55 / 112
二章
19b
しおりを挟むふと顔を上げる。そうすれば部屋の隅に控えていた警察型アンドロイドの彼が一歩前へ前進した。
「これはN-t53。世間では、“警察型アンドロイド”という呼び名で知られているはずです」
「は、はい」
「ご存知かもしれませんがN-t53は政府の厳重な検査のもと製造されたアンドロイドです。武力に特化していることはもちろん、特別な人工知能を搭載してますので、その化け物に洗脳される心配がない―……つまりは安全な設計になっているんです」
「は、はあ…」
…“洗脳”というのは“乗っ取り”のことだろうか……?何はともあれ、武力に特化しているアンドロイドが安全といえるのか……
来多の説明にたどたどしく相槌を打っていると、N-t53はベッドの傍にサッと移動し、恭しく片膝をついた。
「―ですので、もし助けが必要な場合はこれを呼んでください。真山さんの盾になりましょう」
『……………』
N-t53は無言のままジッと俺を見つめる。一瞬、俺にべったりと張り付くナオへ視線を動かしたが、興味なさげに、また視線を戻す。
「呼ぶ手段ですが、緊急通報アプリからお願いします。基本的に真山さんの生活圏内に待機させてますので呼び出しがあれば直ぐに駆けつけます。…尤も、そうならないのが望ましいですが」
「…分かりました」
息を吐いた。現状は変わらないが、警察がすぐに動いてくれるのなら心強い。ほんの少しだけだが胃のキリキリ具合も和らいだ気がする。
腹のあたりをさすっていると、来多は「あはは」と笑う。
「真山さん、そんなに思い詰めないでください。良かったじゃないですか。これからきっと、胸焼けするほどの甘い生活が待ってますよ。宝くじが当選したと思って、喜べばいいんじゃないでしょうか。今日だって真山さんの口座に―……っとこれは私の口から言わないほうが良さそうですね」
「?」
首を傾げた。来多が、ナオの方を見てヒクッと顔を強張らせたのだ。釣られて俺もナオを見る。しかしナオは相変わらず俺の手を握って、ハートを振り撒きそうな可愛らしい笑顔を浮かべているだけだ。
『ヒロ、どうかした?』
「いや……」
その時、「猫かぶりがお上手なことで……」という呆れた声が聞こえたのと同時に、ちゅっ…とナオに唇を塞がれてしまう。
「…まあ、分からないことがあればN-t53に訊いてください。…さて、私は真山さんの持ち物とスーツを持って来ますので、少々お待ちくださいね」
「あ、はい………」
結局来多は何者なんだろう。完全に訊くタイミングを逃してしまった。彼が出て行って、なんとも言えない空気が流れる。N-t53は跪いたまま石像のように動かない。ただジッと俺を見つめているだけだ。
「あの…、もしもの時は宜し―……」
『ねえヒロ』
その視線に居心地の悪さを感じ、彼に声を掛けようしたときだ。ナオの声が被さり、ぐいっと引っ張られた。
「う、うん?」
『聞いたよ。今日は一日休みになったんでしょう?』
「え?……………ああ、そう、だけど…」
いつの間に知ったのか。戸惑いながら頷く。
…というかなんだろう。ナオの笑顔に凄みを感じる。単に、美しいから、というだけじゃない。罠にかかった獲物を眺めるような、そんな満足感が艶やかに弧を描く唇と、三日月に歪む目元から溢れてるんだ。背筋がぶるっと震えて、本能的に距離を作りたくなるが、指を絡めた手はぎゅうっと力強く握られており、振り解けない。
『これからどこにも寄らない?すぐ帰る?』
「ああ、うん、そうするつもり……」
『そうだよね。早く2人きりになりたいもの』
一気に詰め込まれた情報量に脳が悲鳴を上げているので「早く帰って休みたい」という意味で肯定したわけだが、どうやらナオにはそのニュアンスで伝わらなかったらしい。
ナオは俺の耳朶をかぷかぷと甘噛みしたあと、ウットリとした声で囁いた。
『……帰ったら、僕のことだけ考えてね?』
やけに大きく聞こえた囁きは脳内でじわりと広がり、ゾクッと体の芯を疼かせる。
その一瞬、ナオとN-t53の視線が冷たく絡み合っていることに、俺は少しも気付かなかった。
31
あなたにおすすめの小説
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)は、見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良ワーウルフの悪友(同級生)まで……なぜかイケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、異世界学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる
桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」
首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。
レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。
ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。
逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。
マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。
そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。
近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
【花言葉】
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。
◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス
人気俳優に拾われてペットにされた件
米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。
そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。
「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。
「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。
これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる