異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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3章 ペンチャーワゴン〜Paint Your Wagon〜

32話 叡智の精霊?

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『我が名はガネーシャ……叡智の精霊』
「叡智の……精霊だと? 」

 三馬鹿その二を抱きしめて尻餅をついている黒衣のおねーさん。
 淡く白い光を漂わせながら無言でふわりと立つ女の子。
 その後ろで三馬鹿その一とその三を身体にまとわりつかせてあぐらをかいている俺……。

 ファンタジーとしては重要なシーンに差し掛かってるはずなのに……なにこのだらけた状況。

『これは我が手に入れたもの、手出しは許さぬ』

 これ? もの?

「許さぬだと? この闇の精霊女王に向かって無礼であろう、何者だ貴様!」
『さっき言った』
「あのなあ! 叡智の精霊など今時存在するはずもない。遥か昔にその叡智とともに蒼穹の荒野に旅立ったと聞く。そしてこの大地に混沌と停滞が続いて……ま、まさか」
『風に乗って世界を漂っていた我は、目覚めた時から叡智の精霊と自覚した。この世の叡智を集め集積する。それのみが我が生きる証』
「新しく産まれたというのか、この時代に……」

 や、やばい。話についていけない。

「なぜお前がこの人間の体内にいる。こいつは何者なのだ」
『……寝床?』

「はい!」

 俺は挙手をする。黒衣のおねーさんと白い女の子がこっちを見る。ついでに三馬鹿も俺を見る。

「お取り込み中すいません。ひょっとしてあなたは、なんちゃって鑑定の方ですか?」

 コテっと首をかしげる女の子。

「時々に魔獣の解説をしてくれた人ですよね、声でわかります。でもなんで俺の中に、いつの間に入ってたんですか?」
『落ちてた?』
「は?」
『叡智の精霊としての使命に目覚め、風に乗って世界をただ流れていた。ある時、気持ち良さげなマナだまりを見つけて……寝た』

 寝たって……なんなんだよ精霊って、何考えてんだよ。
 あれ? ひょっとして……こいつが俺をこの世界に召喚したのか?

「あなたが俺をこの世界に……」
『?』

 またコテっと首をかしげる。
 違うのかよ!
 じゃあなんで俺はこの世界に来たんだ、なんのために……。
 叡智の精霊って要はウィキかグーグル先生みたいなモンなんだろ、だったら何か知ってるんじゃ……

『Unknown』
「え?」
『全ては未詳、Unknown……全てはアカシャの御心のままに……』
「心の中まで読めるのかよ」
『そなたの言語知識は未知のもの。興味深い。我が使命の琴線に触れた。知識を得るため全ての言語をこの世界の言語に置き換えた』

 ってそんなことができるの? 言葉が理解できるのはこいつのせいか。

「じゃあなぜ話せる? なぜ俺の言葉が通用する」
『お前はすでにこの世界の言語で考え、話している』

 これは……定番の異世界言語魔法っていうやつか? 転生したものが初回特典で無料でもらえる能力。

『眠たい……寝る』
「「待てー!」」

 ハモった。黒衣のおねーさんとツッコミが被った。

「何を意味がわからんことを話している。そんなことはどうでもいいのじゃ。とにかくマナじゃ。こいつのマナを我にもよこせ」
『や』
「なぜじゃ!」
『このもののマナは特別。原始の純粋であった頃のマナの味がする』 
「汚いぞ。同じ上級精霊として少しは我によこしてもいいだろ』
『上位精霊? お前は中位の闇精霊。百年早い』
「う、うるさい! 何が原始のマナの味だ、あんた生まれたばかりだろ」

 げ、このおねーさん盛ってたんだ。
 でも俺の体にはそんな特別なマナがあるというんだろうか?
 だったら精霊魔法や上位魔法も使えるのか? 俺が目指すのは格闘家でも剣士でもなく大魔導師なのか!

『無理』
「心を読むなー!」
『お前はマナを貯めるだけ、産まれながら外へ出す道が開いていない欠陥品』

 なんだよそれ。

「じゃああんたは俺を守ってくれるのか?さっきの光の壁みたいに」
『起きてたら……?』
「寝てたら?」
『無理』

 でも、こいつが起きている間は防御力MAXになるのでは。

「いつ寝てるんだ? 睡眠時間は何時間ほど?」
『……9割?』
「はあ?」
『1日のうち1割くらい起きている』
 
 仕事しろよ、叡智の精霊。

 残念闇精霊が俺を無視してサボりの叡智の精霊に話しかける。

「なんでじゃ 我はダメでなぜ我の眷属はこやつのマナを吸えるのじゃ」

 抱いていた三馬鹿猫を突きつける。

『かわいい?』

 こいつ猫派か。
 そういや猫は安心と快適な寝床があれば、十六~十七時間は寝るという……ってそんなこと思ってる場合ではない。

『寝る』

 白き光の少女は白い粒子となって俺の体の中に消えていった。

 疲れた……。
 こんなの護衛の仕事なわけがない。

 ポンポンと、頭にグデっと乗っている馬鹿猫その一が慰めるように頭を叩く。
 その体をグッと持ち上げた黒衣のおねーさんがそのお腹に顔を埋め、深呼吸をする。

「う~ん、たまらん……そうか」

 ポイっとその一を捨てる。くるっと回転して着地する。さすが腐っても馬鹿猫。

「今日のところは見逃してやろう。だが忠告しておいてやる。叡智の精霊など信用するな。あやつは知識を集めるだけでなんの役にも立たん。お前が命を落としたらまた別のマナ溜まりを探すだけじゃ」

 変わり果てたサラマンダーの石を手に取り、空にかざす黒衣のねーさん。
 石はボオッと光りサラサラと粒子になって風に乗って飛んでいく。

「今度目覚めたら人族などに騙されるなよ」

「帰るぞ!」

 自称上位闇精霊のおねーさんは、輪郭がぼやけ再び黒豹に変身する。
 そして木々の中に消えていった。
 子猫達も追いかけて、消えていく。

 静寂が支配する。

「おーい、生きてるかー」

 夢のような時は終わり現実が戻ってくる。
 倒れた木々の間から懐かしい冒険者達がやってくる。

「死んだかと思ったよー、しぶといのよねえお前」
「あ、ディさん」

 ロサードさんや他の冒険者達も俺を心配して……って、あれ?
 みんなは俺を無視。一心不乱に崩れ落ちた馬車の残骸を漁ってる。

「あったぞ」

 冒険者達が馬車の残骸の中から木箱を拾い上げている。
 鉄で縁取りされた丈夫な千両箱みたいな箱だ。

「よし運んでくれ」

 ロサードさんが冒険者を指揮して無事な荷物を運び出していく。

「荷物の損失はできるだけ少なくしたいんでねえ、まあ仕事だから」

 なんか言い訳に聞こえる。

「大丈夫?怪我はないの」
「は、はい。あ、そうだ。ブエナさんは大丈夫だったんですか」
「なんとか生き残ってるよ。回復魔法をかけてもらって飯食って寝てる」

 飯は食うんだ。

「さあ、帰るぞ、立てるか……それじゃ立てないか」

 あれ? なんとか立ち上がろうとするが立ち上がりにくい。

「なんでお前がここにいる」

 zzz……

 胡座をかいた俺の股間に三馬鹿トリオの一匹が寝ていた。

「なんだそれ」

 ディーさんが変な顔をする。 
 寝ているやつを両手で持ち上げディーさんに見せる。

「あ、あの……捨て猫です。飼っていいですか、はは……」

 野営地に戻る。
 幸い俺の怪我は打撲と擦り傷だけだったので、魔法使いのおねーさんに回復魔法をかけて治療してもらう。骨は折れてなかったみたいだ。

 御者の人たちが荒れた野営地を片付けている。
 冒険者たちは、俺たちを待ち伏せし、襲う前に森の魔獣に殺されてしまった哀れな敵を、穴を掘って死体を焼いて埋めているそうな。
 死んだら敵も味方もないんだなと思ったら、死体漁りに魔獣が寄ってくるのを防ぐため、魔法で焼いて浄化して深く埋めるんだそうな。
 当然武器や金目のものを剥ぎ取って。

 シビアな世界だ。

 俺は全ての作業を免除されて、軽い夕食をとったあと、早々と馬車に戻って休ませてもらった。愛刀鬼切丸は、帰るときに馬車の残骸で見つかった。

 馬車の中にはブエナさんが寝ていた。やがてディーさんも帰ってきた。そして俺。

 ルナステラさんはいない……。
 逃げたのか捕らえられたのか誰も教えてくれなかった。

 疲れた。
 事考えなければいけない事があまりにも多過ぎて、逆に何も考える気がしない……うん、明日考えよう。

 愛刀を片手に俺は横になった……って、なんで隣に馬鹿猫がふにゃーっと寝ている?






















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