうすべきだって事は……!」
乾いた風は止む。立ちこめた緊迫した空気をナイズは引き裂いた。
「魔族特有の魔法耐性とコンビネーションの関係上、サヴェル殿には支援に回ってもらいたい。俺とゴルガス殿で近接戦闘をする……ついでにママロに被害が及ばないようにしてやって欲しい」
「ちょ、何勝手に────」
「そして最後に……」
ゴルガスに目線を送り、タイミングを図る。二人は左右に開き────災害へと向かって行く。
「あの地面に刺さった剣を取られたら終わりだ─────!」
ナイズは目の前の魔王よりも、少し離れた位置にある錆びついた剣に、鼓動を激しくさせていた……。
ーーーーーーーーー
名称が明らかになった聖剣一覧
・岩の聖剣
・雷の聖剣
・黒の聖剣
・夢の聖剣
・白の聖剣
・葬の聖剣
・楔の聖剣
全12本の内、判明していない聖剣は5本。しかし12本全てを集めたとしても、その力を扱えなければ意味はありません。マジストロイは何の根拠を持って災害の殺害を企んでいるのでしょうか?
《拙が斬ろう》
声のみが響き、1秒後……岩は切断され、平となった断面が夕日に照らされる。
「(刃の野郎のトゲトゲ、もういっそのこと全部君が切っちゃってよ。景観が良くない)」
《赤刃山脈の個性が無くなるのは賛成出来ない。それに先人の偉業は適度に称え、適度に忘れるのが吉と言うものだろう》
次元魔法でテーブルを取り出し、全員が腰を下ろす。
「(んで、材料揃えてきたか?)」
《勿論。それなりに良さげなものを各地で仕入れてきた》
米や酢、何匹かの魚介が並ぶ。
「(よっし!まず米を炊く。これしないと始まんねーからな)」
流浪者は言いながら次元の穴を開き────人間の頭より二回りほど大きい魔導具を取り出した。
【それは?】
「(剣ちゃんからの贈り物でね。1000年経っても破損無しの高級品魔導具。『炊飯器』って言う)」
【そんな事もあったな。だがアレは贈り物と言うか、ほとんど奪い取るような形ではなかったか?】
「(いいのいいの。アイツの事だ、どうせこんな魔導具なんか山のように作れてたんだし)」
炊飯器の中に米を入れ、水魔法を指先から放つ。十数秒ほど指で洗った後、ザルに開けて研ぎ汁を赤刃山脈の空中に適当に捨てる。
「(これを数回繰り返して────)」
炊飯器の蓋を閉じ、ボタンを押す。
「(少し硬めに炊く)」
《む……この表記からして、1時間近く待たなければいけないのか?》
【悠久の時を生き、食事を必要としない吾らにとってはそれくらいどうと言う事は無いだろう?】
《それはそうだが……》
「(じゃあそもそも食うなよ引きこもりキモ触手。安心しな……よっと)」
魔力が炊飯器に放たれる。空間が歪むようなモヤが炊飯器を纏い─────それが消えた時、ピーッという音が数回繰り返された。
「(既に炊いておいたモノがこちらになります。今回はこちらを使用していきましょう)」
《おぉ!素晴らしい!!》
【時間魔法を使ったな?あまり乱用して良い代物では……】
「(いいのいいの。後輩には優しくしないとね)」
蓋を開けた途端、むわっとした蒸気が3つの災害を包み込む。
「(もうこの時点で美味そうだけど……今回は寿司だからね、酢飯にしていこう)」
酢に醤油、砂糖を混ぜたものを米にかけ、空気と共に混ぜる。
《おぉ、香りが立ってきたぞ》
「(さて、ここからはネタの準備に入りますが……)」
下方を覗くようにして、流浪者は微笑んだ。
「(そろそろ頃合いだ。まずはマジストロイ君の初陣を見せてもらおうじゃないか)」
ー ー ー ー ー ー ー
(────今、ママロを起こす事は可能)
どういう訳か夢の聖剣を使用出来ているナイズならば、その力を行使して彼女を夢から覚めさせられる。
(だが問題は目覚めた瞬間、すぐ魔王を倒す為に協力してくれるかどうか。ママロの友人である魔女を殺した俺は勿論、よく分からない勘違いのせいで賢者『創起のサヴェル』と『鬼神再来』のゴルガスをも敵視しているようだった)
勇者は魔王への特効薬。災害を否定しうる唯一の存在。起こせば強力な手札だが─────協力してくれない、敵になるのであれば最悪の事態。だからと言って勇者無しの3人で勝てるほど魔王は甘くない。
(選択を誤ったか……いやしかし、ママロは一度冷静になる必要があった。それに俺の素性を打ち明けるのは『全てが終わった時』がベスト……仕方なかった)
思考を回転。行動の最適化を図る。
(夢の聖剣の幻覚能力で魔王に先制攻撃を放ち、【逆夢】が維持出来る間に逃げるか……不可能と推測、勇者不在時の弊剣の出力は【統率者】に影響を及ぼすには不十分)
冷や汗が垂れる。腕の中の少女の寝息のみが彼を安心させる存在となっていた。
そして─────魔王に動きが見えた。
「……?」
サヴェルは警戒し、障壁を二重に張ろうとするが……魔王の行動に魔力の関与は見られなかった。
剣を地面に突き立て、サヴェル達を見上げたマジストロイは両手を頭の上に上げる。
─────バンザイのポーズで、自身の無害さをアピールしているかのようだった。
「まずは!話さないかー!」
そして勘違いでは無かった。上空まで聞こえるように腹から声を出す事を意識して、魔王が叫ぶ。
『罠』─────3人は即座にそう考えただろう。
「行くしかないのだ、この状況は」
重々しく口を開いたゴルガスに、2人は頷く。
罠であろうとなんだろうと──────相手が平和を望む可能性があるのなら、それを否定する事は許されない。
ゆっくりと地上に着地した3人にマジストロイは近づく事なく、だが地に刺した剣から離れた場所で両腕を下ろした。
「応じてくれた事に感謝する」
「いえ、平和的解決はこちらの悲願ですので」
「……そうか」
咳払いの後、名乗りを上げた。
「余はマジストロイ・アスタグネーテ、魔王だ」
「サヴェル・アネストフールです」
「ゴルガス・ベオグレンと言う」
「ナイズ・メモリアル」
マジストロイが一人ずつの顔と名前を一致させようと、まじまじと見つけていた時……巨躯の男の目を覗き、視線が止まる。
「……ベオグレン、だと?」
「お、俺に何か……?」
「いや、失礼。少しその名に聞き覚えがあったものでな」
災害という『圧』を以前として放ちながら、マジストロイは続ける。
「本題に入る前に。……その、余の部下であるマリナメレフについてだが……」
「……彼女なら死んでいませんよ。私が捕縛魔法を解除したのが今日の朝。その時にはまだ反応がありました」
「そうか。……感謝する」
気まずい空気が横切り、再び咳払いをする。
「時間は有限だ、単刀直入に言おう。貴様らに余の『要求』を受け入れて欲しい」
「……要求?」
「承諾してくれるのなら……余は魔王の座をレナ殿に返還し、魔界の閉鎖と魔物の排出を止める」
「なっ────」
それは事実上の『終戦』。魔王にレナ・ブレイヴ・ラグナフォートが再就任する事は誰もが……正確にはレナ本人以外の誰もが望んでいる。
平和が戻ってくる。人と魔の隔てが消える。
「その要求とは……何ですか?」
サヴェルは息を飲んで口を開いた。その要求が達成される事はつまり、今までの戦いの理由、目的がそれに詰まっている。
「聖剣だ」
手を開き、天の向けながら魔王は呟く。
「岩、雷、黒、夢の聖剣の譲渡だ」
「─────馬鹿げてる」
飲んだ息をため息にし、サヴェルが唾を飛ばす。
「その4本を手に入れたとして何になる?正式な勇者以外には扱えやしない!そんな事も知らないで……こんな事のために戦争を?人族と魔族の平穏を……!」
「……」
悩んだように口に手を当てた魔王は、不安定な眼差しで3人を見渡す。
「理由を、話したい……と思う。余が聖剣を求める理由だ」
「!」
「だがこれは余の部下にも話していない……出来れば話すのは勇者達だけにしたかった」
「西の勇者はあなたの部下が遠くに吹っ飛ばしました」
「南の勇者はすまないが今は寝ている」
「うぐ……そうだな、話すしかないか─────いや、待て。貴様が南の勇者ではないのか?」
魔女を抱えるナイズの片手には夢の聖剣が握られている。
「そんな事よりも話すべき事が別にあるだろう?」
不器用な微笑みの後、マジストロイが不可解そうに口を開いた。
「余の目的は─────全ての『災害』の抹殺」
「……災害、だと」
「達成するには歴史上唯一災害を殺害出来た『聖剣』という存在が不可欠だ。……そして当時の状況……初代勇者のように出来るだけ多くの聖剣を携える必要がある」
全12本の聖剣。【剣の勇者】という異名を持つ彼は─────同時に12本を操っていたと言う。
「災害であるあなたが、他の災害を倒すと?……信用出来るわけがない」
「……」
「サヴェル殿の言う通り、これは信用の問題だ。例え平和が本当に訪れたとしても、魔王が現れた時の対抗策である四聖剣が失われてしまったとなると……人族に敵対する魔王が現れた時、今まで眠っている聖剣が目を覚ましてくれるとは限らない。リスクが高すぎる」
淡々とナイズは問題点を告げ、握った聖剣を握りしめる。
「分かっている。……分かっているさ」
「それでも成し遂げたいと言うのだな?災害の抹殺を」
「……世界が今まで存続していたのは奴らの気まぐれに過ぎない。軽はずみで世界を滅ぼせる存在が六つ、嘲笑っている。誰かがやらなければいけない……誰かが立ち上がらなければいけない……誰かが負わなければいけない責務だ」
3人は感じてしまっていた。マジストロイという男の信念、生きている理由すらそこにあると─────。
「……ですが。それでも────賢者としてその要求には反対します」
「────そうか」
俯いた魔王の角はどこか頼りなく、彼の今の感情を表しているようだった。
─────乾いた風が吹き抜ける。
「この戦争の目的は聖剣を手に入れる事」
マジストロイは顔面を両手で覆う。
「四人の勇者を誘き寄せる事」
「ッ!」
「そしてその後─────聖剣を強奪する事」
顔を上げた彼は既に、3人の人間の敵対者だった。
「やはり、こうなってしまうか。だが─────殺しはしない。目的は聖剣だ」
「交渉決裂、か」
ママロを地面に置き、ナイズは剣を魔王に向ける。
「っ、ちょっと待ってください!本当に─────」
ここで魔王と戦うのか?
勇者無しというあまりにも絶望的な状況。だが……止める事も逃げる事も不可能にしか見えない。
「覚悟を決めるのだ、サヴェルくん」
「……私は分かっていますよ、それくらい。そうすべきだって事は……!」
乾いた風は止む。立ちこめた緊迫した空気をナイズは引き裂いた。
「魔族特有の魔法耐性とコンビネーションの関係上、サヴェル殿には支援に回ってもらいたい。俺とゴルガス殿で近接戦闘をする……ついでにママロに被害が及ばないようにしてやって欲しい」
「ちょ、何勝手に────」
「そして最後に……」
ゴルガスに目線を送り、タイミングを図る。二人は左右に開き────災害へと向かって行く。
「あの地面に刺さった剣を取られたら終わりだ─────!」
ナイズは目の前の魔王よりも、少し離れた位置にある錆びついた剣に、鼓動を激しくさせていた……。
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名称が明らかになった聖剣一覧
・岩の聖剣
・雷の聖剣
・黒の聖剣
・夢の聖剣
・白の聖剣
・葬の聖剣
・楔の聖剣
全12本の内、判明していない聖剣は5本。しかし12本全てを集めたとしても、その力を扱えなければ意味はありません。マジストロイは何の根拠を持って災害の殺害を企んでいるのでしょうか?
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