どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!

枕崎 純之助

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第二章 『盗賊団のアジト』

第12話 炎上

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 俺の放った2発の灼熱鴉バーン・クロウ
 それは巨岩鬼ロックロプスの胸のバグを直撃し、頭のバグをかすめた。
 ほんの束の間、巨岩鬼ロックロプスの全身が揺らいだかと思うと、その体の中に溶け込んでいたはずのヒルダが押し出されるようにして飛び出して来やがったんだ。

「きゃっ!」

 ヒルダは地面に落下すると忌々いまいましげにこちらをにらみ付け、再び巨岩鬼ロックロプスの体に触れてそこから同化していく。
 今の現象は何だ?
 巨岩鬼ロックロプスの体が妙に不安定になったし、その体の中からヒルダの奴が意図いとせず押し出された。
 もしかして頭と胸のバグを同時につぶせば巨岩鬼ロックロプスは……。
 疑念を抱く俺の視界ではカウントダウンが続く。

天魔融合てんまゆうごうプログラム使用可能時間外残り3:45】

 ウダウダ考えているひまはねえ。
 とにかく時間がねえし、試してみるしかねえな。
 巨岩鬼ロックロプスが振り回す腕をかいくぐって俺は灼熱鴉バーン・クロウを再び頭と胸に連続して放つ。
 すると巨岩鬼ロックロプスは4本のうちの2本の腕で頭と胸の部分を守りやがった。
 ひじの部分がバグに揺らぐ腕はバラバラになるがすぐにまた再生される。

 やっぱりそういうことか。
 頭と胸を同時にやられるのを明らかに嫌がっている。

「ギガァァァァッ!」

 巨岩鬼ロックロプスは4本の腕と岩石散弾ロック・スパークを駆使して俺を寄せ付けまいとしやがる。
 先ほどまでとは異なり、怒りをあらわにするような感情的な攻撃だった。
 巨岩鬼ロックロプスを操るヒルダのあせりが伝わってくる。

 ヒルダはなぜ突然俺の身に修復術の力が備わったのか知らず、そしてそれが10 分間な時限式であることも知らない。
 それは俺の優位性アドバンテージだ。
 だが時間切れになってしまえばその優位性アドバンテージも失われる。
 そうなる前にケリをつけなきゃならんから、自然と俺の攻撃は急ぎ足になりがちだ。

 あせるな。
 俺は自分に言い聞かせた。
 攻撃をあせって手数を惜しめば相手にこっちの思惑おもわくが読まれる。
 俺は巨岩鬼ロックロプスに近付くための筋道すじみちを頭の中で組み立てた。
 そしてアイテム・ストックから一杯のバケツ缶を取り出す。

「チッ。俺もすっかりティナの奴に毒されちまったな」

 地獄の谷ヘル・バレーから天国の丘ヘヴンズ・ヒルへと越境する前に、ティナが色々と買い込んだアイテムを俺のアイテム・ストックに入れやがった。
 前回の経験を踏まえ、難局を乗り越えるためには雑多なアイテムを持っていたほうがいいという考えからだ。
 そのうちの一つを使う時が来た。

 俺はバケツ缶のふたがしっかり閉じているのを確認すると、数十リットルの容量があり両手で抱えるほど大きなそれを持った。
 そして羽を広げて宙を舞い、巨岩鬼ロックロプスが振り回す腕をかいくぐって急接近を試みる。
 途端とたん巨岩鬼ロックロプスの体がブルリと震えた。
 岩石散弾ロック・スパークが来る!
 その瞬間に俺はバケツを抱えたまま爪先つまさき巨岩鬼ロックロプスに向け、得意のスキルを繰り出した。

螺旋魔刃脚スクリュー・デビル・ブレード!」

 俺の体が激しく回転し始めると同時に、前方から無数の石礫いしつぶてが飛来する。
 回転する俺の体はそれらの多くを弾き飛ばすが、それでも手足や胴、頭にいくつかのつぶてを浴びてしまった。
 ぐっ!
 イッテェなぁ。
 ゴツゴツした石礫いしつぶてが体に当たってライフがけずり取られるが、俺はそれをこらえて一気に巨岩鬼ロックロプスの目の前に迫った。
 そこでスキルを解除する。

「これでも食らいな!」

 俺はバケツ缶を頭上に振り上げると、それを巨岩鬼ロックロプスの頭に思い切り投げつけた。
 ガツンという音が立ち、缶のふたがひしゃげて外れる。
 そして中から数十リットルの真っ白い液体がブチまけられて巨岩鬼ロックロプスの体をらした。
 途端とたんにツンとする薬液臭が辺りに広がる。

 俺はそこから一気に巨岩鬼ロックロプスの頭をねらうが、逆に巨岩鬼ロックロプスの首が突然伸びて、俺に頭突きを食らわしやがった。
 寸前で俺は灼焔鉄甲カグツチを交差させて直撃を防ぐが、強烈な勢いを止めきれずに吹っ飛ばされて天井に背中を打ち付けた。

「ごはッ!」

 強い衝撃に一瞬、息が詰まる。
 だが俺はすぐに空中で態勢を立て直し、巨岩鬼ロックロプスから少しばかり 距離を取って着地した。
 くそっ。
 さっきの岩石散弾ロック・スパークを食らったせいで体があちこち痛みやがるし、天井に背中を強打した衝撃で体が動かしにくい。

 俺は岩石散弾ロック・スパークを喰らった頭から目元に流れ落ちてくる血を手でぬぐう。
 こっちが受けたダメージは決して軽くないが、やるべきことはやってやった。
 見ろ。
 もう効果が出始めてきたぜ。

「ギギギギ……」

 俺を吹っ飛ばした首を元の長さに戻そうとする巨岩鬼ロックロプスだが、中途半端ちゅうとはんぱな長さでその動きが止まり、それ以上は元に戻らなくなった。
 さらに岩石が寄り集まって出来ているその体がぎこちなく動いてきしむ。
 動きにくそうだな。
 そりゃそうさ。

 俺がブッかけてやったのは速乾性の超強力な液状硬化接着剤だからな。
 岩石同士が接着されて体中がパリパリになり、伸縮性や柔軟性が失われる。
 動きにくいことこの上ないはずだ。
 しかもこいつはただの接着剤じゃねえぜ。

 前回の戦いで上級悪魔のディエゴをハメてやった神聖魔法や修復術を通す潤滑油じゅんかつゆのような役割を果たすよう、ティナが調合した特別製だ。
 もちろん悪魔の俺には神聖魔法なんざ無縁だが、今の俺には修復術の力が備わっている。
 しかもこの硬化剤は可燃性というオマケ付きだ。

「火ダルマになりやがれっ!」

 そう言って俺が連続で放った灼熱鴉バーン・クロウ巨岩鬼ロックロプスの体に着弾すると、その体が桃色の炎を噴き上げて激しく燃え上がった。
 巨岩鬼ロックロプスの体中に浸潤しんじゅんする硬化剤に引火したんだ。

「ギギャァァァァァッ!」

 それまでとは明らかに異なる苦痛の悲鳴を上げ、巨岩鬼ロックロプスが暴れ狂い始めた。
 桃色の炎が巨岩鬼ロックロプスの体中のバグを徐々に溶解していき、胸と頭のバグが激しく揺らぐ。
 そして4本の腕のうち、肩から新たに生えた2本が粉々にくだけ落ちて地面に積み重なる。
 燃えたことで接着剤の効果が消えたんだろう。
 途端とたんにヒルダの奴が巨岩鬼ロックロプスの体の中から泡食って飛び出してきやがった。

「そ、そこの悪魔を今すぐ刺し殺しなさい!」

 顔をすすで汚したヒルダが金切り声でそう叫ぶと、ティナ達を取り囲んでいた鬼蜂おにばちどもが俺に向かってくる。
 チッ!
 いいところで邪魔すんじゃねえよ。
 羽音をうならせて急接近してくる鬼蜂おにばちどもだったが、そこでパメラの声が響き渡った。

旋狼刃せんろうじん!」

 鬼蜂おにばちどもがこちらに向かってきたことで、周囲の囲いが薄くなったパメラが動きやすくなったんだろう。 
 地面と平行に繰り出された刃の竜巻たつまきが次々と鬼蜂おにばちどもを撃ち落とす。
 そしてパメラは疲労度が赤く染まりつつあるのも構わずに、そのまま高速でパメラに突っ込んでいく。
 その背中にはティナの奴がおぶさっていた。
 一気にヒルダを叩く気だ。

「ち、近付くな処刑人! 巨岩鬼ロックロプス!」
「ギギャアアアアッ!」

 ヒルダに命じられた巨岩鬼ロックロプスは全身を炎に包まれて半狂乱になりながら、足元に転がった2本の腕の残骸ざんがいである岩石の小山を蹴りつける。
 すると拳大の大きな岩石が次々とパメラに襲いかかった。
 やばい!
 突っ込んでくるパメラの速度からして避け切れねえ!
 だがパメラはまったく臆すことなくさやから白狼牙はくろうがを抜き放った。

裂狼刃れつろうじん!」

 そう言ってパメラが白狼牙はくろうがを横一閃させると、一瞬で空気の流れが変わった。
 まるで空気を裂くようなその斬撃は、飛んできた岩石を上下分断させて弾き飛ばした。
 初めて見るスキルだ。
 そのままパメラは突風のように駆け抜けて巨岩鬼ロックロプスに突っ込んでいく。
 手にした白狼牙はくろうがの刃が白く煌々こうこうかがやき出した。
 そして半身の姿勢で弓を引くように刀を構えると、猛烈な勢いで前方へ突き出す。

迅狼流星刃じんろうりゅうせいじん!」

 突き出した刀が巨岩鬼ロックロプスに触れるインパクトの瞬間は、あまりの速度に俺の目もパメラの姿を捉えられないほどだった。
 あいつ……ティナを背中に抱えているくせに何て速さだ。
 そしてその衝突の衝撃はすさまじく、小さな体のパメラの突きをのどに浴びた巨岩鬼ロックロプスの大きな体が吹っ飛ばされて、後方に仰向けに倒れた。

「ギガッ……」

 この一撃がこちらの攻勢を決定づけることになったんだ。
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