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第一話 僕と主任

二人きり

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 主任の後を歩いて向かった先は館内一階にある宴会場だった。白い扉は見た目は軽いが、実際は古びてて開けにくく閉めるときも力を込めないといけない代物だ。
 宴会場とはいうものの、こういった現状の為、お客さんをここにご案内することはない。ほとんど社内の会議か、特定の人の休憩場所に使われてるくらいだった。

「まぁ、とにかく座りな」
 誰かがお昼を食べた時に使ったと思われる座布団を指して主任は口にした。
 僕は静かに言われた通りに座布団の上に座り込む。主任も机を挟んだ向かいに座布団を引き寄せて座り込む。

「煙草、いい?」
 僕は黙って頷く。主任は懐から煙草の箱とライターを取り出す。箱から一本取り出して銜えると、火を点け長い指で挟みこんだ。
 一つ息をついて煙を吐き出すと、テーブルの上に置いたままの缶の中に灰を入れた。

「……主任」
 俺は主任の口元の先から揺れる煙を見つめながら静かに口にした。主任は黙ってこっちを見る。

「すみませんでした」
 これ以上長期戦に持っていくのはきつい。何かこちらから言わないと。

 頭を下げた為、主任がどんな顔をしているかが分からないけれど、怖くて顔を上げることが出来ない。

「……」
 主任も何も言わない。でも次の言葉が見つからないから、僕はこれ以上何も言えない。

 どれくらい経っただろうか。ギシッと畳が軋む音がした。

「本当にそう思っているんだったら」
 頭上で主任の声がして、顔を上げて見ればゆっくりと腰を上げていた。

「態度で示してもらおうか」
 どっかりとテーブルの上に腰掛けて、主任は言い放った。
 僕は呆然と主任の目を見つめた。そんな僕の反応を見た主任は不思議そうな顔をして、
「窓開いているが気になる?」

 僕の返事を待たずにカーテンを閉めに立ち上がる。全てのカーテンを閉めると、最後に入口の鍵を閉めて元の場所に戻り、再びテーブルの上に座り込む。

「ほら」
 微動だにしない僕を見て、主任はすぅっと目を細めた。

「……」
 その一言で僕は腰を上げた。ゆっくりと主任に近づく。主任の足元に跪き、そこで止まってしまった。

「ほら、早くしないと帰れないぞ」
 主任の顔を見れば不機嫌そうな声音とは裏腹に、目は楽しそうに笑っていた。

 その言葉を聞いた僕は主任に手を伸ばした。

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