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二章
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しおりを挟む―ガチャンッ!
肩を大きく跳ね上げた。背後から聞こえた施錠音。聞き慣れたそれが妙に重々しく聞こえたからだ。
『ヒロ、おかえりなさい』
「う、うん……ただいま」
靴を脱ぐと、早速、と言わんばかりにナオは俺の首に手を回し、ぎゅうっとハグをしてきた。
『やっと2人になれたね?』
「……ぉぅ…」
弾んだ声にぎこちなく頷いた。
あれから施設を出て、そのままマンションに戻ってきた。来多から伝えられた通り、会社へ休暇申請はされていたようで、携帯には所長から休暇承認の連絡が届いていた。どうやら俺は通り魔に襲われ、一時的に警察の保護を受けていたことになってるらしい。
所長に業務連絡をしつつ、次から次へと送られてくる同僚や取引先からのメールに目を通しながら、ふと考えた。
…今日休む必要あるか……?休んだところで仕事は溜まる一方だし、取引先に迷惑かけれない。病気ってわけじゃないし、休暇を取り消してもらって今から出社するべきじゃないだろうか……
そう思案したときだ。スポッと手から携帯が消えた。
「あ」
顔を上げれば、携帯は宙を飛んでいて、瞬きする間もなくゴトッと床に落下する。
「ちょっ―……な、なにしてんの…っ、……!?」
口をあんぐり開けた。一瞬のことで何が起きたのか分からなかった。ナオが俺の携帯を奪って、放り投げたんだ。まるでゴミでも捨てるような手つきだった。幸い、ケースがあるので画面が割れる心配はないが、呆然と固まっていると、体がふわりと浮遊する。
『ヒロ、まずはシャワー浴びよう?』
「…っ…い、いやっ、…ちょっと降ろせって……メール返信しなきゃいけねぇから…っ」
流れるようにお姫様抱っこをされてしまう。あたふたしてるのは俺だけのようだ。ナオは何食わぬ顔で、廊下を突き進む。
『返信なら僕がしておくよ』
「は―……?」
何を言ってるんだ?と怪訝な顔をするが、床に投げ捨てられた携帯の傍を横切ったとき、ギョッと目を見開いた。
携帯画面。そこは誰も触れていないのに、キーボードが高速で反応し、次々にメール文書が作成されていた。ナオは世界屈指のシステムに入り込むくらいだ。別の動作をしながら、俺の代わりにメールを返すことくらい造作もないことなんだろう。
…そういえば、いつの日か、仕事の資料を手伝ってもらったことがあった。あのときは、最近のアンドロイドはなんて万能なんだと感心していたが、もしかしたらナオが特別優秀なだけなんじゃないか……。いかんせん、他の恋人型アンドロイドの性能を知らないので、比較のしようがないが……。
《中身変わりました?》という犬飼からのチャット通知を遠目に見ながら、そう思った。
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