父子で異世界転生: いいんですか? 救いますよ。世界。

かんのななな

文字の大きさ
4 / 21

ペリー来寇

しおりを挟む
 前回までのあらすじ。
 緋袴イッペイは息子のテツロウとともに異世界に転移し、召喚者の華凛から姉イバラの阻止を依頼された。
 一方、異世界側の勢力も胎動をはじめる。
 久遠商会。忘却混沌都市アザゼル。
 聖地グンルーンに戦火がせまっていた。

◆◆◆

 地下室は緋袴イッペイとテツロウの居室になった。野戦用の簡易寝台が運びこまれ、寝泊まりできるようになっている。
 椅子も持ちこまれ、勉強の環境が整った。

 異世界であっても、否、異世界なればこそ、テツロウは受験戦士でありつづける。それが、それだけが、母のいる世界に還るための鍵なのだ。

 開いているのは『社会コアプラス』だ。
 アテンション・プリーズ。
 『コアプラス』を習得してようやく、進学塾『エデュクス』の生徒を名乗ることができる。それほどまでの、基礎にして真髄たる問題集だ。
 ちなみに『理科コアプラス』もある。

「一八五三年に……」
「ペリー」
「翌一八五四年、ペリーと江戸幕府の間に……」
「日米和親条約。下田、函館」

 くりかえしすぎたテツロウはもはや紙面をまるごと記憶してしまっている。受験勉強にはよくあることだ。

「それじゃあ……ペリーはどうやって日本に来たと思う?」
「えっと……太平洋を横断して、じゃないの?」
「ここの「参考」にちいさく書いてあるだろう。太平洋の横断は、むしろ開国要求の目的だ。ペリーは南大西洋から希望峰を回り、インド洋経由でマラッカ海峡を抜けて、日本を目指したんだ」
「あっ……そうか、日本が開国しないと太平洋を横断する航路を実現できないんだね……」
「そういうことだ。すこし歴史のはなしをしようか」

◆◆◆

 ここではないどこか、そこではない世界の、ありえたかもしれない歴史のはなしをしよう。

 嘉永六年(一八五三年)、浦賀沖に《合衆国》東インド艦隊に所属する四隻の軍艦が錨を降ろした。旗艦は原子力戦列艦エンタープライズである。
 「泰平の眠りを覚ます上喜撰たつた四杯で夜も眠れず」なる狂歌の「上喜撰」が原子力機関の水蒸気に掛かっているのは読者諸氏もご存知だろう。

 嘉永七年(一八五四年)、マタイ・ペリーが五隻の戦闘艦と一隻の補給艦を率いて浦賀沖に戻ってきた。そのときすでに、トクガワ・ショーグネイト、つまり徳川幕府は覚悟完了していた。

 三浦半島と房総半島に応急陣地が構築され、スモトリが配備された。後の江戸湾要塞の萌芽となる施設群である。
 スモトリの波動鉄砲で敵海洋戦力を漸減し、機動台場に搭乗したサムライ・ソード・メンが斬り込んで邀撃する。幕府軍の作戦方針はそう定められた。

 しかし、南北聖霊戦争を戦い抜いた《合衆国》海軍は、戦列艦エンタープライズに第六階位天使を搭載し、航空作戦能力を獲得していた。

 双方ともに意図と戦力を見誤ったまま、浦賀水道海戦が開戦してしまった。発端は海防艦スループサラトガの座礁である。

 幕府軍は第六階位天使による空中観測に驚愕した。半年かけて築いた陣地がまたたく間に灰燼に帰した。戦列艦と護衛艦フリゲートに搭載されたライフル砲は、驚くべき精度を発揮したのである。

 スモトリの被害は奇妙なほどに少なかった。
 スモトリは壊滅した堡塁から這いだし、散開し、機動的な砲運用を開始した。なかには、独自に対空張り手を考案した者もいた。

 トクガワ・ショーグネイトの軍制下では、スモトリは兵ではなく、砲として扱われる。
 《力士》という言葉を思いだしていただきたい。彼らはニッポンでもっともフィジカルに優れた者たちなのだ。

 墜落していく第六階位天使たちにペリーは驚きを禁じ得ない。すでに二個小隊の天使を損耗している。
 沿岸要塞に痛撃を加えたにもかかわらず、幕府軍の砲兵は活発な運動を継続している。彼らの対空砲撃は、キャニスター弾の三次元版に見えた。

「くはぁ」と、ペリーは秀でた額をたたく。「砲術長、焼夷弾だ。ここで使おう」
「はっ。左舷副砲、弾種焼夷弾、目標敵砲兵。用意」
「信仰なきスモウレスラーたちは激しい炎熱で焼かれて死ぬべきである」
 ペリーは新約聖書を引用した。
 ペリーは敬虔なメシア教徒である。
 フリーメイソンでもある。

 この時点で、護衛艦フリゲートミシシッピが中破、海防艦スループサラトガが小破している。
 エンタープライズは無傷だった。
 スモトリへの焼夷弾攻撃により、《合衆国》が優位に立ちつつある。

 幕府軍総司令部は決断した。
 機動台場に搭乗したサムライ中隊が突撃を発起する。
 身を焼かれながら、スモトリたちは支援砲撃を継続した。
 ついに、サムライたちがエンタープライズに突入した。

 迎え撃つのは精強で知られる██人《海兵隊》だ。

 ██人に歩兵銃は通用しない。
 ゆえに、幕府軍は斬り込み戦術を択ばざるをえなかった。

 皮肉なことに、██人の存在こそが、浦賀水道海戦以降のニッポンが攘夷思想で団結できた原因である。
 つまりは夷狄が本当に化け物だったから。

 突撃は失敗し、サムライたちは全滅した。
 《海兵隊》も痛手を負ったが、戦列艦エンタープライズは十全な戦闘力を保持している。

 江戸城は紛糾した。
 原子力戦列艦が保有する決戦兵器なんて、誰にでも想像がつく。江戸に熱核兵器をぶちこまれるわけにはいかない。
 だから、浦賀水道で止めなければならなかった。それが作戦だった。もはや、幕府軍にエンタープライズを止められる火力はない。

 抗戦か。降伏か。
 その議論は唐突に打ち切られた。

 江戸湾への侵入を開始した《合衆国》東インド艦隊旗艦、原子力戦列艦エンタープライズが、まばゆい光に包まれたのである。

 光のなかで、軍艦の黒い影がねじれ、よりあつまり、一本の曲線になり、最後には見えなくなった。

 光が収まったとき、エンタープライズは消失していた。誰もが原子力事故を疑ったが、放射能は検出されなかった。

 江戸城では、神風が吹いたということで落ち着いた。実際、敗北寸前まで追いつめられ、首の皮一枚で助かったのは事実である。
 早速、出雲のスモトリと西国のサムライの招集をかけながら、東インド艦隊残存艦艇との停戦交渉を模索するのだった。

 不平等条約を回避したニッポンは、かくして《合衆国》との全面戦争への道を歩みだしたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...