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5章 領都プリンシバル
57話 初陣
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風の一日。
朝六時に起床。首筋に食らいついて寝ている今日の当番、精霊獣ミーをそっと横に置きベッドを出る。
今日から臨時講師としての初仕事が始まる。
いつもの様にストレッチ、素振りなどのルーティーンを行い、朝食を食べて着替えをし、魔導科主任アジュール・ファンローズ教授の研究室へ向かう。
学園内なので武器はいらないかとも思ったが、昨日の様な事もあるので、鬼切丸は肌身離さず持っていく。防具とバックパックは部屋に置いていてもいいだろう。
カーキ色のカーゴパンツにカーゴシャツ。白い半袖ジャケット。右肩に刀を吊るし、その上から灰色のフード付きローブを羽織る。
着替えはルナステラさんが洗濯をしてくれている。もちろんパンツは自分で洗っているけれど。
この学園に来た目的は、Dランク昇格条件を満たす事。
自力で領都プリンシバルへ来て、臨時講師として3ヶ月暮らす。
これでロサードさんにDランクへの推薦をもらい、ルナステラさんの従者契約(仮)の(仮)を取る事。
今になって本当に臨時講師をすることが必要なのかどうか、流石に少し疑ってはいるが、それはそれで仕方がない。俺は流れに身を任せ、その日を生きる。……労働条件もいいし。
講師寮を出て公園を抜け、研究室棟が並んでるエリアに着く。昨日のグチャグチャな状態からよくもここまで直せたもんだと思うほど、鉄柵も並木も綺麗に整地されている。ひょっとして魔法で直したんだろうか。
ドアが開けぱなしのアジュール・ファンローズ教授の研究室へ。
最初は挨拶が肝心。
「おはようございま……す?」
残念ながら部屋は昨日と同じ乱雑な風景。それよりも真ん中のテーブルで二人の男性が頭を抱えて座っている。
「あのう、臨時講師のトーマと従者のルナステラですが……」
「やってくれたよ」
「は?」
「流石に初日からはねえだろうと思っていたが、甘かった」
多分助手の人だと思う。スマートな茶髪の男の人と、背の低いずんぐりむっくりな黒髪の男の人が白衣を着て机に突っ伏してブツブツ言っている。
「あの、何かありました?」
「教授ですよ! 頭が痛いので今日は休むんだそうです! どうするんですか、今日は授業初日ですよ!」
「ファンローズ教授が? 病気ですか?」
「二日良いだとよ!」
二日酔い……って流石に呆れた。
「じゃ今日の授業はどうなるんでしょうかね」
「全部任すとよ!」
「うわあ、授業初日からですか、大変だそれは」
「何気楽に言ってるんですか。教授が任すって言ったらあんたに任すという事でしょ」
ずんぐりむっくりさんが立ち上がって俺に言った。
「はあ? いや無理でしょ。俺は今日初めて来たわけですし」
「俺たちは教務助手なの! 直接授業をする資格はないの! そのために臨時講師がいるんでしょ」
「前期も休校や自習で講義数ギリギリだったのに、後期は大丈夫とか言ってたから心を入れ替えて真面目にやってくれるのかと思ったのに、くそっ、やっぱり残念エルフ教授だった」
頭をかきむしり愚痴るノッポな茶髪男。
思わず顔を見合わせるルナステラさんと俺。どうしたらいいのかわからない。
「とりあえず何をすればいいんでしょうか。『召喚魔法基礎Ⅱ』ですよね。どんな授業をするんでしょうか」
なんとかしようとするルナステラさん。
「教授がいないのに授業は無理だと思うけど……、そうだここはひとつ休講という事で仕切り直しを……」
なかったことにしようとする俺。
「だめだ、これ以上休講したら単位が足らなくなる。補講なんて言ったら残念エルフ教授が絶対に出席してくれない。カフナくん、予定通り授業の準備をするぞ」
「わかりましたよ」
凸凹コンビは全てを諦めた様に立ち上がって外へ出ていく。
「「何してるんですか、あんたも来るんですよ」」
二人が振り向いて俺を呼ぶ。
やっぱり……。
召喚魔法基礎と銘打ってはいるが、実際は召喚魔法を学ぶ授業ではない。あくまでも基礎である。だから授業で教えるのはテイマー、魔物使いや魔獣使いの実技である。
前期で召喚魔法の基礎知識や契約魔法を座学で習得した学生が、いよいよ実践として実際の魔物や魔獣を相手にするのがこの授業である。
という様なことを凸凹コンビの助手達が教えてくれた。
ちなみにノッポの茶髪男がポタジェさん、ずんぐりむっくりな黒髪男がカフナさんだそうだ。
鉄柵に囲まれた大きな広場に青色のローブを着た学生が集まっている。どうやらここが野外教室らしい。研究棟横の大きな倉庫を開けると、ギャーギャー、キャキャキャ、ガウガウと鳴き声が響き渡る。倉庫の中には小動物が何十頭も檻に小分けにされ動き回ってる。
「広場まで檻を運ぶぞ、手伝ってくれ」
助手さんたちは台車に乗っけた檻をゆっくり押しながら広場じゃなくて野外教室に運んでいく。
ウサギ、キツネ、小鹿、モグラ、鳥……ってこの動物は何? 移動動物園?
「この動物を使って召喚魔法の実践をします。契約魔法の訓練ですね」
「ええ? 召喚魔法って、魔法陣で魔獣や精霊を召喚して契約するんじゃないんですか?」
「いきなりそんなことできるわけがないでしょ」
そうか、基礎だもんなあ……。
「わああ、何これ何これ?」
「先生この動物何?」
「知らないのかよ、従魔契約の練習をするんだよ 実践だよ実践」
青いローブを着た学生たちが檻の前までわらわらと集まって来た。
「ねえ先生、ドラゴンはいないの? 俺ドラゴンを従魔にしたい」
「んなもんいるわけねーだろ」
「私ガイアベアがいい」
「だからそんなもんいるわけねえって」
「いたもん、私見たもん、昨日ファンローズ先生が呼び出して大暴れしてたの見たもん」
ワイワイガヤガヤ大騒ぎ。
考えたら十三歳の男女、中一くらいか、かしましいったらありゃしない。
「みなさーん、ちゃんと整列してくださーい! 今から召喚魔法基礎Ⅱの授業を始めまーす」
ノッポのポタジェさんが大声で学生さんたちを整列させようとする。
「ファンローズ先生は? また休みなの?」
「はい、ファンローズ教授は急用があって今日はお休みします」
「またあ?」
「その代わり新しく臨時講師となったトーマ先生が代理で授業を行います。先生はアドラーブルから来られたDランクの冒険者で……」
「ちょっと待て。冒険者ってなんだ。俺たちは由緒あるエクリプス学園に一流の教授陣に教えを請うために入学したんだぞ。それをなんで冒険者風情、それも低ランクのやつの授業に出なきゃならん、バカにしているのか!」
ポタジェさんの説明を遮って、偉そうな学生がしゃしゃり出てくる。後ろに取り巻きの様な踏ん反り返った学生が二人。あ、このパターンはきっと貴族のご子息というややこしいやつだ。
「待って! ちょっと待って!」
昨日ガイアベア騒動を見たといったショートヘアの女の子が俺を指差しながら大きな声を出す。
「この人だあ! あ、狼さんもいる! この人、ベアをぶっ倒した人だあ!」
「「「はあ?」」」
「ほんとよ、私見たもん、この人が狼さんと一緒にガイアベアをぶっ倒すの見たもん」
一瞬絶句する偉そうな貴族の息子。
「あんた……ガイアベアを倒したのか?」
疑いつつもちょっとビビりながら俺に質問をする貴族の息子。
「ドラゴンは倒せる? ねえねえ、今まで倒した魔獣の中で一番強い魔獣ってなに?」
「オレやっぱりドラゴンを従魔にしたい。やり方知ってる?」
「おい答えろ! 若様が質問しているだろ」
もうしっちゃかめっちゃか。小動物の喚き声と学生たちの質問がシンクロして、そこにルナステラさんの従魔ザイラの唸り声、肩に乗ってシャーっと威嚇している黒猫ミー。あたふたして収拾がつかなくなる凸凹助手コンビ。
いきなり授業はあさっての方向へ進んでいく。
ほんとにほんとに大丈夫なのかこの学園。
朝六時に起床。首筋に食らいついて寝ている今日の当番、精霊獣ミーをそっと横に置きベッドを出る。
今日から臨時講師としての初仕事が始まる。
いつもの様にストレッチ、素振りなどのルーティーンを行い、朝食を食べて着替えをし、魔導科主任アジュール・ファンローズ教授の研究室へ向かう。
学園内なので武器はいらないかとも思ったが、昨日の様な事もあるので、鬼切丸は肌身離さず持っていく。防具とバックパックは部屋に置いていてもいいだろう。
カーキ色のカーゴパンツにカーゴシャツ。白い半袖ジャケット。右肩に刀を吊るし、その上から灰色のフード付きローブを羽織る。
着替えはルナステラさんが洗濯をしてくれている。もちろんパンツは自分で洗っているけれど。
この学園に来た目的は、Dランク昇格条件を満たす事。
自力で領都プリンシバルへ来て、臨時講師として3ヶ月暮らす。
これでロサードさんにDランクへの推薦をもらい、ルナステラさんの従者契約(仮)の(仮)を取る事。
今になって本当に臨時講師をすることが必要なのかどうか、流石に少し疑ってはいるが、それはそれで仕方がない。俺は流れに身を任せ、その日を生きる。……労働条件もいいし。
講師寮を出て公園を抜け、研究室棟が並んでるエリアに着く。昨日のグチャグチャな状態からよくもここまで直せたもんだと思うほど、鉄柵も並木も綺麗に整地されている。ひょっとして魔法で直したんだろうか。
ドアが開けぱなしのアジュール・ファンローズ教授の研究室へ。
最初は挨拶が肝心。
「おはようございま……す?」
残念ながら部屋は昨日と同じ乱雑な風景。それよりも真ん中のテーブルで二人の男性が頭を抱えて座っている。
「あのう、臨時講師のトーマと従者のルナステラですが……」
「やってくれたよ」
「は?」
「流石に初日からはねえだろうと思っていたが、甘かった」
多分助手の人だと思う。スマートな茶髪の男の人と、背の低いずんぐりむっくりな黒髪の男の人が白衣を着て机に突っ伏してブツブツ言っている。
「あの、何かありました?」
「教授ですよ! 頭が痛いので今日は休むんだそうです! どうするんですか、今日は授業初日ですよ!」
「ファンローズ教授が? 病気ですか?」
「二日良いだとよ!」
二日酔い……って流石に呆れた。
「じゃ今日の授業はどうなるんでしょうかね」
「全部任すとよ!」
「うわあ、授業初日からですか、大変だそれは」
「何気楽に言ってるんですか。教授が任すって言ったらあんたに任すという事でしょ」
ずんぐりむっくりさんが立ち上がって俺に言った。
「はあ? いや無理でしょ。俺は今日初めて来たわけですし」
「俺たちは教務助手なの! 直接授業をする資格はないの! そのために臨時講師がいるんでしょ」
「前期も休校や自習で講義数ギリギリだったのに、後期は大丈夫とか言ってたから心を入れ替えて真面目にやってくれるのかと思ったのに、くそっ、やっぱり残念エルフ教授だった」
頭をかきむしり愚痴るノッポな茶髪男。
思わず顔を見合わせるルナステラさんと俺。どうしたらいいのかわからない。
「とりあえず何をすればいいんでしょうか。『召喚魔法基礎Ⅱ』ですよね。どんな授業をするんでしょうか」
なんとかしようとするルナステラさん。
「教授がいないのに授業は無理だと思うけど……、そうだここはひとつ休講という事で仕切り直しを……」
なかったことにしようとする俺。
「だめだ、これ以上休講したら単位が足らなくなる。補講なんて言ったら残念エルフ教授が絶対に出席してくれない。カフナくん、予定通り授業の準備をするぞ」
「わかりましたよ」
凸凹コンビは全てを諦めた様に立ち上がって外へ出ていく。
「「何してるんですか、あんたも来るんですよ」」
二人が振り向いて俺を呼ぶ。
やっぱり……。
召喚魔法基礎と銘打ってはいるが、実際は召喚魔法を学ぶ授業ではない。あくまでも基礎である。だから授業で教えるのはテイマー、魔物使いや魔獣使いの実技である。
前期で召喚魔法の基礎知識や契約魔法を座学で習得した学生が、いよいよ実践として実際の魔物や魔獣を相手にするのがこの授業である。
という様なことを凸凹コンビの助手達が教えてくれた。
ちなみにノッポの茶髪男がポタジェさん、ずんぐりむっくりな黒髪男がカフナさんだそうだ。
鉄柵に囲まれた大きな広場に青色のローブを着た学生が集まっている。どうやらここが野外教室らしい。研究棟横の大きな倉庫を開けると、ギャーギャー、キャキャキャ、ガウガウと鳴き声が響き渡る。倉庫の中には小動物が何十頭も檻に小分けにされ動き回ってる。
「広場まで檻を運ぶぞ、手伝ってくれ」
助手さんたちは台車に乗っけた檻をゆっくり押しながら広場じゃなくて野外教室に運んでいく。
ウサギ、キツネ、小鹿、モグラ、鳥……ってこの動物は何? 移動動物園?
「この動物を使って召喚魔法の実践をします。契約魔法の訓練ですね」
「ええ? 召喚魔法って、魔法陣で魔獣や精霊を召喚して契約するんじゃないんですか?」
「いきなりそんなことできるわけがないでしょ」
そうか、基礎だもんなあ……。
「わああ、何これ何これ?」
「先生この動物何?」
「知らないのかよ、従魔契約の練習をするんだよ 実践だよ実践」
青いローブを着た学生たちが檻の前までわらわらと集まって来た。
「ねえ先生、ドラゴンはいないの? 俺ドラゴンを従魔にしたい」
「んなもんいるわけねーだろ」
「私ガイアベアがいい」
「だからそんなもんいるわけねえって」
「いたもん、私見たもん、昨日ファンローズ先生が呼び出して大暴れしてたの見たもん」
ワイワイガヤガヤ大騒ぎ。
考えたら十三歳の男女、中一くらいか、かしましいったらありゃしない。
「みなさーん、ちゃんと整列してくださーい! 今から召喚魔法基礎Ⅱの授業を始めまーす」
ノッポのポタジェさんが大声で学生さんたちを整列させようとする。
「ファンローズ先生は? また休みなの?」
「はい、ファンローズ教授は急用があって今日はお休みします」
「またあ?」
「その代わり新しく臨時講師となったトーマ先生が代理で授業を行います。先生はアドラーブルから来られたDランクの冒険者で……」
「ちょっと待て。冒険者ってなんだ。俺たちは由緒あるエクリプス学園に一流の教授陣に教えを請うために入学したんだぞ。それをなんで冒険者風情、それも低ランクのやつの授業に出なきゃならん、バカにしているのか!」
ポタジェさんの説明を遮って、偉そうな学生がしゃしゃり出てくる。後ろに取り巻きの様な踏ん反り返った学生が二人。あ、このパターンはきっと貴族のご子息というややこしいやつだ。
「待って! ちょっと待って!」
昨日ガイアベア騒動を見たといったショートヘアの女の子が俺を指差しながら大きな声を出す。
「この人だあ! あ、狼さんもいる! この人、ベアをぶっ倒した人だあ!」
「「「はあ?」」」
「ほんとよ、私見たもん、この人が狼さんと一緒にガイアベアをぶっ倒すの見たもん」
一瞬絶句する偉そうな貴族の息子。
「あんた……ガイアベアを倒したのか?」
疑いつつもちょっとビビりながら俺に質問をする貴族の息子。
「ドラゴンは倒せる? ねえねえ、今まで倒した魔獣の中で一番強い魔獣ってなに?」
「オレやっぱりドラゴンを従魔にしたい。やり方知ってる?」
「おい答えろ! 若様が質問しているだろ」
もうしっちゃかめっちゃか。小動物の喚き声と学生たちの質問がシンクロして、そこにルナステラさんの従魔ザイラの唸り声、肩に乗ってシャーっと威嚇している黒猫ミー。あたふたして収拾がつかなくなる凸凹助手コンビ。
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