あの世、内見しませんか?

皐月 翠珠

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当店のスタッフをご紹介させて頂きます

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「…」
 天堂は今、白黒の扉を前に緊張の面持ちで立っていた。【サンズ不動産】と書かれた看板を見上げ、扉の取っ手に手を掛けようとしたり腕組みをして悩んでみたり落ち着かない様子である。
 癖のある不動産鑑定士、今際幽から受けたアルバイトの誘いに乗って三日。今日は土曜日、学校は休みだ。どうせなら初日は一日働ける方が色々と話をするのに都合がいいと言われたので、本日初出勤という事になる。
(すっげぇ今更だけど、ここホントに大丈夫なのか?)
 死んだ人間が住む物件を扱う不動産屋、サンズ不動産。説明を聞いていた時は納得したものの、冷静に考えてあの世というものが当たり前に実在するていで話を進めるなんて非現実的ではないのかとその場にしゃがみ考え込む。
 新手の詐欺ではないのかという可能性も頭を過った。今のところ何かを買わせられそうになるような事はないが、こういうのは何が入り口かわからないとも聞く。
(何だっけ、こういうの…れーかんしょーほー?)
 油断して心を開いたところに、何か胡散うさん臭い壺やらブレスレットやらを勧められたらどうすればいいのか。天堂の脳裏には、頭から布を被り怪しげな笑みを浮かべる今際の姿が思い浮かぶ。
 だが、金を稼がなくてはならないのも事実なわけで。しばらく自問自答を繰り返した結果、もうなるようになれと覚悟を決めて立ち上がりガラッと扉を開けた…その時。パンパンッと何かが弾ける音と共に目の前に人影が現れた。
「おっはようございま~す!遅刻せず来たね、感心感心…って、あれ?」
 どうかした?と首を傾げる今際の視線の先には、驚きで止まりそうになった心臓をゼェゼェと荒く呼吸をしながら落ち着かせようとしている天堂の姿。
「そんなに緊張するなんて、案外肝っ玉小さいんだねぇ」
「これは緊張じゃねーよ!誰のせいだと思ってんだ!」
「え~、もしかしてボクのせい?」
「他に誰がいんだよ!」
 心外だな~と大袈裟おおげさに肩をすくめながら、今際は床に落ちた折り紙の破片はへんを拾う。
「新しい仲間を歓迎しようと一生懸命手作りしたんだよ?逝ちゃんが」
「てめぇが作ったんじゃねーのかよ!」
 ドヤ顔の今際の隣で、眼鏡をかけた女がグッと親指を立てる。
 さあさあ中へどうぞと促され、三日前とは違いカウンターの奥まで入ると、そこには向かい合うように並んだ机が四台と一番奥に一回り大きな机が一台置かれている。それぞれの机にはノートパソコンが一台ずつ、そして手前側左手の机はきちんと整理されているが、右手の奥の机はファイルやら書類やらで天板てんばんが見えなくなるほど埋め尽くされていた。
「この散らかった机、あんたのだろ」
「わ~、すごい。何でわかったの?」
「逆に何で自分じゃないと思われると思ってたんだよ」
 黒い制服をきちんと着こなし、長い髪を綺麗なお団子にまとめているような女性の机が散らかっていると考える人間はなかなかいないだろう。
「まあいいや。天堂君の席は彼女の向かい側、ボクの隣ね」
「…」
「そんなに喜んでもらえるなんて嬉しいな~」
 心底嫌そうな顔をしている人間を前に、喜んでいると思えるその神経はどうなのか。最早もはやツッコむのもアホらしくなった天堂は、黙って椅子に鞄を置く。
「さて、じゃあまずはウチのスタッフを紹介しようか。店長がちょっと出てるんだけど、もうすぐ戻るってさっき連絡が…」
 噂をすれば影、ちょうど今際がそう言ったところで入り口がガラリと開く。
 そこに立っていたのはスーツを着ていてもわかるほどゴツい男。身長もかなり高く、扉を越してしまっているので体をかがめながら中に入ってくる。顔つきも強面こわもてで、喧嘩に慣れている天堂も思わず委縮してしまうような雰囲気をかもし出していた。
(デカッ)
「店長~、おかえりなさい。ナイスタイミングです。今まさに天堂君にスタッフを紹介するところだったんですよ~」
「そうか」
 体つきから想像できる通りの低く重みのある声。何も知らない人間が彼を見たら、まず間違いなくカタギではないと判断するだろう。実際、あの世の物件を扱うような店の責任者なのだから普通の人間ではないのだが。
 一番奥の机に鞄を置き、脱いだ背広をかたわらのハンガーに掛けた男は天堂の目の前に立った。
「初めまして。店長を務めている菩薩ぼさつ土冥とくらです。日下天堂君だね?」
「う、うっす」
 完全に気圧けおされている天堂は、顔を引きらせながら何とか返事をする。そんな彼の顔を見下ろす菩薩は、上から下までじっくりと見つめるとニコーッと笑顔を浮かべた。
「助かるよ。よく引き受けてくれたね」
「へ?」
「いやぁ、なにぶん人手不足でね。昨今は業務の幅が広がっていて、てんてこ舞いだったんだよ。日下君は若いし、力仕事がある事もあるから頼りにしているよ」
「いだだだだ」
 バシバシと両肩を叩く力が強い。体格的なものとは別に、期待の念もガッツリと込められている気がする。
「何にせよ、これからよろしくね」
「うっす」
「あ、出張のお土産があるんだ。お一つどうぞ」
「ど、ども」
 はいと渡された饅頭まんじゅうを受け取った天堂は、痛む両肩を気にしながらも見た目に反して柔らかい対応に戸惑いを隠せない。それを見た今際は、笑いながら天堂の背中を叩いて言った。
「店長はこんな見た目だけど、中身はとても優しいんだよ~。まさに菩薩様でしょ?店長~、ボクにもそれくださいよ~。あの世名物の極楽饅頭まんじゅうでしょ~?これぞ本当のってね~」
「お前はまずこの間の契約の後処理をしろ」
「とまあこの通り、なぜかボクにだけは厳しいんだけどね~」
 首根っこを掴まれながら笑っている今際に、天堂は改めて彼が変人だと確信する。
「どうぞ、お茶です」
「うおっ」
「お、逝ちゃん気が利くね~」
 気配もなく後ろから湯呑みを差し出されビクッと後ずさる天堂とは対照的に、やっぱり饅頭まんじゅうには緑茶だよね~と呑気な事を言っている今際。
「前にここに来た時もいたから顔は覚えてると思うけど、紹介するね~。ウチの店の紅一点、往生おうじょういくちゃんで~す。事務員として働いてもらってま~す」
「よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」
 淡々と挨拶する往生につられ、天堂も頭を下げる。こちらはこちらで表情筋が機能していないので、イマイチ何を考えているのか読み取りづらい。あと、シンプルにこれくらいの年代の女と接する機会があまりないのでどうしていいかわからない。
「というわけで、ボクを入れたこの三人がサンズ不動産の従業員だよ。そしてそして、新しく晴れて貴重な雑用係であるキミが加わるというわけだ!」
「間違っちゃいねぇけどハッキリ雑用って言われると腹立つな、おい」
 いかつい見た目の優しい店長に感情のわからない事務員、そして飄々ひょうひょうとした言動で絶妙に掴みどころのない不動産鑑定士。三者三様に癖が強い。本当にこの面子の中でやっていけるのだろうかと、店の前にいた時とは違う意味で不安に駆られる天堂だった。
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